第29話 前夜祭

「この地に来るのは、随分と久しいが、心が弾みますねぇ。

 クロ…バレンタイン殿。」

「私も初めての土地ですが、知己ちきが居ますので…。」

「ああ、そうだったね。」

耄碌もうろくするには、早くありませんか?

 トマス…もとい、ニコライ六世陛下。」

 燕尾服姿のティーノと白いローブに身を包んだニコライ六世と呼ばれた男が城塞都市ツィベネの城壁の前に佇んでいる。


「今回は”勇者”の戴冠ですか?」

「はい、結婚式もセットでお願いしたいのです。」

「ははは、欲張りな注文ですね。

 いいですよ、お付き合いしましょう。」


 城門から、門兵と白銀騎士団ナイツ・オブ・ハイネスが二人の下に着き、城内に案内していく。


 ◇ ◇ ◇


 先日の洞窟イベントのさなか、メグは男の子を出産した。

 同じ頃、ロメオ三世婦人も出産。

 こちらは男の子三人、女の子三人と、いきなりにぎやかな事になった。


「こんにちは、ロメオ三世殿下。」

「おお、これは、ニコライ六世陛下、よくお越しくださいました。」

「この度のご出産、本当におめでとうございます。」

「ありがとうございます。」

「これで、この地も安泰ですね。喜ばしい限りです。」

 二人は握手を交わし、話し込んでいった。


 ゆったりと椅子に腰かけ、飲み物を楽しむ、ロミオ三世とニコライ六世。

「ところで、くだんの勇者とは、どのようなモノなのですか?」

「はい、男性の異世界転移者です。年齢はやがて十八歳を迎えます。」

「ふむ…。」

「ドラゴンを二度退け、確たる証拠も持ち帰りました。」

「そうですか。

 であれば、何の問題もありませんね。」

「しかし、この城塞都市の建国時に制定された権能が今回初めて適用させるとは…。」

「ふふふ、楽しみな事ですね。」

「スフラン王国からも国王の名代が来られますし、近隣諸国からも王侯や諸侯が来られるとの連絡が来ています。」

「六百年ぶりの勇者誕生ですからね、関心も高いのでしょう。」

「はい、そう思います。」

 飲み物の追加が届けられる。


「そう言えば、彼の結婚式も執り行うのでしたよね。」

「はい、折角ですので、戴冠とともに結婚も挙行させようと思っています。」

「なぜに、”挙行させよう”と言われるのですか?」

「実は、彼は一夫多妻になりそうなのです。」

「ははは、これは良い。

『英雄は色を好む』と言いますからね。」

「まぁ、彼の辿り着いた先が母子家庭であり、母、娘達と姻戚を結ぶよう、私の妻がそそのかしたこともあるのですが…。」

「ふむ。

 で、何人娶る事になるんですか?」

「はい、母親、娘二人、そして従者一名の計四人です。」

「分かりました。

 …なにやら賑やかになりそうで、今から楽しみですね。」

「はい!」


 あのぉ~気のせいかもしれませんが、ナオキ君ところの嫁さんの数、増えてません?


 閑話休題それは、さておき


 ところ変わって、こちらはナオキ君家…。

 おぉ、玄関に執事ティーノが佇んでますね、ニヤニヤしながら…。


 んで、家の中では、黄色い声が飛び交っているようです。

「これ、いいわねぇ~。」

「おかあさん、こっちも素敵じゃない?」

「どれどれ…。

 うん!

 これもいいわ!」

「奥様、こちらもよろしいかと…。」

「ちょっと待ってね…

 うん!

 これもいいわね…。」

「おかあ~さん、これは??」

「エル…それはちょっと…。」

「ぶ~…おねぇちゃんのいけずぅ!」

 ここで、笑い声が聞こえてくる。


「ご主人様…今しばらくの我慢ですぞ。

 式が終わるまでの我慢ですぞ。

 着せ替えは奥方様の楽しみの一つです。

 我慢されるのですぞ。」

 今にも吹きだしそうな口を右手で抑え、笑顔の執事。

 メグ、アル、エル、そしてレッシーを巻き込んで、ナオキ君の着せ替え祭りは続くのでした。


 ちなみに、届いた衣装は、彼の分だけでも馬車一台分。


 …え、奥様方向けの衣装の数ですか??

 そんなの馬車に収まるわけないじゃないですか!

 領主の屋敷にある広い衣装部屋クローゼットを貸切って、朝も早くから盛り上がってました。


 アルとエルは年相応のかわいらしさを全面に、メグは大人びた衣装…背中と肩が見えるのが何ともなまめかしい。

 んで、式に出るのだからとレッシーも衣装合わせが行われ、こちらはちょっと控えめの大人の衣装に落ち着く。


 ちなみに、ナオキ君もお供で付き沿ってます。

 結局、奥様方の衣装が決まったのが、お昼も過ぎ、そろそろ日も傾きかけた頃。


 で、夕食を食べ終わり現在に至っている。

「なぁ、もうそろそろ、終わりにしないか?」

「ダメよぉ!!」

「そうそう、人生一度きりの事なんだから!!」

「衣装だって、まだ、こ~んなにあるんだからぁ!!」

「ナオキ様、今しばらくの辛抱です!」

「…はい…。」

 家の中は、相も変わらず黄色い声が飛び交っている。


「さてさて、今夜はオールナイトになりそうですね…。」

 降るような星空を見上げ、満足そうな顔をする執事だった。

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