第39話 話題に尾ひれがついて、メダカはランチュウになってしまう。

「ナオキよ、そこの者たちは誰だ?」

 ラジオを手土産に、クリスを送り届けに来たナオキと…その家族。


 白いイブニングドレスに緑のショールを纏ったクリスがそっと、廃王に耳打ちをする。

 白銀に近いブロンドの髪に服がよく似合っている。

 二つ三つ頷いた廃王が笑っている。

「そうか、そうか。

 我々の結婚式を挙げてくれるというのか…。

 ははは、これは愉快、愉快。」

「陛下、私ルーメグレックス。

 メグと申します。」

「ふむ、話すがよい。」

「恐れ入ります、陛下。

 では、僭越ながら…。」

 メグは進み出てマッケンジーに結婚について講釈を始める。

 そして、クリスが身籠っているくだりで不意にクリスの方を見るマッケンジー。

 顔を赤らめモジモジするクリス。


「クリス…ひょっとして…。」

「サーシャ様です。

 わが主。」

「そうか…。

 うん、そうか…。

 うん、うん…」

「???」

 話が見えない女性陣と、事態の変化が呑み込めないナオキ。


「ご婦人よ、私はクリスと床を共にした事は無い。

 だが、彼女が身籠った事についての責任は私にある。」

 そして、マッケンジーとクリスの関係、そしてクリスの身籠った子サーシャについて、語り始めるマッケンジー。

 …ナオキ君は聞くの二度目だよね、アルとエルも。


 話を聞き終わったメグとレッシーは、深くため息をつく。

「解りました。

 が、これは…。」

「結婚させねば!!」

「はっ?」

 二人のご婦人の威圧に縮みあがるマッケンジー…。

 廃王の威厳が…亡くなった?


「ちゃんと夫婦になって、サーシャ嬢をお迎えすべきです。

 陛下!!」

「私も祝福いたします!!」

 メグとレッシーが、ズイっと迫り、その動作にお互い見つめ合うマッケンジーとクリス。


 しばしの時がながれ、マッケンジーがナオキに話しかける。

「ナオキ、すまぬが、一つ番組を作ってもらえないだろうか?」

「どのようなものでしょうか、陛下。」


 ◇ ◇ ◇


「それでは、始めます。

 五…四…三」

 指が二本、

 一本とカウントダウン、

 そしてキューの合図を送るナオキ。


 時報の音が鳴る。

 その余韻が消えるとクラッシック曲がラジオから流れ出す。

「週末金曜日となりました。」

 いつになく落ち着いたナオキ。


「いつものこの時間は『ナオキの電リクアワー』をおおくりしておりますが、本日は、ある方のご依頼により、臨時番組をお送りいたします。」

 凛とした声のアルが続き


「みなさまには、耳障りのよくない事もあるかと思いますが、どうか最後までお付き合いください。」

 いつもよりも幾分控えめな声のエルが締め、番組がスタートする。


 いつもと違う雰囲気に、ラジオの前の聴衆は緊張する。

 ニコライ六世が耳を傾け、ベテルギウスがラジオの方に顔を向ける。


「それでは、この番組のご依頼者に出演頂きます。

 廃王マッケンジー陛下こちらへ。」

 ナオキの紹介に、ざわつく聴衆。


「みなさん、初めまして、私はミクロニアというオアシスの主、マッケンジーと申します。

 …みなさんには『廃王』の方がご存じかも知れませんね。」


 そして、語られる百年前に廃王が誕生するきっかけとなった事件の真相。

 吟遊詩人の語る物語と異なり、驚きを隠せない聴衆たち。

「それでは、ここで一曲お聞き下さい。

 小フーガ。」

 ナオキの曲紹介の後、パイプオルガンの調べが木霊こだまする…。


 音楽が終わり、マッケンジーが語りだす。

「私は、新たに妻を迎え、ミクロニアを復興したいと思う。」

 英雄としての使命ではなく、盟友であった魔王アキラから託された思いに答えるべく、熱弁を振るうマッケンジー。


 種族、身分を超えた独自の社会の構築…。

 夢物語が地上に降り立つというのだ。

 ラジオの前の聴衆も息を呑む。


「それでは、ここで一曲お聞き下さい。

 アラベスク第一番。」

 ナオキの曲紹介の後、ピアノの織りなす調べが静かに流れて行く…。


 音楽が終わり、ナオキが話し始める。

「ここで、視聴者の方と、電波が繋がっています…。」


 マッケンジーの宣言に反応した人々から質問が飛び込んでくる。

 興味本位の質問が殺到する中…。

「我々は、貴方の行動の余波で、故郷くにを追われた身なのだが、ミクロニアに受け入れてくれるのか?」

「亜人、獣人でも人種と同様の生活を営めるのか?」

 など、中には、ミクロニアへの移住を前向きに考えている者からの質問も飛び込んでくる。

 移住希望者には、快く迎え入れる旨を伝えるマッケンジー。

 いつしか、商人の何人かも店を構えたい旨の相談をし、マッケンジーの了承を受ける。


「ここで、諸侯の方より、質問が届いております。

 では、どうぞ。」

 アルに促され

「こんにちは、マッケンジー君。

 ニコライ六世と申します。

 …あぁ、君には、トムの愛称の方が馴染むかな?」

 マッケンジーが直立不動に立ち上がる。

 その動作がマイク越しに音で、それとわかるほど、マッケンジーは急に立ち上がる。


「お久しぶりです。」

「うんうん、元気そうで何よりです。」

「はい、皇帝陛下。」

「まぁ、堅苦しい事は抜きだ。

 時に、君の街にいる死人たちをねんごろに弔ってやりたいのだが、伺っても良いかな?」

「はい、是非お出で下さい。」

「解った。

 では、勇者ナオキよ、貴君の嫁君フローレンシア殿にも同席願いたいのだが…。」

「いえ、それは…。」

 ニコライ六世の申し出に難色を示すナオキ。

「いかがされた?

 何か問題でもあるのですか?」


「いえ、彼女…。

 妊娠してしまいまして…。」

「おお、それは、何ともおめでたい話しではないですか。」

「ええ…ですので…。」

 ニコライ六世とナオキの会話が途切れたところ。


「もう一方ひとかた、この話に加わりたい方がいるようですよ。」

 茶目っ気たっぷりの声で、エルが割り込んでくる。

 エルの話が終わるや否や、割り込んでくる低音がズシっとくる声。

「ベテルギウスである。

 わしが、貴君の嫁君とニコラス陛下の騎乗馬とくそうしゃになっても構わんぞ!」

「やぁ、ベティ。

 暴竜といわれたドラゴンが、どういう風の吹き回しだい?」


 ラジオの聴衆、凍り付いてます。

 他国の王さま方も凍ってます。

「ふははは。

 知己ちきの遺志を受け継ぐ事を表明したものが居るのだ。

 わしはそれがうれしいのじゃ。

 それに、このラジオの進行役のナオキとは、浅からぬ縁もある。

 ここで、話しに咬んでおくのも悪くないと思ってな。」

「わかったよ。

 では、ベティにお願いするとしよう。

 ああ、ナオキ殿ドラゴンの背中は快適そのもの、嫁君にはいい気分転換にもなりましょうぞ。」

「解りました。

 帰って家内たちに相談してみます。」

「頼みましたよ。

 では、私はこれで。」

「わしも、楽しみにしているぞ勇者ナオキ!

 では…。」

 ナオキの返事を確認し、ゲストは早々に退散する。


「そ、それでは、…。」

「どもってるわよ、ナオキ。」

「だっさぁ~。」

 ナオキのどもり具合に、通常編成の声で突っ込みを入れるアルとエル。

 ラジオの向こうにいる聴衆の笑い声が聞こえてきそうだ。


「コホン、では気を取り直して。」

 アルが告げれば、

「次の曲はこちら。」

 エルが答える。

 流れ出す音楽は、誰もが知っている『あの名曲』だった。


 そして、番組は緩やかに終了した。

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