第61話 妻として親として

 サイネスは本日も快晴。

 気温も穏やか。

 若干乾燥気味ではありますが…。


「…で、ミユウちゃんを妊娠させたのは本当の事?」

「…はい、か~ちゃん。」

 食台に向き合う親子ミルとマクス

 そして、息子の返事を聞くやいなや、両の拳で息子のこめかみをグリグリし始める母。

「か~ちゃん。

 いたい、いたい。」

「お仕置きだぁ~~。」

 本当に痛がっている息子と、楽しそうに息子をいたぶる母親。


「ね、ねぇ、ミル…。」

 横からクローネが割り込もうとする。

「一応、マクスは私の息子よ。」

「そうですよ、ミル姉ぇ。」

 いつの間にか、クローネの横には、少しふっくらとしたミユウも立っている。


「あらら、新婦登場か…。

 こりゃ、お仕置きはここまでか。」

 ミルのいたぶり…もとい、可愛がりも終わり、開放されるマクス。


 ◇ ◇ ◇


「…で、今日はミル一人で来たの?」

「ルーシーも一緒よ。」

 出されたお茶を飲むミルと、向かいに座るクローネ。

「ルーシーってことは、政治面の話。」

「そっ。

 スフランが荒れまくって、サイネスへ難民が多数来るかもしれないんで、その為の打ち合わせだそうよ。」

「行商の方から、噂話程度に聞いていたんだけど…。

 そこまで。」

「うん、ルーシーも女王からの依頼とあって、ここの騎士団と町長に今後の方針を話し合うみたい。」

「そう。」

 クローネもお茶を飲む。


 ふと、隣の部屋を覗くミル、その目に映るのは仲睦まじく語り合う息子夫婦。

「クローネ、ごめんなさい。

 うちの愚息が…。」

「いいえ、ミル。」

 カップを置き頭を下げるクローネ。

「うちの娘が、押し倒したばっかりに…。」

「はっ?!」

 ミルの目が点になり、クローネの方を見る。

 クローネはミルの瞳を覗いている。

「うちの息子が襲ったんじゃなく…。」

「うちの娘が押し倒しちゃったの。」

 ミルが笑い、クローネがオロオロする。


 一頻り笑ったミル。

「笑ってごめんね、クロ姉ぇ。」

「…。」

「でも、よかった。

 クロ姉ぇにマクスを預けられて。

 ありがとう、クロ姉ぇ。」

 ミルは改めてクローネに頭を下げ、クローネは慌ててミルの頭を起こす。

「息子の事、改めてお願いします。」

「はいっ!

 孫が生まれたら、絶対に来るのよ。」

「了解っ!」

 話が終わる頃を見計らい、ミユウがマクスを従え、クローネたちのところに来る。


「そういえば、あの人は元気にしてるの?」

「え?

 ゴンゾーの旦那。

 うん、元気よ。

 今日も、旧アルザリアに飛んでるはずよ。」

「そう、…相変わらず忙しそうね。」

「でも、家族の時間も大事にしてるわよ。

 ミランダにもエミリーが生まれたし。」

「ミランダ姉ぇ、女の子産んだの?」

 ミユウが乗り出してくる。

 ミルはミユウの頭を撫でながら。

「そうよ、抱っこ合戦で大騒ぎよ。」

 ニコニコしながら語るミル。


 クローネも少し安堵する。

「アキラも相変わらずのいたずらっぷりで、パティーと絹江が大騒ぎしてるわ。」

「ミル。

 あの人、子供が産まれたら…

 こちらにも来てくれるかしら?」

「呼んじゃいなよっ!

 クロ姉ぇも、ゴンゾーの妻なんだから…。

『あの人』じゃなくて、『うちらの旦那』でしょ。」


 クローネは涙ぐみ、そんなクローネを優しく抱きしめるミル。

 そんな姿を眺めるマクスとミユウは、とても幸せそうな顔をしている。


 ◇ ◇ ◇


 所変わって、サイネスの町役場の会議室。

 町長と騎士団長、そして、各組合長が集まり、ルーシーと話をしている。

「とりあえず、難民の流入が止まらなくなる可能性があるから、難民テント群をアルザリアから回します。

 街道沿いに難民キャンプを作ることになるから、住民に周知徹底をお願いね。

 併せて、難民支援の部隊を編成を進めますが、サイネス側でもある程度の受け入れ体制の構築をお願いします。」

 全員が頷く。

 そして、町長が質問する。

「ルーシー殿、我々は、ラインとサイネスの間に畑の開梱や宅地の造成を進めており、そこへの移植も考えられるのですが、お伺いを立てるべきでしょうか?」

「事後報告で大丈夫よ。

 ただ、入植させる際は、ライン側にも連絡しておいてね。向こうもビックリするでしょうし。」

 どっと笑う会議室。

「それから、騎士団に置いては、治安警戒のレベルを上げておいて下さい。

 ラインの方もそうですけど、スフラン側からスパイが潜り込んできて撹乱されそうだから…ね。」

「了解した。」

 騎士団長は敬礼し、各組合長も「こちらも、何かおかしな事があれば連絡するよ。」と各々発言していく。

「宜しくお願いしますね。」

 ルーシーの言葉を最後に会議は終了する。


 書類を取りまとめるルーシーの傍に町長がやって来る。

「ルーシー殿。」

「どうしました、町長。」

「難民の方は、そんなに多いのでしょうか?」

「正直わかりません。

 ただ、国情を見る限り、予断を許さない状況ではありそうね。」

「そうですか…。」

「でも、この街は難民の受け入れに成功した実績があるんだし、自信を持っていいわ。」

「ありがとうございます。」

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