第58話 整備と混沌
復興したノイスとアルザリアの間に定期便の馬車が就航し、ロイが道場を立ち上げたという噂話が流れ始めた頃、サイネス復興拠点として整備されていた河川港が『ライン』と呼ばれるようになった。
船乗りや行商人を相手にした宿泊、食事処などを中心とした街である。
「もう、ウチラが飛ぶ必要も無さそうね。」
「ええ、ここも回りだしたからね。」
普段着姿でラインの街を散策するミルとルーシー。
物流量も多く、倉庫などが建つようになり、さらににぎやかになってきた。
「海沿いだと、津波や高波で荷物を持っていかれるのよねぇ…。」
ため息混じりのルーシー。
「でも、河川も氾濫するわよ。
結果水浸し。」
肩を竦めるミル。
「バカねぇ。
ウチラが運んできた機材は、何のためのもの?」
ルーシーがミルの方に振り返る。
「ん?
港湾構築のためと、治水の…。
あっ!」
手槌を打って、納得するミル。
「そういう事。
おまけに、湖の周辺は、田畑や宅地の造成に充てられているから、必然的にここが物流の要衝になるのよ…。」
正面に向き直るルーシー。
「そして、サイネスも復興させて、陸路の要衝も構えるのね。」
ミルが茶目っ気タップリの笑顔でルーシーの方を見る。
「ミルも、ようやく賢くなってきたわね。」
横目でミルを見るルーシー。
「ようやくが余計。」
ぶんむくれるミル。
じゃれ合っている二人の周りに目を向ければ、河口港湾で行商をしていた者、アルザリアの商業地区から出てきている者もいる。
さらには、他国の装束に身を包んだ商人もいる。
「ノイスも軌道に乗ってきたし、半年後にはサイネス派遣部隊の第一陣が出発する手はずになっている…。」
立ち止まり、辺りを見回すルーシー。
「いよいよね、ルーシー。」
ミルがルーシーの左腕に腕を絡ませる。
「ええ、西シプロア法国が名実ともに独立国家になるわ。」
目を輝かせるルーシーと、その顔を満足気に見つめるミル。
◇ ◇ ◇
女王を中心に円卓が置かれ、女王の右側には夫であるテリー、左側に騎士団長…。
しかし、この円卓の顔ぶれもだいぶん様変わりしている。
組合は色々と再編され、長も変わっている。
おまけに、新しく誕生した二つの街からは、街の代表が派遣されてきている。
「それでは、定例の会議を始めます。」
女王の宣言により、粛々と会議は進んでいく。
そして、政務官となっているルーシーが登壇する番になる。
「以前、話しておりました『銀行』の設置を、正式に提案します。」
会場は落ち着いた雰囲気で、ルーシーの話を聞くに足る状況である。
「とりあえず、銀行は国の管理下に置き、両替を中心に運営することとします。
投資や借款については、法を整備しながら、徐々に展開したいと思います。
なお、実質的な運営機構は商業組合より人員を選抜し、監査役として職人組合、および、冒険者組合、騎士団より人選頂きます。
新しく出来た街についても、街の商業組合長に役員として参加頂きます。」
会場からは満場一致の拍手が起こる。
拍手が鳴り止むのを待つルーシー。
程なくして拍手が止むと、再び話し出すルーシー。
「銀行の開設とともに、今一つ国が運営する機関、『病院』を立ち上げることをここに宣言します。」
ざわつく聴衆。
しかし、女王がゆっくりと立ち上がると場が静まり返る。
「『病院』とは、体調を崩している者や、ケガをした者を治療する人々の集まった組織です。
対象となる人物については、冒険者組合や一般から人選を行い、治療に関する教育も施しています。」
女王の言葉に、感嘆の声が上がる。
「今回の銀行開設に併せ、同じ敷地内に病院も開設します。」
「まぁ、小さな役所を構えるようなものかな?」
女王の言葉にルーシーが合いの手を入れるが、全員が首を傾げる。
「とりあえず、国の出先機関を街に置くということね。」
女王のフォローに全員が納得した。
さて会議も終了を迎える頃、一人の男性が会議室に招き入れられる。
女王がゆっくりと立ち上がり、入ってきた彼を手招きする。
「みなさん、紹介します。
神聖マロウ帝国の使者『トマス』殿です。」
トマスは会釈する。
「ご紹介に与りました、トマスです。
今回は我が陛下の願いを携えて参りました。」
懐から書簡を取り出し、円卓の上に置くトマス。
書かれている内容は、法国内の街々に教会の建設を嘆願する、至極単純な話しだった。
「だったら、銀行と病院の敷地に教会も併設されてはいかがですか?」
誰かが提案すると、賛同の拍手があがる。
「はっ?」
目が点になる女王
「へっ?」
すんなりと意見が通ってしまったことに、拍子抜けするトマス。
以降、法国の街には銀行・病院・教会の三点セットが必ず建設され、コミュニティーの場になっていく。
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