第38話 結婚させましょう。

 小一時間ほどして、再び大広間に呼び戻される四人。


 戻った部屋には、玉座に座る廃王とその傍らに、二十代前半の容姿をした女性のエルフが立っている。


 誰もがエルフの事をあえて聞かない、恐らく彼女はクリスなのだと暗黙の了解が四人の間に出来上がっている。


「転移者よ、世話になったな。」

 廃王は頭を下げる。


 聞くところによれば、この二人、本当に結婚を考えていたようなのだ。

 しかし、東シプロア連邦から、サーシャ嬢が輿入れしてきたため、そこで話しは立ち消え、結局クリスは従者として使えるようになったとの事。

 しかし、このサーシャ嬢が、人間関係には敏感で、すぐに二人の恋心を見抜いてしまい、応援まで始める始末。

 結局、夫婦としての廃王・サーシャ嬢、そして第二婦人のクリスという落としどころがまとまりかけたところで、サーシャ嬢が急逝してしまい、心ならずも二人は解れたのである。


 以来、今の今まで、廃王は憎悪に心を支配され、そんな廃王を心配しながらも、老いていく自分を見せる事に躊躇したクリスがここに居たのだ。

「もはや、クリスを呪う理由はない。いつも傍に居てもらう。」

「もらいたい…じゃないんだねぇ。」

 なぜかジト目でナオキを見るアル。


 閑話休題

「私、ロメオ三世殿下に、いとまを貰わないといけないのですが…。」

 声も若返り、すっかりしとやかになったクリス。

 言葉遣いも変わったような…。


「では、我々が道中のお供をします。」

「すまんが、頼んだよ。

 …まぁ、クロウが居るなら、特に問題はないかな。」

 笑みがこぼれる廃王。


「では、我が君、行ってまいります。」

「ああ、気をつけていくんだよ。」

 接吻して別れる二人。

「あれが夫婦なのねぇ…。」

「そうねぇ…。」

 うっとりと見とれるアルとエルが、ナオキに冷たい視線を向ける。

「それに比べて、うちらの亭主ときたら…。」

 全く同じセリフを吐いて、ジト目でナオキを見つめる二人。

「な、なに?」

 おどけるナオキにあきれ顔のアルとエル。

 そして、後ろの方で、声を殺して笑うティーノ。


 ◇ ◇ ◇


 茶番も一段落し、広間を出ていく一行。

「おお、そうだ。ナオキよ…。」

 扉の手前で呼び止められるナオキ。


「すまぬが、次の機会にラジオを所望したいのだが…。」

「分かりました。次の機会にお持ちします。」

「頼むぞ。」

 ニコニコ顔の…は、廃王…。

 なんか、少年の様に目をキラキラさせてるんですけど…。


 五人は部屋を後にしてツィベネへの帰路に就く。

「では、次元門ゲート。」

 ティーノが魔法を発動し、廃王のオアシスから、ツィベネの領主宅前に移動する。


「なんか、理不尽というか…、手抜きというか。」

「ささ、参りましょう。」

 ナオキの愚痴をよそに、ティーノが促して、全員が領主宅の玄関を叩く。


「ただいまぁ。」

 アルとエル、そしてクリスを引き連れて帰宅するナオキ。

「お帰りなさ~~い。」

 奥からメグとレッシーが出てくる。

「お疲れさまでした。

 …あら、お客様?」

「ああ、クリスだよ。」

「ああ、クリス様…

 って、えええぇ~~~~~!!」

 ナオキの答えに、おおいにビックリするメグとレッシー。


「なるほど…クリス様はハイエルフでしたね…。

 呪いが解けたのかしら?」

「ええ、そうです。」

 レッシーの質問に答えるクリス。

「どういう事?」

 メグが質問する。

「ハイエルフは、不老長寿なんです。

 そして本来は二十代の姿を維持するケースが多いんです。」

 レッシーが答えれば

「私は呪いによって、歳を取っていたんです。」

 クリスが答える。

「というわけで、今日はお祝いをしたくてね。」

 ナオキはウインクをする。


 そして、ささやか…とはほど遠いお食事会が始まる。

 食台に溢れんばかりの料理。

 取り皿を持ちながら、ワイワイと三々五々お喋りに花を咲かせるナオキ達。


 小一時間過ぎ、食事も終わり、くつろぐ一同。

「ところで、クリス様はいつ結婚式を挙げるんです?」

 メグの言葉に咳き込むクリス。

「いえ、…私たちは結婚など…。」

「でも、お子さん出来てますよねぇ。」

「…何を根拠に…。」

「おんなの感よ♪」

「…」

 メグにたたみかけられ、黙り込んでしまうクリス。


「結婚式をしましょう!」

 レッシーがダメを押したところで、話題は、廃王とクリスの結婚式のプロデュースに転がって行く。

 …本人たちの意思を無視したままで!


 クリスがそっとナオキに耳打ちする。

「メグとレッシーはいつもこうなのですか?」

「いやぁ、例の結婚外交からこっち、みんな結婚式のプロデュースとなると…こうなるんです。」

 申し訳なさそうに伏し目がちに答えるナオキ。

 そして、クリスは半目になって、ため息をつく。

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