旧歴の七夕の日の夜に

阿滝三四郎

旧暦の七夕の日の夜に

それは『この事件、未解決では、始まらない』から初めての遠出だった






「電話で話をするの、今日で30回目~」

と、言われた


「えっ?そうなの?」


「そうだよ。記念する30回目だよ~」

「おっ、おめでとう なのかな」


「もうねぇ、お母さんも、何も言わずに電話の子機を渡してくれるようになったよ~」

「毎回、お母さんが電話取ってくれて、美嘉につないでくれて、ありがたく思っているよ」


「お父さんが出たら、どうするの?」

「うん?そうだな、切っちゃうかもしれない・・・かな」






「ねぇ~、海と山どっちが好き?」

と、聞いてみた


「断然、海。だって色々な表情が見られるでしょ、だから好き❤」

「じゃー、今度、海が見える場所に旅行でも行こうか」

「うん、どこへ行く?」






今年の、お盆休みは、火曜日が初日だった


二人は、小さな海辺の町に、たどり着いた

目の前に広がる大きな海、美嘉は水平線の彼方をみて

「きれい」

と、つぶやいた



太陽の光が、燦燦と降り注ぐ中

海は輝き

白い波は、静かに浜辺を叩いていた






「なにか、食べに行こうか。海の幸いいよね」

「うん。海鮮丼、食べたい」





「まだかな、まだかな~♪」


嬉しそうに待っている、彼女の顔を見ていると

海が好きというよりは、海の幸が好きなのでは

と勘繰る程の笑顔だった






「お待ちどうさまでした」

と、運ばれてきた、どんぶりには


マグロ・イカ・タコ・ホタテ・ウニにイクラ

大きな車エビにタマゴに、きゅうりが飾り付けてあった

そして、お吸い物に付け合わせまで、ついていた




おいしいと

   ほおばる頬は

       さくらんぼ




「な~に?」

「おいしそうに食べている美嘉の顔が、好きだなと、おもって」





「そうだ、さっきチラシを見つけてね」

「なに?」

「花火が上がるそうだよ。お盆休みの迎え火の夜に、お迎えの花火が上がるんだって」

「知らなかったの?」

「うん。知らなかった」

「調べて、この町にしてくれたのかと、おもった」

「美嘉は、調べてくれて知っていたの?」

「そりゃ~~~~~、知らなかったよ。初めて聞いたよ」

と、笑った




「ねぇ~、何時から花火始まるの?」

「午後8時から15分間だって」

「楽しみ!!」










「チェックインして、町を散策しようか」


今日は、二人がつき合い始めて、初めてのお泊りデート




「うわぁ~。山!!」

部屋の大きな窓に広がるのは、青空と緑溢れる大きな山並みだった


「ごめん、ここのホテルしか取れなかったんだよ。さすがお盆休み、どこも満室でね」

「やっぱり山も綺麗だよね、緑がまぶしい。海は青がまぶしい。ここに来て正解!!花火もあるんでしょ、楽しみ❤」


「さて、散策に行こうか」

「うん」











        ☆      ☆      ☆




昼間は、閑散としていた浜辺は、それなりに、人だかりが出来ていた

家族連れに、カップル。友人たちと花火を見に来た高校生

そして、僕らみたいな観光客




午後8時 時間通り花火が打ち上がった




大きな花火大会とは違って

幾つもの花火玉が連続して上がるような

派手な開幕ではなかった



ご先祖様を、お迎えするように

静かに、一発ずつ確実に上がる花火玉

そして、一輪ずつ綺麗に花を開いていた



シーンと静まり返る浜辺は

なにか、わからない。一体感を感じていた




それでも最後は

何十発も連続して上がる花火の花を見て

観客からは、大きな拍手と歓声があがり

終焉を迎えた



美嘉も少しウルウルきているように、おもえた



「綺麗だったね」

「あたし?」

いつもの冗談めいた、あたしが出たから大丈夫だろと

「そうだね」

と、笑った






「ホテルに戻って、大浴場の温泉に入ろうか」

「そう・・・だね」


「美嘉 大丈夫か?」

「なんか、おばあちゃんのことを思い出して」


「優しかったの?」

「うん。いつも一緒に居てくれてね、なんでも教えてくれた。編み物も、おばあちゃんに教えてもらったんだよ」

「思い出した?」

「うん」


「泣いてみる?」

「泣かないよ。泣いたら思い出までが、流れそうだから」

と、言って、笑った


「温泉入りに、行こっか~」

「行こう」











        ☆      ☆      ☆




「ここに1時間後に戻るね」

と、言って、大浴場に消えていった



一人残された僕は、美嘉の後ろ姿を目で追った

少し寂しそうに見えた後ろ姿

温泉で流してくれればとも、おもった






「待った?」

浴衣姿の美嘉が現れた

「いや、今出てきたところ」


初めてみる浴衣姿に

「また、惚れたでしょ」

と、笑いながら、つっこまれ


「・・・」

何も返事が出来なかった




「部屋に戻って、一杯飲もうか?」

「うん❤」


「あ、その前に、なにか、つまむものを買って行こう」

「そうしよ~」






「カンパイ」

「うん。カンパイ」











そして今夜、二人は

大きな天の川に飲み込まれるように

結ばれることになった


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旧歴の七夕の日の夜に 阿滝三四郎 @sanshiro5200

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