第62話 再会

「なぁ、わしら飛行機でひとっ飛び出来るのに、何で馬車なんじゃ。」

「いいでしょ。

 権蔵さんもたまには私たちに付き合いなさい。」

「は、はい。

 …で、でもなぁ…。」

 馬車の御者席には江田島。

 客室には奥方と子供たち。


「飛行機ならいいんだぞ…

 でも、馬はなぁ…。」

 御者台で愚痴る江田島をよそに、オープンデッキの奥方たちは談笑中だった。


 途中、御者台にアキラがよじ登ってくる。

「と~ちゃん、これからどこいくの?」

「ああ、ノイスの道場見学だ。」

「なんで、お母さんたちもついてくるの?」

「わしが聞きたい…。」

 アキラは四歳、エミリーも三歳になった。

 時折見せるアキラの言動に危機感を持っている江田島は、彼を何かと気にかけていた。

 アキラも知ってか知らずか、そんな江田島に懐いている。


「今から、ママたちの集まりがあるのよ。」

 嬉しそうに話すパティー。

 ミランダとルーシー、ミルが一列に並び、その上をエミリーが楽しそうに渡り歩いている。

 パティーの隣では、絹江が土産の明細に目を通している。


 ノイスとサイネスが再興し、ラインも落ち着きを見せて三年がたった。

 未だ近隣諸国の政情不安は変わらないが、難民の流入も一服し、国内の治安も安定してきた。

 何より奥方衆が合いたいということで、ノイスの道場落成式も兼ねて集まることになったのだ。


 江田島たちがノイスに着く頃、クローネたちも到着する。

「あなた、ご無沙汰してます。」

「クローネ、相変わらずのべっぴんさんだ。」

 御者台同士で挨拶を交わす二人、江田島の隣でアキラが不思議そうな顔をする。


「アキラだ。

 ほら、クローネママにご挨拶を。」

 促され、御者台の上で立ち上がりお辞儀をするアキラ。

「クローネお母さん。

 こんにちは、アキラです。」

「まぁ、行儀の良い事。」

 小さく手をたたきにこやかな顔のクローネに、照れ笑いをするアキラ。

「クロ姉ぇっ!」

 客室の全員が立ち上がり、クローネの方へ手をふる。

 クローネの馬車からは、マクスたちが降りてきて、江田島たちの馬車に歩み寄っていく。

「あなた、こんばんはヨロシクね。」

「ああ、こちらこそ。」

 江田島とクローネは赤面しながら言葉をかわし、ミユウの方を見る。

 ミユウの足元には女の子が二人居る。

「双子だったのよ。」

「そうか。おめでとう。」

「ありがとう。」


「ねぇ、私もお邪魔していい?

 クローネ。」

 いつの間にか二人の間に割って入っているメアリ。

「別に寝所は準備してるから、みんな家に入ってもらえる?」

「お、おう。」

 馬車を係留し、家に入る御一行。

「ただいま…。」

 クローネの口から漏れる言葉に

「おかえりなさい。」

 優しくハグで答えるメアリ。

 この家は、クローネの家を改装していたのだ。


 ◇ ◇ ◇


 翌日、街の主だった人々も招き、ノイス道場の開所式が行われ、ロイとマクスによるこけら落としの試合が行われた。


「こいつは…。

 もう、わし負けるかも。」

 コロコロ笑う江田島をよそに、聴衆は二人の攻防に息を呑んでいた。

 決定的な決着はつかなかったものの、五分に渡る激突は後年の語り草となり、門下生が増えることになる。


 さて、試合も終わり、三々五々人が解散する中、江田島のところに孫の顔見せをする息子たち。

「およ、タウスのところは、嫁さん二人か。

 結構結構。」

 モリオンが真っ赤な顔で恐縮し、娘たちを嫁がせてすっかり晴れやかな顔のメアリ。

 隣には、ロイが四つ子を抱きかかえ、ルーが傍に立っている。

「ロイもパパかぁ…。

 後何人ぐらいもうけるんだ?」

「オヤジ、勘弁してくれっ!」

 笑う江田島を嗜むロイだが、ルーは赤面しながら、お腹を擦っていた。

(これは、テリーにも早速連絡しないとな。)

 幸せそうな夫婦の顔を見ながら、テリーへの土産話しが出来たことに満足する江田島。


「お父さん、ご無沙汰してます。」

「おう…どれどれ、これはまたべっぴんな子たちが産まれたな。」

 ミユウが連れてきた女の子たちの頭を撫でる江田島。

「マクスもパパか…ガンバレよ。」

 マクスの顔を見るとモジモジしている。

 不思議な顔をする江田島。


「ま~くん、もう一つ報告があるんでしょっ!」

「???」

「と~ちゃん、サイネスでも、道場が作られることになったよ。」

「おお、そうかぁっ!」

 マクスの両肩をパンパン叩いて喜ぶ江田島。


「もう一つあるでしょっ!」

「???」

 いよいよ話の見えない江田島。


 すると、ミユウがクローネとマユミを連れてくる。

 クローネが申し訳無さそうに江田島に事情を話す。

「…そうか、マユミも娶ったわけか。」

 小さく頷くマクス。

「ミルには話したのか?」

 首を横にふるマクス。

「分かった、わしも一緒に話そう。

 マユミとクローネも付いて来てくれ。」

「お父さん、私は?」

「ミユウは、ここで待っておきなさい。」

 江田島に促され、留まるミユウ。

 マクスたちを連れ、ミルのところへ向かう江田島。

 しばらく談笑の後、マクスにゲンコツを落とすミル。

 そして、クローネとマユミに頭を下げていたが、最後には女性陣三人が抱き合いワンワン泣いていた。


 そこに、メアリが、こちらもモリオンを従え、江田島のところにやって来た。

 こちらも、似たような話だったのかもしれない。

 ロイが呼ばれて、江田島がゲンコツを落とした後、ルーが呼ばれ、ルーのビンタも炸裂したところで、こちらも女性陣が抱き合い、ワンワン泣き始めた。


(不思議な家族よね、実際。)

 マユミの妊娠に何の不安も心配も感じていないミユウ。

 むしろ母親から聞いていた獣人の性質上、やむ無しと思っていたのだ。

(ルーも、これでモリオンさんを姉として慕うことができそうだわ。)

 集まっていた人が落ち着き、三々五々に分かれていく。


(…おキヌ姉ぇたちは、どうするんだろう?

 メアリママやクローネママにも子供が必要なんだけどなぁ…。)

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