第3話 事始め
昨夜は、幸い動物たちの襲撃は無かったが、例のトカゲがいつ襲ってくるとも限らなかった。
「クローネさん、この近所に町か村はないか?」
「ここから、徒歩で三日行ったところにノイスという村があります。」
「そうか…。」
とりあえず馬車がまだ必要そうな事を理解した江田島。
馬車一台に十日程度は生活できるだけの荷物を乗せる。
「遺品などあれば、乗せてくれ。」
そう言って、江田島はクローネたちにバスケットを渡し、自分は、複数本のロープと薪を乗せ始めた。
「馬車に荷物を載せてどうするんですか?
馬はいませんよ。」
「なぁ~~に、わしが引っ張ればいいんだよ!」
能天気な江田島の発言に、残念そうなものを見る目に変わる女性陣
子供たちとお守り役一名を馬車に乗せ、残りは、馬車の周囲を警戒しながら歩くことになった。
「じゃぁ、出発だ!!」
江田島とミル、モリオンが馬車を引き出すと、馬車はゆっくり動き出す。
はじめこそ後ろからクローネとメアリが馬車を押していたが、馬車が動き出すと一定の速度で馬車は動き出す。
幸い丘はなだらかで、体力を激しく消耗させる事は無かった。
ただ、襲撃に備えて体力を温存する必要があるため、日の出から、十五時頃までが馬車を引く事の出来る時間だった。
「まだまだかかりそうだねぇ。」
「ですねぇ。」
予定より進まない事に頭を抱える江田島と、その仕草を眺めるメアリ。
夕食時の頃、どこからともなくロバを連れてくるモリオン。
「どうしたのモリオン、そのロバ。」
「先の林で、手綱が絡まっていたところを助けてきた。」
「おぉ~~。」
居合わせた全員が感嘆の声をあげる。これで馬車の移動も早まるというもの。
◇ ◇ ◇
夜が明け、ロバと馬車をつなぎ、旅を始める。
馬車の中は、子供たちとお守り役を一名乗せ、他は、馬車の警護を兼ねて周りを歩く。
馬ほどの速度は出ないが、安定した距離をこなせるようになり、少しずつ乗車定員を増やしていった。
最終的には、子供たち以外にも大人四人が定期的に入れ替わる事で幾分の余裕が生まれてきた。
幸い襲撃を受ける事もなく、予定よりも三日ほど早く村に辿り着くことが出来る。
◇ ◇ ◇
さて、村に着く前の晩、江田島とクローネ、メアリが集まり会談が持たれていた。
「わしは、何とでもなるが…。」
「私たちは、逃げ出した奴隷、まして亜人種ですので、どのような目に合うのか…。」
「私は店舗を構えていますので、一時的にみなさんを受け入れる事は出来ますが…。
金銭的な理由などで、それも長くは持ちません。」
「他の方々は、大丈夫なのかい?」
江田島が質問すると、二人の顔が曇る。
「ミランダとパティーはご主人を失ったことで、店舗の経営も難しいのは現実です。」
「私達も、多人数でクローネさんに甘えるわけにはいきません。」
「わしが立ち回れることがあればいいんだが…。」
「そうですねぇ…。」
クローネが周りを眺めていると、ミル達がトカゲの解体品を準備している姿が目に入ってくる。
「江田島様、冒険者になりませんか?」
「???」
話が見えない江田島とメアリの頭にクエスチョンマークが出てくる。
「つまりですね…。」
クローネが冒険者についての職業や収入について話し始める。
「なるほど、わしが冒険者になり、メアリ達をサポートとして従え、クエストをこなしていけばいいという事か?」
「そうです。
クエストの報酬のほかにも、モンスターを倒し、解体品を換金することもできます。
命がけですか、それに見合う収入になります。」
「それであれば、私達も怪しまれることはありません。
子供たちもいずれは戦力に…。」
「まぁ、待て待て。」
メアリの話を遮る江田島。
「とりあえず、当座を凌ぐことを考えようや。
子供たちの事は、ここでは置いておこう。」
「私も賛成です。
幸い、村には大きな店舗があります。
ミランダ達と、あなた方と子供たちも一時的に私のところに預かりましょう。」
「でも、店舗運営はどうするんだい?」
クローネの提案に不思議なものを感じた江田島は率直に尋ねる。
「実は、今回の商隊でうまくいったら、そのまま行った先で生活しようと思い、品物は全て売り払っていたんです。
店舗も落ち着いたら売ろうと、主人と話していたんです…。」
うっすらと涙を浮かべ、
メアリがクローネを自分の胸に抱きよせる。
◇ ◇ ◇
村に入ると、馬車はまっすぐに冒険者ギルドに向かう。
手短に江田島の冒険者登録と、パーティーメンバーとしてメアリ、ミル、モリオン、マユミが登録される。
ついでに、トカゲ擬きの解体品を換金してもらった。
思わぬ収入により懐の潤った江田島たちは、その足でクローネの店に向かう。
途中ミランダ達は自分たちの店に向かい荷物の整理をするとの事だった。
昼過ぎには村に到着したが、何だかんだで気がつけばクローネの店に着いたのは日没間近だった。
メアリが気を利かせ、ミランダ達の店を回ると言い出したので、クローネの娘さんに案内してもらい馬車は出かけて行った。
クローネがご飯の準備を始めると、ミル達も手伝いはじめる。
江田島は寝室の準備をしていた。
子供たちが作業を覗いていたので、一緒にするかと声をかけ、楽しく作業をしている…。
◇ ◇ ◇
メアリが、ミランダ達を連れて店舗に戻るころ、夕飯の準備が整う。
「すいませんが、子供たちを呼んできてもらえませんか?」
「は~~い!」
クローネのお願いに答えて子供たちを探すメアリだったが、寝室で爆眠している江田島と子供たち。
クスクス笑いながらメアリが戻ってくる。
事情を知るとクローネもコロコロと笑う。
江田島達を寝かしたまま、夕食を始めるクローネ達。
いつになく和やかな雰囲気の夕食を楽しむクローネ達だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます