第60話 混迷の予感
スフラン領上空五千メートル。
「…で、私らが、何でこんなところにいるのよ?」
「はいはい、
落ち着いて。」
輸送機のコクピットに座る、ミルとルーシー…。
あぁ、ルーシーさん半目開きで愚痴てました。
「女王陛下の視察旅行なんだから、仕方ないじゃん。」
「…視察ねぇ。」
窓越しに正面を見れば、零戦が飛んでいる。
「旅行…ねぇ。」
「そう旅行ですっ!」
「…威力偵察じゃない。」
彼らの眼前にスフラン首都リーペが見えてくる。
眼下に見える草原には彼らの全軍が大挙している…が、主の位置に大将が居ない。
「クロウが総大将…ね。」
ルーシーが大将位のところに佇む見慣れた
すると零戦が彼の位置に降下を始める。
兵たちは腰を抜かし、抜け出そうとする部隊も現れる。
「烏合の衆…ですね。」
兵たちの動きに目を向けながら、ミルも呟く。
零戦は通信筒をクロウの前に落とすと上昇を始める。
四散を始める兵たち。
「これでは、国がまとまる訳がない。」
「そうね…。
話にもなりません。」
輸送機の窓から下界を見ながら呆れ顔のテリー。
ミカエルも逃げ惑う兵たちの姿にこめかみを押さえ、深くため息をつく。
零戦の離脱に合わせ輸送機も同一方向に向かって撤退する。
相変わらず、丘の上は騒然となっている。
「これは、クロウも困る訳ね…。」
ルーシーは呆れ顔、ミルも苦笑いするしかない。
「これは、スフランも動乱期突入かな。」
江田島も呆れ顔になっている。
◇ ◇ ◇
一週間ほど前、江田島孤児院にて、久しぶりにクロウが顔を見せていた。
「ご無沙汰だね、クロウ。」
「久しぶりです、ゴンゾーさん。」
いつになく深刻な顔のクロウ。
何かを察した江田島は、彼を従え、ミカエルの下に向かった。
「それで、クロウ様のご用件は?」
「はい…。」
クロウが話すには、スフランが動乱期に入る兆候があり、西シプロア法国に多大な迷惑をかけることへの謝罪に終始した。
「私が、国王と会談出来る可能性は?」
「難しいと思われます。
使者を立てても、書簡を送られても、なしの飛礫でしょう。」
「じゃぁ、物見遊山でもしてみたら?
…って、おうびょはま、ひたひ、ひたひ…。」
真剣な対話に、しれっと横槍を入れるルーシー。
その頬を捻り上げるミカエル。
そして、ルーシーの提案を一考するクロウ。
「…なるほど、物見遊山ですね。」
「ほもひろひで…って、おうびょはま、ひたひ、ひたひ…。」
クロウが含み笑いで答えると、ルーシーが話を続けようとするところで、ミカエルの指に力が籠もり、ルーシーの頬はさらに捻られる。
◇ ◇ ◇
「ふ~~ん。で、今回の視察旅行なわけね。」
「そういう事。」
コックピットはいつも通り。
「でも、航空機で向かわなくてもいいんじゃない?」
操縦桿片手にルーシーに問いかけるミル。
「治安がどうしようもない上に、万が一女王の身に何かあれば、西シプロアが大混乱よ。」
ミルは呆れ顔、ルーシーも半目開き。
そして、輸送機は安定飛行に入っている。
ふと、人の気配に気づいて振り返る二人、息を呑む。
「く、クロムウェル。」
二人の口をついて出た人物、見慣れた執事服姿の初老の男性。
クロウは一礼すると、貨物室に降りていった。
「
ミルがため息をつき、貨物室からも、一瞬空気の固まる雰囲気が漂うが、結局どっと笑いが飛び出す。
「サイネスの強化が必要になりそうね。」
ルーシーの目の色が変わる。
「戦争になるの?」
不安そうなミル。
「戦争はともかく、難民の急増が…ね。」
ミルの方を向いてウィンクするルーシー。
「あ…なるほど。」
ルーシーの話が腑に落ちるミル。
「まぁ、シプロアからの流入は落ちついているようだけど…。
スフランからの流入は、これからのようだし…ね。」
ルーシーは正面を向く。
「マクス、大丈夫かしら?」
頬に手を当て、心配顔のミル。
「定期的にサイネスへ飛ぶ?」
お茶目な声で質問するルーシー。
「う~~ん。
どうしよう…。」
深刻に心配しているミル。
「帰ったら、女王とゴンゾーに相談しましょ。」
「ええ。」
ルーシーの提案も、半分ほどしか入っていないミルだった。
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