第35話 新たなオーダー
さて、曲のリクエストが増えてくる中、とあるオーダーが入ってくる。
「んんん~??」
いつものように便りを眺めていたナオキが頭をひねっている。
「どうしましたか?
ナオキ。」
アルがそっと肩に手を置き話しかける。
「実はな…。」
便りをアルに渡すナオキ。
「…結婚…式のぷ、ぷ、プロデュース!!!」
「そうなんだよ…
どうしたものか…
って、アル?」
「六月の花嫁
六月の花嫁
六月の花嫁
六月の花嫁
六月の花嫁、…」
「お~~い、アルさんやぁ~~~い。」
何かに憑かれたように呟きだすアルと、その姿に慌てるナオキ。
◇ ◇ ◇
時報の音と共に軽快な音楽がラジオから流れ出す。
「というわけで、今日は西シプロア法国にお住まいの、ロイドさん、メノウさんご夫妻の
アルが軽快にトークを切り出し。
「は~~い!ロイドさん、メノウさん、ご成婚おめでとぉ~!
六月の花嫁は幸せになれるんだってぇ~~~!!」
エルもノリノリで話を合わせていく。
「じゃぁ、今日は金曜じゃないんだけれど」
半ば、諦め気味のナオキ君を置いて
「出張ナオキの電リクアワー…」
「始まりまっす!!」
「始まるわぁ~!!」
「始まるぜぇ~!!」
三人の声がハモり番組がスタートする。
「キャァーーーアル様ぁ~!!」
「エルちゃん、可愛いぃ~!!」
いつもの黄色い歓声と黒い雄たけび、そして拍手喝さいが会場を埋め尽くす。
拍手が鳴りやむと、G線上のアリアが流れだし、会場中央の通路を通って、新郎新婦が入場してくる。
息を呑む観衆の吐息が漏れ聞こえる程の静けさの中、歩む二人を、目をキラキラさせて見つめるアルとエル。
そして、さりげなく状況を中継するナオキも、声を小さくし、二人の足音を拾うようにマイクを向ける。
祭服を着た男が、声高らかに宣言する。
「これより、ロイド、メノウの結婚式を執り行う!」
静かに拍手が巻き起こり、結婚式の開式に合わせて、音楽はフェードアウトする。
無事結婚式も終わり、会場が披露宴に模様替えしたところで、二人から頼まれていた音楽と、番組側で選曲した音楽が掛かり始める。
曲のイントロは、エルが担当!
アルとナオキは、合いの手を入れる係に徹する。
選曲した音楽とエルの独特のトークで、会場も盛り上がり、宴も佳境を迎える頃…。
「え~~と、ここで電波が繋がってきましたぁ~~~!
…って、西シプロア法国の国王陛下!!!」
エルの発言で静寂に包まれる会場…。
し~んと張り詰めた空気を切り裂く厳かで穏やかな男性の声。
「ロイド殿、メノウ殿。
ご結婚おめでとう。
二人の門出を祝い、私から記念のモノを送る事としたい。」
「えええ~~~~!」
会場がどよめく…が、国王の言葉が紡がれると、静まり返る。
ナオキ達もこのイベントは知ってはいたが、背中に冷や汗が流れていく。
「奥方になられるメノウ殿はスフランの民と聞く。
遠路からの輿入れ本当に感謝する。
この婚礼を皮切りに、両国民の友和が深まる事を希望したい。」
静まり返った会場から、さざ波のように拍手が鳴り始める。
「ありがとうございます。」
ひな壇の二人がお辞儀をする。
二人を祝別する拍手が鳴り止まない。
「ふぇ~~~。どうなるかと思ったよ。」
ナオキは崩れ落ちそうになる身を何とか押し留め、アルはそんなナオキをそっと支える。
「ありがとう、アル。」
場が和み、披露宴の音楽が流れていると…。
「え~~と、ここでまた電波が繋がったよぉ~~~!
…って、今度は、スフラン王国の国王陛下からの祝辞でぇ~~~~~す!」
「えええ~~~~!」
エルの発言で、会場がパニックに陥る。
「お、落ち着いてくださぁ~~~い!!」
アルの言葉で静まり返った会場に、貫禄のある男性の声が響く。
「ロイド殿、メノウ殿。
ご結婚おめでとう。
そして、西シプロア法国国王の挨拶に、スフランの民を代表して礼を申し上げたい。」
会場は、またまたどよめき出す…が、国王の話が続きだすと、静まり返る。
「ロイド殿、我が民から妻を娶っていただき感謝する。
私からも、二人の門出を祝い、祝いの品を送る事としよう。
どうか末永く息災であれ。
そして、私も両国民の安寧を心から祈念したい。」
ちらちら拍手が起こったかと思うと、瞬く間に会場が拍手の嵐になり、歓声も聞こえてくる。
「もぉ~~勘弁してよぉ~~。」
予定外のゲスト登場に、今度こそ腰が抜けて座り込むナオキと寄り添う様に座り込むアル。
「ありがとうございます。」
ひな壇の二人がお辞儀をする。
そして、2つの国の国王をゲストに迎えた
◇ ◇ ◇
結局、この放送を機に、西シプロア法国とスフラン王国の国交樹立に向けての交渉が始まり、両国の交流が活発になる結果となった。
そして、「結婚外交」と言われたこの放送をきっかけに、国境を越えた結婚を放送で取り上げてもらい、幸せアピールをするカップルが増えれば、各国諸侯も競って結婚の放送に飛び込み、新たな国交の確立を探求する場となってきた。
この勢いが、後に「亜人・獣人」との婚礼まで広がるのであるが、それはもうしばらく先の話。
「もぉ~、ほんと~~~に大変だったんですよ。」
「ああ、聞いていたよ。
サプライズが国王陛下二人なんてなぁ…くははは。」
「笑い事じゃないですよ!」
「じゃぁ、わしも飛び入り参加すればよかったか?」
「いや…ベテルギウスさんまで、出てこられると、もう収拾がつかなくなります。」
「そうかぁ?
プレゼントは、山のようにあるし、持参もできるぞ!」
「そんなことされた日には、夫婦どころか町中が卒倒しますよ!」
「そうかのぉ…。」
「だって、あなたドラゴンじゃないですかぁ!!!」
宝物の前に鎮座する暴竜こと、ベテルギウスさんが、宝物の方に首を向けながら、楽しそうにナオキと話している。
じつは、中継器のテストを行う際に、「僻地だから!」というティーノの意見で、ここにもラジオが設置された。
そして、勇者となるきっかけを与えてくれたベテルギウスさんの所で、ナオキはラジオの調整具合などを見ていたのである。
「しかし、音楽というのは実に奥深いものである。」
「そうですね。」
「心を和ませ
心躍らせ
時に心を奮い立たせ…。」
「人をつなぎ
心をつなぎ…
果ては国まで繋いでしまう。」
「然り然り…
わっははは。」
かなり上機嫌なベテルギウスさん。
「それでは、私はこれで…。」
「おお、そうじゃ。
折角だから一つ頼まれてくれんか?」
ナオキが立ち去ろうとするとベテルギウスが呼び止める。
「な、なんですか、藪から棒に。」
「お主、廃王を説き伏せてみんか?」
「はいぃぃ~~~?!!!」
本当に藪から棒な相談だった。
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