第9話 みんなが家族、みんなで家族

 こんにちは、パティーです。


 ゴンゾーさんの『みんなわしのお嫁さん!』発言から一ヶ月。

 私達はゴンゾーさんが見つけた湖のほとり、メアリさんが暮らしていた宿屋に移り住んでいます。


 メアリさんの娘さん達は自分たちの部屋を見つけて喜んでいました、…屋根裏の一室。

 そんな事もあってか、メアリさんは、この宿屋で暮らすことに乗り気ではありませんでした。

 しかし、うちは一夫七妻、子供は八人の大所帯です。

 申し訳なかったのですが、メアリさんには折れてもらいました。


 この宿屋は、一階に広い食堂があり、二階、三階は、宿泊部屋になっています。

 お風呂は、離れに露天風呂を完備…。

 ちょっとどころか、かなり立派な宿屋です。


 家探しで荒らされてはいましたが、建物の造りはしっかりしていたので、そのまま住む事が出来ました。

 一階の奥まったところには、クローネさんが被服屋を構えた。

 手前には来客用のエントランスを設けました。

 そのエントランスの一角に私とマユミさんで、ハーブティーの喫茶店を開店しました。

 玄関口には、ハーブの鉢植えを、棚に並べる事で、あたかもハーブの生垣いけがきというおもむきにしています。


 ノリスやサイネスから移り住んだ人たちも、古民家を改築し、店を構え、日常の営みを再開しました。

 ただ一つ、行商人はまだ来られていません。

 街道の整備が必要なのですが、私達を襲ったディノシスが時折出没するらしく、村や街の重鎮たちが思案を巡らしているそうです。

 今しばらくは、自給自足の生活を強いられそうですが、幸いにも肥沃な土地と湖で捕れる魚がアテになりますので、何とかやって行けそうです。


 ちなみに、ノリスとサイネスがどうなったかと言えば…。

「連中どこに行ったのかな?

 メアリ。」

「分かりません。

 ただ、人の気配が無くなった事で、襲っても無駄と理解したのかもしれませんね。」

「はぁ…。

 トカゲにそんな知恵があるのかねぇ…。」

「いえ、事実を述べたまでです。」

「あ、そう。」

 零戦の風防越しに見る限りディノシスはノリスにもサイネスにも居なかったようです。


 相変わらず街道には襲撃を受けたとおぼしき骸が横たわっており、森はといえば、明らかに怪しい気配が漂っているそうです。

「他の道を当たるしかないが…

 この森はちょっといただけないなぁ。」

「ええ、今のも安全とは言えませんね。」

「折角、お店も新調したのにな…。」

「まぁ、今すぐというわけではないでしょうし、ヤツラもあの湖は知らないようですし…。」

「あるいは、連中の行動圏内から外れているのか…。」

「結界が敷かれているかもしれませんね。」

「結界ねぇ…。」

 ゴンゾーの気のない返事に、耳を傍立そばたてるメアリ。

「連中を結界で捕縛出来れば良いんだけどな。」


 結界の意味を理解しているのかいないのか、ゴンゾーさんはたまに突飛な事を言っては、みんなを驚かせています。


 ◇ ◇ ◇


 私達が新天地『新サイネス』に来て変わった事は…結構あります。


 先ずは仕事について、私とマユミさんは喫茶店経営が主になってます。

 ただ、マユミさんは冒険者稼業もしていますので、店を留守にすることがあります。

 その時には、メアリさんの娘ルーちゃんとクローネさんの娘ミユウちゃんに手伝ってもらっています。

 最近では、二人とも私の事を、お姉ちゃんと慕ってくれてます。


 クローネさんのお店は、ミランダさんが売り子兼お針子さんをしていました。

 そこへ、メアリさんとモリオンさんが加入されました。

 針仕事はもちろん、接客にも参加してもらい、仕事がだいぶん楽になったとクローネさんは喜んでいました。


 その接客衣装なんですが…。

 クローネさん達は、明るめの色彩のカートルに三角巾、胸や腰の部分に花柄がデザインされた布がワンポイントで縫い付けて、白い前掛けエプロンを着ています。

 対してメアリさんとモリオンさんの売り子姿…背中が大きく開き、スカート丈も短いイブニングドレス姿に、前掛けのようなエプロンを着ています。

 もっとも、彼女たちの背中はモフモフに覆われていますので、いやらしい感じはありません。

 むしろ延びた尻尾も含め、お客様には大人気の衣装です。


 それと、もう一つ。メアリさんが算術に長けていたという事です。

 お店の会計を一手に引き受け、クローネさんも大助かりと喜んでいます。

 実は、喫茶店うちのみせの会計もお願いしてるんです…てへぺろ。


 ◇ ◇ ◇


 夫婦の営みにも変化がありました。


 私とミランダさんは、亜人さんたちと…そのいろいろありましたので…。

 私達がゴンゾーさんと寝るときは、必ずペアを組む約束をしました。


 初めの頃こそ、人種、亜人とグループが分かれていましたが、クローネさんとメアリさんがペアを組んで以降、私達の間に種族差は無くなりました。

 でも、クローネさんとメアリさんがペアを組むと、ゴンゾーさんが借りた猫のように大人しくなってしまうんです。

 日頃は、大見栄切って兄貴気どりなのに、おかしな話ですよね。


 夜の営みも、とぎをするばかりではありません。


 昔話、冒険譚、生活の事、お店の事…話題は尽きず、夜更けまで話すこともしばしばでした。

 ゴンゾーさんは、この世界の事を一つでも多く知ろうと、色々聞いてきます。

 この時だけは、私達が先生役です。

 ゴンゾー君は…あまり優秀な生徒さんではありません。


 …でも、私達がお願いすれば、夜伽に付き合ってくれます。

 …えへへ。


 そのゴンゾーさんは、毎朝『鍛錬』と言って、木剣を素振りされています。

 といわれる片刃の剣を、朝早くから、朝食を取るまでの間ひたすら振り下ろしています。


 その姿を見ていた息子たちが、ゴンゾーさんに師事を求めるようになりました。

 そうそう、子供たちからは『パパ』と呼ばれるようになったんです、ゴンゾーさん。

 ゴンゾーさんたら、得意げになっちゃって、『江田島剣道道場』というものを開いて、午前中いっぱい、子供たちに稽古を付けだしたんです。

 けど…、ミユウちゃん達女の子、近所の子供たちも参加し始め、うちのお庭では、収まりきらず、ついには中央公園で稽古をすることになってしまいました。

 …気がつけば、大人も何人か混じっているようですが、ゴンゾーさんはとっても嬉しそうです。

 ちなみに、この『江田島剣道道場』では、剣術以外にも武士道を教えるとかで、礼節や所作、心構えなども教えており、子供たちの情操教育に役立っています。


 最後に、子供たちが口をそろえてゴンゾーに頼むことがあります。

「パパ、私達、弟、妹が欲しい!!」

 私もミユウちゃんたちに言われるんですよね。

「パティーお姉ちゃん。

 ママたちにお願いして!

 私達、弟、妹が欲しいの!!」

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