第8話 家族の在り方

「ゴンゾー様。

 どうか私達に、貴方の寵愛を恵んで下さい。」


 メアリ達、亜人一同が肌着姿のまま、江田島の前にひざまずく。

 江田島は布団の上に転がっている。


 ◇ ◇ ◇


 ここは、江田島の寝室。

 つい先ほど、就寝しようとしていたところで、扉の向こうのメアリに話しかけられた。

「ゴンゾー様、少しよろしいでしょうか?」

「なんだぁ?

 わしは眠いんだが…。」


「ゴンゾー様。

 聞いていただきたいお話が…。

 あります。」


 言葉の間合いに、何かを感じ取った江田島は、扉を開く。

 すると、メアリ達が押し入ってきて、江田島を布団へ付き飛ばし…

 冒頭いまに至る。


 ◇ ◇ ◇


 ゆっくりと正座に座り直す江田島。

「で、寵愛…ていうのは?」

「お言葉の通りです。

 ご想像いただいている事に相違はないと思います。」

 赤面している江田島を真剣なまなざしで見つめるメアリ達、亜人一同。

「つまり…お前たちを抱けというのか?」

「そうです。」


 メアリのげんを搔い摘むと、彼女たちの性衝動が限界に達しているという事だった。

 江田島に助けられた直後は、緊張した状態であった事や、クローネ達と生活している手前、何ともなかったそうだ。

 しかし、二ヶ月ほど前から欲情が激しくなり、お互いに慰め合うような事態になってしまったらしい。

 困った事には、精神的にギリギリだったミランダやパティーも亜人たちの秘事を見てしまい、それに参加しているという事だった。

 幸いにも、クローネの耳には入っていないが、そんな事がばれたら、彼女たちは行く宛を失ってしまう。


「貴方は、私達が貴方の前から居なくなったら、探すと言ってくれた。

 理由わけを聞いてくれると言った。」

 ミルが畳みかける。


 江田島は目をつむり、少し考えた後にメアリ達の顔を見ながら、話し始める。

「お前たちの思いは解った。

 だが、今この瞬間に、お前たちを抱く事はできない。」

 亜人たちが悲壮な顔になり立ち上がろうとする。


 と、江田島がそっと両手を広げる。

「わしの気持ちをお前たちに話していない。

 …それに、もう一人、この話に興味があるものが、扉の向こうに居る。

 …入ってこい!」


 扉を開け、促されるまま入ってくるクローネ。

 亜人たちは、気まずそうにうつむき座り込む。


「ここで終わらせるには、不味い話だと…わしは思うが。

 クローネ、お前さんの意見を聞きたい。」

「おっしゃる通りです、ゴンゾーさん。

 この話は私が預かります。

 三日後に、子供たちが村長の家に集まる事になっていますので、その時に話し合いましょう。」


 メアリ以下亜人達は、素直に頷いた。

 そして、各人が自分の寝室に帰って行く。


 メアリが部屋を出ようとするとクローネが寄り添う。

「メアリ、ありがとう。

 ミランダとパティーを心配してくれて…。

 彼女たちを手放す気はないわ。

 もちろん、貴女達もね。」

 そっと、メアリの頬にキスをして、クローネも自室に戻って行った。

 メアリは震えていた。

 江田島は見守る事しか出来なかった。


 ◇ ◇ ◇


 三日後、クローネ宅二階食堂。

 テーブルを囲む江田島たち。

 江田島を正面に、向かって左側にメアリ達、亜人種。

 右側にクローネと、前回部屋には居合わせていなかったミランダとパティーが座っている。


 何を話すのか、無言のうちに誰もが理解していたが、どう話を切り出せばいいのか戸惑っている。


 おもむろに江田島が話し始める。

「自慢できるような話しじゃないんだが…。」

 江田島の母親は、華族のめかけだった。

 父親の素性を明かす事ははばかられ、面白くもない幼少期を送り、荒れた少年時代を過ごしていた。

 腐っても華族の一員だと言われ、無理やり佐官クラスの職責を与えられ、ひねくれた挙句、戦闘機乗りに落ち着いた。

 長らく偵察業務に従事し、困難な任務もこなしていたが、次々と散って行く戦友。

 あろうことか、己の肉体を兵器と化す特別攻撃隊の登場に至り、彼は敗戦を予感し、死に場所を求めてしまった。

 …写真だけの許嫁に対する申し訳ない思いを残して。


「…で、死んだはずのわしは、今こうして皆の前に居る。

 わしばかり、現状に甘んじるのは、散って行った戦友なかまに申しわけない。」


「それで、に手を出さなかったと…。」

 クローネの言葉に、女性陣が一様に驚いている。


「お前たちの思いを踏み躙っていたのも事実だ…。

 申し訳ない。」

 頭を下げる江田島に、誰も何も言えない。


「でも…。」

 メアリが切り出す。

「貴方は、私達を助けた。

 あの時から、私達は

 寵愛を与える義務があるわ。」

「そうね。

 女奴隷を所有するという事は、そういう事だしね。」

 クローネも賛同する。

 二人に気圧けおされる江田島。

「しかし、奴隷というのは、わしのしょうに合わない。」


「じゃぁ、妾…

 というわけにはいかないか…

 あはは。」

 ミルが発言を途中でしまい込む。


 暫くの間、静寂が部屋を満たしている。


「みんなが、夫婦じゃダメ?」

 一番年若いパティーが発言する。

「みんなが、夫婦になれば、誰も不満はない!

 …わたし、誰も不幸せになってほしくない。」


 大粒の涙をこぼすパティー。

 クローネがそっと、パティーの頭を自分の胸に抱きよせる。


「この子、目の前で最愛の人を喰われちゃったから…。

 本当に好き合っていて、暇さえあれば、デートばかり…。」

 クローネの胸で大泣きしだすパティー。


 彼女を抱きながらクローネは話す。

「ゴンゾー。

 貴方の助けた女性達ヒトは、みんな何がしかの傷を負い、死ぬ事が出来なかった者たちよ。」

「そうか…。」

 江田島は天井を見上げ目を瞑る。


 女性陣は、クローネとパティーに心配そうな視線を向ける。

 クローネは「大丈夫よ!」と言わんばかりに、ウィンクする。


「わかった、わしも腹をくくる。」

 江田島は立ち上がり、全員を見回しながら話し始める。


「わしの身勝手で、みなを死に損ないにさせてしまった。

 その責任を取り、みなを嫁に迎える!」

 そういうと、ゆでだこの様に真っ赤になる江田島。


 女性陣は静まり返っていたが、言葉の意味が分かり、近くの者同士抱き合って大泣きし始める。


「ゴンゾー!!!」

 パティーが江田島に抱き着く。

「今日から、私もゴンゾーのお嫁さんね!」

「やめろぃ!

 照れる!!」

 パティーと江田島の一連の仕草に場の空気も和む。


「みんなぁ~!!」

 場が落ち着いたところで、クローネが続ける。


「この話はここまで、これから避難所への移動準備よ!」

「イエス、マム!!」

 今まで沈黙が嘘のように、明るい笑顔がはじけている。


「…って、わしクローネ達も嫁にするの?」

 江田島の反応に、クローネ達三人は悪戯っぽく笑い

「イエス、マイロード!!」

 というと、メアリ達、亜人と連れ立って食堂を離れていく。


 華やいだ空気が収まった後も、棒立ちの江田島さん。

「わし、何かとんでもない事をしでかしたんじゃ…。」

 自分の発言を反芻はんすうし、青ざめていく。


 そして、この日から江田島さんの長い夜が…開幕するのだった。

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