第11話 思わぬ収穫

「わかった。早急に手配しよう。」

「あ、ありがとうございます。」

 村長に、くだんの亜人、獣人たちの保護を取り付ける江田島。

 話は程なくまとまり、亜人、獣人たちは、メアリと共に帰って行った。


「ところで村長。」

「なんだい、江田島君。」

「ここ半年、行商が来ないとか…。」

「ああ、行商どころか、騎士団の支援要請部隊も戻ってきていない。

 これは、秘密だがな…。」

 冒険者ギルドも、騎士団の一件があり、今の場所を護衛する事に集中している。


「問題なければ、騎士団が向かおうとした先を偵察して来ようか?」

「そうしてもらえるとありがたい。

 …では、騎士団長に親書を準備してもらおう。」

 村長は近くの使用人を呼び、二言三言話したのち、騎士団へ使いに出す。


「ついでと言っては、何なのだが…

 先程話していた彼らの故郷についても、偵察してもらえないだろうか?」

「というと、湖の対岸…

 河川の取水口の周辺かい?」

「そうじゃ…。

 ここはここで発展させるとして、増え続ける住民の移住先も考えねばなるまい。」

「わかった、出来る限りやってみよう。」

「頼んだぞ…。」

 お茶をすすり一息つく村長。


「そういえば、江田島君。

 お前さんの朝鍛錬、面白い効果を生んでいるなぁ。」

「そうですか?」

「今回の件もそうだが、最近、町の雰囲気が良くなってなぁ…。」

「それ、わしの影響?」

「そうそう。」


 江田島と村長が話し込んでいると、騎士団長が使用人とともにやって来る。

「江田島殿、この手紙をベルン宛で頼む。」

「了解…

 それでは!」

 手紙を受け取り、村長宅を出る江田島。

 その後姿に頭を下げる騎士団長と、目を細めて佇む村長。


 江田島が村長宅の玄関から出てくると、ミルが待機している。

「ミル!

 早速飛ぶぞ!」

「了解!

 ゴンゾー!」

 二人は街外に出ると、零戦を取り出し、目的地に向かって離陸する。


「ゴンゾー、今度はどこに飛ぶの?」

「あぁ、サイネスの先にある中継都市ベルンだ。」

「ふぅ~~ん。

 って、あの街道が寸断された上に、橋も落とされた先の街ってこと。」

「そうだ。」

 江田島の返答に、気のないため息をつくミル。


 サイネスを抜け、街道伝いに飛行を続け、落とされた橋の所まで来る。

「さて、この先がどうなっているか…だな。」

 零戦は橋の上空で上昇のため、一旋回する。

 街道をさらに登って行くと、ベルンの城壁が見えて来る。

 が、城壁は激しく破壊されている。


「こりゃ、不味いかもしれんなぁ…。」

 零戦がいよいよベルン市街に入ってくる。

「どうしたの、ゴンゾー…。って!!」

 ミルは市街地を見て絶句する。

 ゴンゾーも困った表情をしている。


 見渡す限り、崩れ去った建物群。

 騎士や兵隊だけでなく、多数の民間人も含め、大勢の骸が転がっている。

 さらに、骸の所々に、例のトカゲ擬きの死体もある。

「…」

 言葉を失うミルと冷静に事態を視察する江田島。


 二、三度旋回しながら市街地を確認したのち、江田島が旋回半径を広げながら周回飛行に入る。

「ミル、下を見ていてくれ。

 気になる事が有ったら、すぐに言えよ!」

「…わ、わかった。

 ゴンゾー…。」

 大量の死体を見たことで、混乱気味のミル。

 なんとか、正気を保っているが、ストレスは並のモノではない。


 ベルンと反対に向かう街道沿いに、破壊された馬車がちらほら転がっている。

「よし、街道をもう少し見て行こう。」

 零戦は街道沿いに進路を変える。

 街道を進むにしたがって、馬車と民間人だけではなく、騎馬や騎士、兵士たちの骸も道中に散乱している。

 あろうことか、喰い千切られた遺体もある。


「ゴンゾー、これって…。」

「あぁ、あんまり考えたくもないが、全滅したかもしれないなぁ。」

「…。」

 あくまでも冷静な江田島と、悲壮感に押し殺されそうなミル。


「…そろそろ引き返すぞ、燃料が心配だ。」

「りょ…了解。」

 零戦は旋回し、まっすぐ新サイネスに引き返す。


 零戦は新サイネスを目指しているが、下を見ると河川と並行に飛んでいることに気づく江田島。

(ひょっとして…。)

 零戦を急上昇させる江田島。

「どうしたのゴンゾー?」

 急上昇にビックリするミル。

「ああ、ちょっと気になった事があってな。」


 高度三千メートルに届いたところで、水平飛行に入り、ゆっくりと旋回を始める。

「高~~い!」

 すっかり上機嫌のミル。

「下も見ると面白いぞ…。」

 江田島に促され、ミルが下界を見る。

「これって…。」

「ああ、わしも初めて知ったのだが、とりあえずこの光景を地図に出来るかミル。」

「やってみるけど、あとどのくらい飛べるの?」

「今の旋回を続けられるのは、十回程度かな…。」

「頑張ってみる!」

 ごそごそ始めるミル。


(しかし、トカゲ擬きの住む森が三日月状にベルンからノイスを覆っていたとはね。

 そうか、サイネスは三日月の腹に当たるように出っ張ているから、執拗に襲われていたわけか。

 新サイネスが襲われない理由は、三日月の円弧から外れているからという事か…。

 しかし、森の向こうに陣取る軍隊か…。

 あいつらの存在も気になるなぁ…。)


「ゴンゾー、出来たよ!」

「よし、新サイネスに向かう。」

「了解!」

 零戦は、河川伝いに新サイネス脇の湖を目指す。

 幸い河川沿いに避難民を発見し、矢文を落としておく。


 新サイネスに到着し、村長と騎士団長に結果を報告する江田島。

「そうでしたか…ありがとうございます。」

 騎士団長は落胆していた。


「ところで、お二人に見ていただきたいものがある。

 ミル、例の地図を。」

「りょうかい、ゴンゾー。」

 高度三千メートルから俯瞰ふかんした、この辺りの地図をミルが机に広げる。

「これは?」

 村長が不思議そうな顔で、江田島に聞く。

「この辺りの地図です。

 ここが、ノイス…サイネス…ベルン…そして新サイネス。」

 地図に地域情報を記載していく江田島。

 三日月状の森に話が及んだところで、村長と騎士団長が顔を見合わせた後、ゆっくりと江田島に視線を送る。

「ええ、くだんのトカゲ擬きが新サイネスを襲わないのも、これで説明はつきそうなんですが…。」


 森の奥に軍隊が居る事を二人に耳打ちする江田島。

 二人は頷くと、江田島たちにお礼を言い、地図を借用すると、さっさと解散となった。


「ゴンゾー、川伝いにこちらに向かってる避難民の話し、忘れてない?」

 真っ青になる江田島。

 そんな江田島の肩を叩くミル。

「もう一回、村長さんに会おうか。」

 ミルに連行されて村長のところへ戻る江田島だった。

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