第12話 来訪者

 冒険者ギルドの応援を借り、湖の対岸で避難民を迎える事が出来た江田島たち。

 避難民はベルンから逃れてきた人々だった。


 ベルンの陥落は、凄惨なものだったらしい。

 気がかりな事は、陥落に手を貸した人種、いや、国家が絡んでいたという事だ。

 国家がディノシスを操っている疑いが出てきたのだ。


 避難民の人数は四十名程度。

 住宅の手配はもちろんだが、いよいよ食糧事情がひっ迫する事態になってくる。

 とはいえ、今しがた避難してきた人々を放り出すわけにはいかない。

 重鎮たちも真剣に検討したのち、湖の対岸を開拓する事となった。

 とりあえず、収穫までの期間が短い芋類を大々的に植え付ける方向で、住民の半数を割いて畑作業に従事する事にした。


 ◇ ◇ ◇


 ベルンの陥落について…。

 中継都市の陥落となれば、王国軍が動きそうな案件だが、江田島の視察した状況を勘案するに、王国軍が動いた形跡はなかった。

 もっとも、王国側からベルンに入るには、ディノシスが巣食う森を迂回しなければならず、迂回経路が阻まれて、どうする事も出来ない、あるいは、見捨てられた可能性もある。


「どうしたものか…。」

 地図を眺め村長がボヤケば

「どうにか、王国と連絡を取る事は出来ないだろうか?」

 騎士団長が頭を抱える。

「どうにか、囲みを突破できれば良いんだけれど。」

 とは、冒険者ギルド代理の弁。

「んじゃ、わしが飛べば済むんじゃないか。」

 あっけらかんと答える江田島。


「飛ぶのは良いが、話が出来る人物を王都に派遣しないといけない。」

 騎士団長が返す。

「じゃぁ、森の向こうか、どこか別の地域に指定してもらえば、人を運ぶぜ。」

 江田島がニヤリと笑みを浮かべて答える。


 しばらく沈黙が続いたのち、騎士団長が答える。

「自分を運んでもらいたい!」

 誰もが頷くしかなかった。

「明朝飛ぶとしよう。

 必要なことを済ませておいてくれよ。」

 そう言うと、江田島は会議場を離席し、騎士団長に頭を下げ、部屋を出ていく。

「すまない…よろしく頼む。」

 村長が苦渋の顔で騎士団長に頭を下げる。

 そして、無言のまま頭を下げる冒険者ギルド代理。


 翌朝、後席に騎士団長を乗せ離陸する零戦。

「これは…何とも不思議な感覚だ。」

「一旦高度を取るので、目を回さないでくれよ!」

 機体を旋回させながら、高度を上げていく江田島。


 高度三千メートルで水平周回飛行をしながら、行く先を確認する騎士団長と江田島。

「ここから、ベルンを抜け、そのまま森を突っ切ると、平原が見えると思うのだが…。」

「ああ、見えるな。あそこに向かえばいいのか?」

「お願いする。

 そこまでいけば、州都ベニヤンが見えてくるはずだ。」

「よし、行ってみよう。」

 零戦を滑空させながら、州都ベニヤンを目指す零戦。


 平原が見えたところで、騎士団長が絶句する。

「どうした?」

「す、すまない。

 手前の兵隊たちの上空を旋回できるか。」

「まかせろ!」

 滑空から、旋回に入る零戦。


「やはり…。」

 兵隊の中に、あきらかにトカゲ擬きがいる。

「彼らはシプロアの兵隊ですねぇ。

 …ということは、戦争に突入していたのか?」

「殲滅しておくかい?」

「お願いする!」

「悪酔いするなよ!」


 急旋回し、横合いから射撃態勢を取り、機銃掃射を始める零戦。

 射撃が始まり、兵隊とトカゲ擬きの四肢が宙に舞いだす。

 銃弾の後は、零戦の通過と共に吹き荒れる衝撃波。

 しかし、軍隊は怯むことなく前進している。


 さらに第ニ波を加えるべく、零戦が旋回するところで騎士団長が攻撃を制止する。

「恐らく狂兵呪バーサークの術を施されています。

 仲間の死もいとわない狂信者たち。

 殺すだけ無駄のようです。」

「じゃぁ、先を急ぐか。」

「お願いする。」

 零戦は元の進路に戻る。


 飛ぶこと1時間、地平線に城塞が見える。

「ここで、降ろしてくれ。」

「判った。」


 零戦が着陸する。

 騎士団長は後席から降りると城門に向かって走る。

 城門から人が出てくるのを見届け、零戦は再び空に上がる。


 ◇ ◇ ◇


 森の上空を飛行している零戦。

 突如眼前に凄まじい稲光が走る。

 すると虚空に出現する四発迷彩塗装の大型輸送機!


「な、なんだぁ!!」

 驚く江田島。


 しかし、輸送機の動きがおかしい。

 飛行というより墜落に近い滑空状態でフラフラしている。

「パイロットは居るのか?」

 輸送機の正面に回る零戦。


 そして、江田島が見たものは…。

「燃え尽きている??」

 炭化したパイロット服の人が二人いるだけだった。

 徐々に降下する輸送機、そして森の木々に接触し、平原側に胴体着陸してしまう。


 森からやってくるトカゲ擬きたち。

 トカゲたちを駆除すべく、機銃掃射をする零戦。

「とりあえず降りてみるか。」

 トカゲたちが輸送機をあきらめてくれたことを見計らい、零戦を平原に降ろす江田島。


 輸送機に近づくと、時を同じくして、輸送機に近づく人影が一つ。

 バッタリと出くわす二人。

「こんにちは。」

「こんにちは。」

 何とも、気の抜ける挨拶しかできない男たち。

 片や飛行服姿、片や燕尾服…。

 絵に起こしても笑える場面でしかない。


「わしは、江田島 権蔵と申す。」

「クロムウェルと申します。」

 お互いお辞儀をするが、会話は止まる…。


「と、こんなことをしている場合じゃない。

 中の人を助け出さないと!」

 輸送機の周囲を回って、侵入経路を探す江田島だが、適当な穴が無い。

「江田島殿、少し離れて下さい。」

 クロムウェルが、輸送機の胴体に手を当てる。

 すると、手を中心に直径一メートル程度の魔法陣が出現する。

 魔法陣は赤く光ると、魔法陣の淵に炎が巻き起こり、パンという破裂音と共に魔法陣が消えると、そこに穴が開いている。


「ここから、中に入りましょう。」

「わ、わかった。」

 多少の魔法なら見慣れていた江田島だが、さすがに魔法という未知の世界にはビビってしまう。


 二人は中に入り、機首側にクロムウェル、倉庫側に江田島が分かれて向かう。

「しかし、雷の直撃を受けたのなら機体ダメージがあってもいいはずなのに、乗員だけが感電死とは…。」

 遺体を一つ一つ丁寧に確認しながら奥に進む江田島。


 突き当りの扉を開くと、女性が気絶している。

「生きている…ようだな。」

 とりあえず、女性をお姫様抱っこし、機外へ運び出す。


 そこには、クロムウェルが立っていた。

「生存者ですか?」

「おそらく…。

 気絶しているだけだと思う。」

 ゆっくり歩み寄り、女性の額に手を当てるクロムウェル。

「な、何をする…。」

「少し確認を…。

 と、機内の遺体を弔ってもらえないでしょうか?」

「判った。」

 クロムウェルに女性を任せ、輸送機に戻る江田島。


「しかし、なんだこの飛行機は…。

 航空戦車だとでも言うのか?」

 機体から生えている戦車砲、ガトリング砲のようなモノも見える。

 遺体を担ぎ上げると、足元に転がる薬莢が桁外れに大きいことに違和感を感じる。

 そして、壁に刻まれた文字は、憎き米国文字アルファベット


「米軍機か…。」

 一人ずつ丁寧に遺体を機外に出すと、ドッグタグを取り袋に詰めていく。


「全員分の遺体を機外に出したぞ。」

「ありがとうございます。」

 語りかける江田島の方に振り替えるクロムウェル。

 彼の足元には、穏やかな寝息を立てる女性の姿があった。

 クロムウェルはゆっくりと立ち上がると、輸送機をアイテムボックスに仕舞い込む。


「アイテムボックスか…。」

「ご存じでしたか。」

「ああ、相棒の一人が、アイテムボックスを持っててな。

 輸送機の整備をするのかい?」

「そうですね、残念ながら使えそうな人は…居ないようですが。」

 搭乗員だった骸に目をやるクロムウェル。


「それで、あんたは、どうするんだい?」

 江田島が遺体から預かったドッグタグを携え、クロムウェルに近づく。

「とりあえず、こちらのご遺体を火葬します。

 このままですと、モンスター化してしまいますので…。」

「そうかい。

 じゃぁ、そちらのお嬢さんと、このドッグタグを…。」

「いや、それは江田島殿に預かって置いていただきたい。」

「なぜだい?」

「あなたが、ここではない異世界からやって来た人間だからですよ。

 それに、貴方にとっては、縁浅からぬ相手とも思えますし…。」

 クロムウェルが意味深な一言を述べる。


「はは。

 かなわないなぁ…。」

 江田島が後頭部を掻きながら話を続ける。


「なぁ、あんた、また会う事があるかな?」

「ええ、縁が有れば、再開できるでしょう。」

「そうかい。

 じゃ、その時に積もる話でもしよう。」

 女性を抱え上げ、零戦に向かう江田島。

 途中で、クロムウェルの方に振り替える。


「わしは、ゴンゾー。

 サイネスという町をさらに西に行った所に住んでいる。

 よかったら、いつでも遊びに来てくれ。」

「私は、クロウ。

 王都から所用でこちらに伺っています。

 ご縁があれば、是非お会いしたいですね。」

「じゃぁ、クロウ…失礼するよ。」

「では、ゴンゾー様も息災で。」

 短い挨拶を交わし、江田島は女性を後席に座らせると、零戦を駆って空に舞い上がる。

 クロムウェルは、遺体に火を放ち手を合わせる。


「さて、輸送機ガンシップは、ゴンゾーさんが操れるようにしておきましょうか…。」

 ポツリとクロムウェルが呟く。

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