第28話 勇者誕生

「これは、確かに我が家に伝わる王冠。

 よくぞ取り返してくれた。」

「はい。」

 ロミオ三世の前で感謝の言葉を受けるナオキとアル、エル、んで、ティーノさん。


「…で、ものは相談なのだが。」

「はい?」

 歯切れの悪いロミオ三世に不思議そうな顔をするナオキ。


 ◇ ◇ ◇


「というわけで、我々はドラゴンの住まう洞窟の前に来ております。」

 実況中継よろしく、ティーノがニコニコしている。


「デ、デジャブー!!」

 ティーノにツッコミを入れるアルとエル、そしてナオキ君。


 ◇ ◇ ◇


「まったく、『我が家に伝わる”王笏”をドラゴンの洞窟から…』のくだりで、またここに来るとはねぇ…。」

「まぁまぁ、ナオキ様落ち着いて。」

 ナオキがぼやけば、ティーノがたしなめる。


「今度は、変なトラブルは無しにしてよ!

 ナオキ!!」

「実際うるさかったんだぞ~!

 ダ~リン!!」

 アルとエルが、ナオキに愚痴る。

「悪かったよ。

 今回はちゃんと準備してきた。」


 ナオキの腰元には、メグ謹製のスピーカーが巻かれていた。

 ティーノの依頼に基づく装備である。

 どうやら、今回の洞窟潜入では、スピーカーが意味を成すらしい。


 いつもの順番で、洞窟に突入。

 ネズミやコウモリ、ヘビにサソリの大物団体とおかりを済ませ、お目当ての最深部に到着する。


 ナオキとティーノが前衛に、アルとエルが後衛に着き、いよいそ最深部の壁を抜ける。

 そこにはドラゴンが佇み、こちらの様子を窺っているが、ブレスを吐く気配はない。


「また、お前たちか?」

 ドラゴンは、来訪した四人に語りかける。

 話を所望しているドラゴンの姿に、ナオキ達も武器の構えを解く。


「今回は、”絶叫”による呪いはかけないのか?」

 ”絶叫”という言葉に、音楽が爆音になってしまった事を思い出し吹き出しかけるナオキ。

 あの爆音の原因を作ったティーノに視線を向けるナオキと、あさっての方向に目を逸らせるティーノ。


 ドラゴンは落ち着き払ったように続ける。

「まったく、ドラゴンに”呪いの絶叫”を掛けようとするものなど、初めて見たぞ…。」

「いえ、実は、あれは音楽というものでして、絶叫や爆音ではないんです。」

「オンガクとな?

 オンガクとは何なのだ?」

「とりあえず、聞いてもらいましょう。

 ナオキ!」

「そ、そうだな。」

「???」

 アルが駆け寄りナオキの腰に巻いたスピーカーを下に置き、ナオキはスマホを取り出し、手早く選曲を始める。


 その一連の行動を不思議そうに見ているドラゴン。

 相変わらずティーノは、明後日の方向を見やり、エルは後方の警戒をしている。


 音楽が流れだす。

 バッハの小フーガト短調。


 パイプオルガンの調べが洞窟内に響き渡り、荘厳な世界が広がって行く。

 ドラゴンは目を閉じ、音楽に聞き入っている。


 やがて音楽が終わり、静寂が戻る。

「なるほど、心落ち着く素晴らしきものであった。」

 ドラゴンは目を開き、ナオキ達を見る。


「欲しいものが何かあれば、持って行くが良い。」

「はい。」

 アルが返事をし、宝の山から”王笏”を見つけ出し、引き取った。

「私達の用向きは以上です。」


「ベティは、相変わらず、臆病ですね。」

「!!!」

 あさっての方向を向きながら流暢に語りだすティーノと、顔面蒼白になるナオキとアル。


 ドラゴンがゆっくりとティーノの方に顔を向ける。

「どういう事かな?」

「いえ、先日訪れた際は、爆音を聞かれ、慌てて逃げ出されたようで…。

 ”呪いの絶叫”は恐ろしいですかな?」

「当然だ、その力で神を封じて見せたのは、貴方じゃないか、クロムウェル!」

「くろむうぇる??」

 三人が首をかしげながら、ティーノの方を見る


「今はティーノと名乗っているんです、よろしくね♪」

 ティーノは執事の挨拶姿勢でドラゴンへ向き直る。


「あははは、これは愉快。

 最強の名を捨てられるのか?」

 ドラゴンが高笑いをする。

 ドギマギしているアルとナオキ。

 後ろ向きだが、エルも固まっているのが分かる。


「私の名前が変わったところで、私の本質も、力も何ら変わるものではありませんよ。」

「そうだな、貴様はだった。」

「では、ベティ我々は行きますね。」

「あぁ、強者ともよ、縁があれば会う事もあるだろう。」

 ティーノはゆっくりと出口に向かって歩き出した。


 ナオキ達も促されるように出口に向かおうとする。

「お前たち!」

 ドラゴンは、ナオキ達三人を呼び止める。

 ドラゴンの方に向き直る三人。

「若き勇者たちよ、

 何を望む、

 何を願う。」

 アルとエルが頷き、ナオキの方に各々の手を置く。


 ナオキは大きく吠える。

「音楽を全世界のみんなに聞かせる事!!」

しかり!

 若き勇者の善戦を祈念しよう。」

 ドラゴンは立ち上がり、若き冒険者に大いなる祝別を授けた。


 四人は最深部から洞窟入り口に向けて歩き出した。

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