第59話 門出と巣立ち(其の二)
「ここも、随分静かになりました。」
絹江が食後のお茶を配りながら江田島に話しかける。
「そうだな。
…まぁ、二度と会えないという訳ではないし、遠くても馬車で三日の距離だ。」
「それもそうね。」
「おキヌ、ごめんね、私たちが手伝えなくて…。」
「いいのよ、ミランダ。
貴女も身重なんだから…ね。」
すっかり妊婦姿になったミランダ。
パティーも椅子に座って子供にお乳を飲ませている。
「クローネたちはノイスに無事着いたかしら?」
「今頃、メアリと落ち合って、食事会で盛り上がってるんじゃないか?」
絹江の言葉に
それを笑ってチャカすパティーとミランダ。
クローネが娘夫婦(許嫁留まり)と、マユミ親子を連れ立って、サイネスを目指して出発したのが昨日のことだった。
ノイスとラインも十分に機能し始め、いわゆる三点セットも建造され、物流や交流も常態化していた。
さらに、アルザリアも含めた三つの街に囲まれた平原を、ラベリオンたちモルビデの遊牧民が羊たちを連れ、街周辺の治安も兼ねて回遊している。
首都と二つの
|二つの街からの物資と人員の搬入、さらに、ミル・ルーシー組の輸送支援もあり、半月ほどでサイネスは街としての機能を取り戻してきた。
森からの侵入を妨げるバリケードも出来上がり、馬車の定期就航も始まったところだった。
◇ ◇ ◇
「私、サイネスで店を始めるわ。
元夫との約束もあるし…。
ごめんなさい。」
「なんで、謝るんだ?
クローネの選んだ人生なんだ、しっかり頑張るんだぞ。」
頭を下げるクローネを元気づける江田島。
「でも、メアリも去り、私も去っていったら…。」
「安心して下さい、クローネ。
私やルーシーが居ます。」
絹江もそっと、クローネの肩に手を置く。
その後ろでは、パティーとミランダが目に涙を浮かべている。
「クローネ…」
「お姉ぇちゃん」
二人にとっては頼りになる姉であり、母のような存在だったのである。
ミランダはいよいよ出産を控えていたところでの別れということで、不安も加わっているのかもしれない。
「ミランダ、もうしばらくの辛抱よ。
これから出産までは大変だけど、みんなが支えてくれるわ。
パティー、出産については、貴女が先輩なんだから、しっかり手助けするのよ。」
二人の妹分を優しく抱きしめるクローネ。
二人は一頻りクローネの胸で泣き、クローネも彼女たちに身を任せていた。
「ミルは、付いて来ないのかしら?」
クローネがつぶやくと絹江が答える
「彼女、貴女に息子さんを任せる気よ、クローネ。」
「寂しくないのかしら?」
「多分、大丈夫。
むしろ、息子が独り立ちして、ホッとしているのかもしれない。
あの子、ルーシーにゾッコンだし、ルーシーはルーシーで、満更でもないみたいよ。」
「そ…そうなの。」
「ええ。」
絹江が笑って答え、クローネは聞かなければよかった話を聞いてしまったようで、複雑な表情になっている。
そして、パティーとミランダは真っ赤な顔でモジモジしている。
◇ ◇ ◇
さて、話題のミル・ルーシー組はといいますと…。
「あ~ぁ、今日これで何回目の飛行かしら?」
「三回目よ
本日も操縦桿をにぎりボヤくルーシーと相槌を打つミル。
現在、三回目の荷物おろしが行われている。
サイネス復興支援として、機材の輸送を始めて一週間。
少しずつ住宅街の再建も進み、住民の移住も始まっている。
荷物の積み下ろしで活気づく窓の外をよそに、ぼんやりと空を眺めていたルーシーがつぶやく。
「そういえば、ミルぅ」
「なんです?
ルーシー」
「明日って、
「そうですよ。」
「あんた、見送りに行かないの?」
「どうせ、こっちで仕事してれば、顔を合わせますよ。」
「そうだけどさぁ。
…寂しくなるわよ。」
「いいのよっ!」
ミルも空を見上げる。
「ようやく、独り立ちしてくれるのよ。
亡くなられた彼のご両親にようやく報告ができるわ。」
充実した面持ちのミル。
「そう。
…それなら、今夜は祝い酒ね。」
ルーシーが、ワイングラスで乾杯するジェスチャーをする。
「ええ、ベッドまでお供してもらうわよっ!」
いたずらっぽく笑うミルに、ため息をつきながら、ニコッと笑うルーシー。
外の荷物出しには、もうしばらく時間がかかるようだ。
◇ ◇ ◇
ここは、アルザリア郊外の街道入口。
ノイス行き定期馬車の出発口。
絹江とパティー、ミランダに見送られ、クローネとマユミ一家が出発を待っている。
そこへ、江田島が走ってくる。
「それでは、あなた、行ってまいります。」
「ああ、気をつけてな。
店が軌道に乗ったら、連絡くれよ、遊びに行くからなっ!」
「はい。」
クローネも江田島も笑顔だった。
「ゴンゾーさん、お世話になりました。
私も、クローネと頑張っていきます。」
「ああ、くれぐれも無理はするなよ。
二人で協力して盛り立てるんだよ。」
マユミにも優しく接する江田島。
「師匠、行ってまいります。」
「サイネス道場は任せたぞ、マクスっ!
ミユウも、よろしく頼む。」
「はい、お父さん。」
マクスとミユウには激励をおくり。
「とぉ~ちゃん。」
「おと~さん。」
「ミック、タケル。二人ともクローネママとマユミかぁ~さんの言うことを聞いくんだぞ。
良い子で居ろとは言わないが、せめてかぁ~ちゃんたちを守れるようになるんだぞっ!」
「うん、わかったっ!」
ミックとタケルの頭をワシワシと撫でる江田島。
名残惜しい時間は過ぎ去り、馬車は出発する。
クローネが娘夫婦(許嫁留まり)と、マユミ親子を連れ立って、サイネスを目指して出発した。
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