第5話 救援作戦 前編
零戦が街道伝いに低空飛行している。
江田島の後席には、クローネ謹製の特注品に身を包んだミルが搭乗している。
「どう?
ゴンゾー。
おかしなこと無い?」
「今のところはな…。
森との境目に注視しててくれよ。」
「了解!」
クローネ達がいよいよサイネスに引っ越す事になってきた。
ただトカゲ擬きに襲撃された恐怖があり、少しでもその不安を払拭出来ればとクローネが江田島に相談していたのだ。
「そろそろ例の場所だ。
周囲の警戒に集中してくれ。」
「了解!」
クローネ達の襲撃地点から先に進路を取る零戦。
「ねぇ、ゴンゾー。
右側の林。」
「あぁ、馬車が…五…六台か…。
襲撃された後だな。」
「ええ。
さっきの所、もう一度飛行出来る?」
江田島は旋回し、別の角度から、襲撃跡を確認する。
「馬車の壊れ方がおかしいなぁ…。」
「ひょっとすると、私達の時と同じだったのでは?」
「ドラゴンに襲われたという事か…。」
「恐らく…。」
数台の馬車が喰いつかれたような形跡がある。
「とりあえず、先を急ごう。
ミル、位置は確認しておいてくれ。」
「了解!」
街道の偵察に戻る零戦だが、サイネスに近づくに従い、徐々に壊れた馬車、人々の亡骸が目立ちだす。
しかも、人々の中にはフルプレート…騎士団が混じっている形跡もある。
丘の先にサイネスは見えて来るが、街の入口周辺で激しい戦闘の跡が見える。
大量のトカゲを含むモンスターの骸と、大量の騎士達、冒険者と思しき者たち、そして、どうみても、一般人の服装をした人たちの死体。
「サイネスは、戦場になってるのかな、ミル?」
「そんな筈は…。
戦場になっているなんて、聞いて…ない。」
街の入口を通過し、市街に入って行く。
街の中にも、いくつも煙が上がっている。
「おいおい、ここ不味いんじゃないか?」
「…。」
通りに転がるモンスターと一般人の骸の山。
飛び続ける先に旗が見え、ようやく騎士団が立っている所に出くわす。
下が大騒ぎになっている事に構わず、飛行を続ける江田島。
騎士団の壁を抜けると、着の身着のままで逃避する人々。
「こいつは、ちょっと尋常じゃねぇなぁ。」
「ええ。」
「とりあえず、下の連中と意思疎通が出来ればいいんだが…。」
ミルもさすがに策がないらしく黙り込んでしまう。
ふと燃料計を見る江田島。
「まずい、燃料が半分切りやがった。
引き上げるぞ、ミル!」
何かごそごそしていたミルが、風防を少し開ける。
「ミル??」
「大丈夫、矢文を投げるだけ。」
「分かった。
騎士団の前に機を回すから、投げてくれ。」
「了解!」
機体を旋回させ、騎士団前に低空侵入する零戦。
ミルは風防の隙間から矢文を投げ、騎士団の前に無事矢文を射す。
零戦は、上昇し一定高度まで一気に駆け上がった。
◇ ◇ ◇
街道を見守っていたメアリとクローネの前に零戦が少しずつ姿を現す。
一回村を旋回し、着陸する零戦。
「どうでしたか?」
メアリとクローネが同時に話しかけると、江田島とミルが顔を見合わせ、今しがた見てきた光景をメアリとクローネに話した。
「馬鹿な事言わないで下さい!
この辺りは、モンスターなんかほとんどいませんし、騎士団なんて、ここ何年と回って来られる事もありませんよ。」
「…」
クローネは、信じられないといった雰囲気ではあるが、メアリには思い当たる節があるらしく、考え込んでいる。
「とりあえず、立ち話も何だし、店に戻ろうや。
ミル、零戦の収納頼むわ。」
ミルは首を縦に振り、零戦をアイテムボックスへ収納する。
「そう言えば、ミル?」
「何ですか、ゴンゾー。」
「零戦って、アイテムボックスに入れると勝手に燃料や弾薬が補給されるのか?」
「???」
「ふむ…。
まぁ、いいか。
考えるのやぁ~~めたっ!!」
質問の答えに困り首をひねるミルを見て、楽天家の江田島も肩を
◇ ◇ ◇
その夜、村長をはじめとする、村の重鎮達を招き、今後の方策が話し合われた。
「サイネスが無くなると、我々の生活も先細りになるぞ!」
「ここ一年、行商が一人も訪れないので不思議に思っていたのだが、そんな事に…。」
「そういえば、クローネさんの商隊が襲撃されて、大変なことになったのも、半年前か…。」
「村長どうするよ?
応援を出そうにも、こっちの村の安全が保証できない以上、むやみに人は出せない。」
「冒険者ギルドとしても、応援を向かわせたいのは、山々なのですが、話を聞く限りでは、手持ちの部隊では全滅が必至です。」
「…。」
冒険者ギルドの所長代理の言葉で、会場は静まり返る。
「とりあえず、明日わしが飛ぶから、医薬品や最低限の食料を準備できないか?」
江田島が会場に割り込む。
「飛ぶ??」
「まぁ、詳しい話は後回しだ。事態は急を要している!」
「わかった。
江田島殿に支援を一任しつつ、我々の対応も考えるとしよう。
すまんが、みんな頼むぞ!」
「おぉ~~!」
三々五々に重鎮たちは解散していった。
「江田島殿、何かあればすぐに連絡して欲しい。」
「分かりました。」
村長に頼まれ、江田島は敬礼する。
◇ ◇ ◇
今回は、高度を取り、速力をあげてサイネスを目指す。
陽も上がり切った頃、隣町に到着する。
幸い戦線は停滞しているようで、江田島たちは一安心する。
そして、一回目の空中投下を実施する。
機体を反捻りさせ、後部座席から、木箱を落とすミル。
木箱が地上に降ろされ、受け取ったかの確認をするため、機を旋回させる江田島。
「大丈夫そう。」
手を振っている地上の人を確認し、ミルが嬉しそうに答える。
「よぉ~~し!」
零戦をノイスに向け、高度を取る江田島。
「ミル、念のため、
連中が襲ってきているなら、出鼻を挫いておきたい。」
「了解!
…って、ゴンゾー!
森から街にディノシスが向かってる!!」
「わかった!
零戦を旋回させ、ディノシスと言われたトカゲの群れに機銃掃射をかける江田島。
一回の掃射を終わり上昇する零戦。
「ミル、どうだ?」
「大丈夫、森に引き返しはじめた。」
「追撃の必要性は?」
「たぶん大丈夫。」
トカゲどもは一目散に森に入って行った。
「よし!第二次の受け取りに向かう。」
「了解!」
結局、この日は昼食を挟んで、四回の輸送・投下作戦が実施された。
また、第三次の投下直後のトカゲ駆除の際
「ゴンゾー、森に逃げたやつが一部引き返してる。」
「だろうな…。」
零戦は旋回、トカゲどもが森から出てくるのをじっくり待ち構え二撃目を加える。
「これでどうよ!」
「ディノシス、森に消えます。」
トカゲどもはさんざん銃撃され一目散に森に引き返していく。
第三次の連撃に懲りたのか、第四次投下作戦の際には、トカゲが森から襲撃する気配はなかった。
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