第13話 もう一人の転移者

 頬を涼しい風がくすぐって行く。

 クッション性の良いベッドに寝かされている事を背中に感じる。

 ゆっくり目を覚ますと、木製の天井が見える、

 少し視線を横に向けると、深い緑の髪に猫耳の女性が本を読んでいる。


 ゆっくり首を動かすと、猫耳がピピっと反応して、女性が顔を向ける。

「大丈夫ですか?」

 穏やかに声をかけて、顔を近づける猫耳の女性。

「ええ、…ここは?」

「クローネさんのお店です。

 …て、わかりませんよね…。

 ちょっと待っていてくださいね。」

 女性は席を立ち、扉の向こうに、人の名前を呼びながら消えて行く。


「ベトナム…では無いようね…。」

 ゆっくり目を閉じ、記憶を反芻する女性…。

 ぎょっとして飛び起きる。

「私たち、ガンシップで飛んでいた…

 はず…

 あ、頭が痛い。」

 ベッドで頭を抱えうずくまる女性。


 しばらくして扉が開き、何人か入ってくる足音がする。

 ゆっくりと顔をあげる女性。


「どうだ、体調のほどは?」

 男性が声をかけ、後ろには心配そうな顔をした女性が二人控えている。

 一人の女性は、先程まで自分を見ていた人で、もう一人は栗色の髪に、犬のような耳をつけている。


「あの…。ここは??」

「あぁ、そうか。」

 女性の質問に答えるべく、ベッドの近くにあった椅子の背もたれ越しに座った男性が語り始める。


「ここは、地球じゃない。

 …まぁ、落ちついて聞いてくれ。

 わしは日本人、江田島 権蔵という。

 後ろの二人は、この世界の住人で、メアリとモリオン。」

 メアリと紹介された栗色髪の女性と、モリオンと紹介された緑髪の女性が深々とお辞儀する。


「わたしはローレンス、見ての通り、アメリカの白人よ。」

「ローレンスさんか、堅苦しい挨拶は省きたい。

 わしの事は、ゴンゾーと呼んでくれ。」

「分かったは、ゴンゾー。

 では、私もルーシーと呼んでもらえるとありがたいわ。」

「わかったよルーシー。」

 一通り挨拶も済ませ、静かな時間が流れる。


 やがて、ルーシーが江田島に質問を始める。

「ところで、私の乗っていた輸送機ガンシップはどうなったの?

 乗員たちは何処にいるの?

 …私の彼はどこに?」

「まぁ、落ち着いてくれ。

 一つ一つ答えていくから…。」

 江田島はルーシーの質問に答えていく。


 まずは、ガンシップと言われる飛行機は、大破したため、修理をすることになった。

 丁度居合わせた、燕尾服の紳士に預けた事を説明する。

「その方は、信用できる人なの?」

「たぶん…。」

「たぶん…って、あれは個人が如何どうこう出来る代物じゃないのよ!」

「す、すまん。」

 ルーシーに怒られる江田島を見てクスクス笑うケモミミ女性たち。


「それから、乗員なんだが…。」

 江田島が立ち上がり、ルーシーに頭を下げる。

「すまん、君以外は誰も助け出す事が出来なかった。」

「!!!」

 絶句するルーシー。

 江田島は、乗員全員が感電死したような状態で、ルーシーを除いた全員が死亡していた事。

 遺体を放置すると、化け物になって人々に迷惑をかけるという事で、火葬したことを伝え、遺体から引き取ったドッグタグをルーシーに手渡す。

 一枚ずつドッグタグを確認するルーシー。

 そして、一枚のドッグタグのところで、確認していた指が止まり、涙をこぼすルーシー。


「彼氏か…。」

 江田島の質問に頷くルーシー。

 そして泣き崩れる。

 あわててルーシーに駆け寄るメアリとモリオン。

 二人はそっとルーシーに寄り添い泣かせるままにしている。

 ゆっくりと部屋を出ていく江田島。

「まずは、泣く事が彼女の仕事…。」

 と呟いて廊下を下って行った。


 小一時間ほど過ぎたころを見計らって江田島が部屋に帰ってくる

 焼き立てのパン菓子を携えて。

「ルーシー、口汚しにどうだい?」

 パン菓子を見せびらかしながら部屋に入ってくる江田島。

 メアリたちと揃って、ルーシーも頷く。


「よしよし。」

 小さな子どもたちをあやすかのようにパン菓子を配って回る江田島。


 その姿に苦笑しだす三人の女性。

「わし、何かおかしい?」

「ええ、とっても!」

「仮にも、私たち淑女なんですよ!」

「ハーレムなんでしょ?」

「ぐはっ!!」

 ルーシーの止めの言葉でのたうち回る江田島。

 そして、三人の淑女は顔を見合わせコロコロと笑いだす。


「ところで、ゴンゾーは、どうしてここに居るの?

 どうやってここに来たの?

 それと私、母国語で話しているんだけど、ゴンゾーって、英語堪能なの?」

「そうさなぁ…。

 あぁ、わし、英語はしゃべれんよ!

 …でも、ルーシーが英語でしゃべってる話し、わしには日本語に聞こえるが…。」

「ひょっとして…。」

 ゴンゾーとルーシーが顔を寄せ合って見つめ合った後、何かを確認するかのようにケモミミ二人に向き直る。

「私たちも、あなた達と母国語で会話していますよ。」

 再び向き合う、ゴンゾーとルーシー。

「この件は、無かったという事にしましょう。」

「だな。」

 ルーシーの提案に頷くゴンゾー。


 二人は少し距離を取り、ゴンゾーが話を続ける。

「わしは、米軍空母エセックスへの特攻途中に閃光が走り、気がつけばここに居たんだ。」

「エセックス…

 特攻…

 まさか!!」

「そうだ、日本帝国陸軍航空隊の一兵卒さ。」

「そう…だったの…。

 あの戦争の結果は聞かなくていいの?」

「聞くまでもない。

 敗北したのだろう、我が国は。」

 至って平静を装っている江田島だが、手が小刻みに震えていた。


「話を変えましょう。」

 ルーシーは腕組みして、江田島の今後を聞いてきた。

 彼は躊躇なく、この地に残り家族を守って行くことを宣言した。

 なぜかルーシーは嬉しそうな顔をする。

「じゃぁ~、私も残る!」

「はっ?」

 ルーシーの告白に目が点になる江田島。

「私も、生き残り組よ♪」

「はぁ…確かに…。」

 気のない返事の江田島をよそに、ルーシーにケモミミ達が抱き着いていく。

「じゃぁ、私たちのお仲間という事で…。」

「さすがに…そこまでは…。」

「そうよ、モリオン!

 …あせりは禁物よ!」

 魂の抜け殻になった江田島をよそに、キャッキャと燥ぐ女性陣。


「じゃ、みんなに紹介しなくっちゃ!」

「立てる?」

「えぇ、大丈夫みたい。」

「じゃぁ、行きましょう!

 ゴンゾー良いわよね♪」

「め、メアリ…さん?」

 江田島を置いて部屋を出ていく女性陣だった。

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