第6話 救援作戦 後編

 翌朝、零戦の出撃準備をしていると、二頭の馬が騎手を乗せて走ってくる。

 乗り手は、革製の胸当て以外は、一般服と変わらない軽装だった。


「村長に通してもらいたい!

 我々はスフラン王国騎士団の者である!」

 輸送作戦を準備していた幾人かの人間が、彼らの下に走り寄り、二言三言交わすと村の中に入って行った。


 一部始終を見届け、飛行帽をかぶりエンジンを始動させる江田島。

「よし、ミル上がるぞ!」

 後席に座り、荷物を抱えたミルが風防越しにサムアップする。

 零戦は離陸すると、サイネスに舵を切った。


 ◇ ◇ ◇


 1回目の支援を済ませ帰投した零戦。


「ゴンゾー!!」

 メアリが駆け寄ってきた。

「どうした、メアリ?」

 操縦席から立ち上がり聞き返す江田島。

 零戦はアイドル中であるため、プロペラの風切り音で会話が途切れてしまう。


 江田島はエンジンを停止させ、ミルにも機外に降りるよう促し、メアリの下に行く。

「飛行は一旦中止して。

 どうも雲行きが怪しいのよ。」

「どういう事だ?」

「とりあえず、村長の所へ。」

「分かった!

 ミル、すまんが、相棒を格納しておいてくれ。」

「了解!」

 ミルはアイテムボックスに零戦をしまう。


 ◇ ◇ ◇


「は?

 中継都市ベルンに入れない??」

「正確には、街道が寸断されたうえに、橋も破壊されてしまい、住民がサイネスに戻ってきているのだ。」

 騎士団員が、サイネスの惨状を鑑み、後方にある中継都市ベルンへ住民を避難させようとしていた状況を説明する。


「ふむぅ…。」

 考え込む江田島。

 これ以上の救援物資の運搬は、輸送能力上さすがに限度がある。


「ところで、騎士様は、あの街道をどうやって抜けてきたんですか?」

 ミルが騎士団員に質問する。


「あぁ、それは…。」

 騎士団員のげんによると、3回目の物資投下以降、モンスターの動きがぱったりと止まったらしい。

 そして、散発的に発生していた夜襲もなりを潜め、補助魔法をかけれる者が投下されたポーションで完治してきた。

 そこで、思い切って連絡隊をノイスへ向かわせる事とし、昨夜のうちにサイネスを出て救援元のノイスに来たとの事だった。


「サイネスの住民は流民となり…。

 しかも、モンスターに襲われるだけの儚い存在…。」

 村長がため息をつく。

「どうしたものか…。」

 騎士団員も当惑している。

「襲撃から外れたところに、サイネスとノイスの人を集めて拠点を作ってみては?」

 江田島の耳元にそっと耳打ちするメアリ。

 江田島は少し考えてから、村長と騎士団員にメアリの提案を伝える。

「それは…。

 考えてみる必要があるが、急を要する。」

 村長が言えば

「こちらも、どこまで持ちこたえられるか…。」

 と騎士団員も言う。


 江田島がゆっくり立ち上がり

「とりあえず、今からあてになりそうな地域を探してみよう。

 メアリ、すまんが付き合ってもらっていいか?」

「はい、お供します。」


「では、我々もこれで!」

 騎士団員は、立ち上がるときびすを返し、サイネスに戻って行く。

 江田島は零戦にメアリを同乗させ離陸、道中の警護を兼ね、騎士団員たちを街道の途中まで警護した。


 ◇ ◇ ◇


「さてと、この辺りから、拠点を探さないといけないのだが…。」

 江田島は周囲を見渡していると

「ゴンゾー、西に進路を取ってみて。」

「そうか、森と反対側か!」

「とりあえず飛んでみて…。」

 街道から外れる事、西に一時間程度飛ぶと平原の真ん中に湖と林、そして街跡が見えてきた。


「まだ、燃料はあるし…。

 サイネスとノイス、それぞれの距離がどの程度あるか調べていくか。」

「お願いするわ。」

「では、サイネスの方から…。」

 サイネスに進路を取る零戦。

 メアリは何か書き込んでいた。


 サイネスの上空を通過すると、騎士団員は無事に辿り着いていたようだ。

 メアリは書いていた手紙を投下する。

「あらかたの位置を書いておいたわ。」

「なるほどね。

 …よっと。」

 江田島は、零戦の主翼を左右に振りながら旋回すると、湖に向かった。

 メアリは機内でコロコロ笑っていた。


「…ということは、くだんの湖まではサイネスからもノイスからも等距離なわけだ。」

「そうですね。」

「メアリ、一つ聞いて良いかい?」

「ええ、何でしょう?」

「メアリ、ひょっとしてこの辺りの土地勘に明るくないか?」

「そ…そ…そうですか…。」

 明らかに動揺するメアリ。

「まぁ、良いんだけどよ…。」

 そう言ったきり、江田島は黙り込む。


 ◇ ◇ ◇


 ノイスに着き、重鎮たちへ湖の話をする江田島。

「そうか…。

 であれば、急ぎ湖に受け入れ態勢を設ける必要があるな。」

「とりあえず、周辺の調査は必要だな、こちらでも人選をしてみよう。」

 村長が受け入れ準備の算段に入り、冒険者ギルドの所長代理は、湖探索班の人選に入る。


「湖の探索にはわしも加わる。

 上空から確認しただけだからな…。」

「わかった!

 同行願おう。」

「了解!」


「ゴンゾー、私達も同行しますよ。」

 メアリ以下亜人三名も進み出る。

「すまん、期待している。」

 江田島は四名の女性陣に頭を下げる。


「ところで、向こうに連絡は…。」

「はい、湖の位置を示した地図を投下してきました。」

 村長の言葉を遮り、返答するメアリ。

「上出来じゃ。

 よし、探索班には備蓄の一部を乗せた馬車も同行させよう。

 向こうからも動きがあるかもしれん。」

「了解!!」

 全員が自分たちの持ち場に帰って行った。


 帰路の途上、メアリが江田島に話しかける。

「ゴンゾー。

 やっぱりあなたは、明日もミルと一緒に飛んでもらえないかしら?」

「何だメアリ、藪から棒に…。」

「出来る限り、ディノシス達にこちらの動きを悟られたくないの。」

「どうすればいい?」

「明日、もう一度サイネスに飛んでもらって、ディノシス達の足止めをして欲しいの。

 可能であれば、彼らがサイネスへの侵入を躊躇する程度にしてもらえれば…。」


「ふむぅ…。

 お~~い、ミルぅ~。」

「なに、ゴンゾー。」

 先を歩くミルを呼び止める江田島と、振り返るミル。

「相棒の下腹に、爆弾って奴がぶら下げる事出来るんだ。

 アイテムボックス内でそいつを装備した状態にできるかなぁ。」

「バクダンが何か解らない。」

 ミルは走ってきて、江田島の額に自分の額を重ねようとする。

「おい!

 何すんだよ!」

 後ずさる江田島と、接吻をしそうな勢いで飛び込んできたミルにびっくりするメアリ。


「何もしない、爆弾のイメージを知りたいだけ。

 ゴンゾーがイメージする。

 私がそのイメージを額から教えてもらう。」

 ミルは、額同士でイメージの受け取りをするジェスチャーをする。

「わ、わかった…。」

 ミルに額を預ける江田島。

「ふ~~ん。こんなのも有るんだ。

 解った、確認してみる。」

 ミルは言うなり、アイテムボックスの中身を確認しだした。


「しかし、驚いたなぁ…。

 みんな、あのトカゲ擬きの名前を知ってるんだなぁ…。」

 江田島が何の気なしに呟いた一言で、四人全員が固まる。


「わし、何か不味い事言った?」

 四人の姿にビックリする江田島だった。

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