第27話 ドラゴン退治

「というわけで、我々はドラゴンの住まう洞窟の前に来ております。」

 実況中継よろしく、ティーノがニコニコしている。


 ◇ ◇ ◇


「ティーノ…さん、誰に向かって話してるの?」

 辛うじてティーノにツッコミを入れるアル。

 ナオキは周囲を警戒し、エルは所持品の確認をしている。


 ここまでの道中はクリスのフォローがあり、難なくやって来る事が出来た。

 が、ここからは違う。

 フォローはティーノにバトンタッチ、そしてダンジョンクエストに不慣れなナオキ達…。

「無理なんじゃね?」

 ナオキがぼやく。


 ◇ ◇ ◇


「暴竜の討伐クエストをやりたい…と?」

 ロメオ三世が不思議そうにナオキ達を見る。

 今日の謁見は、アルとエル、そしてティーノが出席している。

「は…はぁ。」


 気のない返事のナオキ。

「旦那さまに変わって、私から説明します。」

 ティーノがロメオ三世に話し始める。

「勇者の称号が必要なのです。」

「と…唐突ですね。」

「はい、今回の称号獲得は手段でしかありません。」

「というと…。」

「この地には、広く音楽が浸透してきました。

 この動きを全土に広めてみたいのです。」

「なるほど、メリットのある話だ。

 しかし、勇者の称号は不要ではないか?」

「”全土”に広めたいのです。

 この意味を解って頂きたく思います!」

 珍しく力説するティーノに、三人はびっくりしている。


 しばしの沈黙が流れたのち

「あい、解かった。」


 ロメオ三世が立ち上がり

「では、我が家に伝わる”王冠”をドラゴンの洞窟から取り返してきてもらいたい。」

 そう言うと奥に退き、変わってクリスが入ってくる。


 ◇ ◇ ◇


 洞窟は薄暗く、松明片手にティーノが先頭を歩き、殿しんがりはナオキが付いている。

 ネズミやコウモリ、ヘビにサソリ…どれもが大型ではあった。

 それ以外に特異な化物モンスターに会うことなく、洞窟の最深部に近づいてくる。

 まぁ、ティーノがそろそろ最深部ですよぉ~と観光案内人のように松明を振っているだけの話しなのだが…。


 洞窟の最深部が迫る。

 ナオキはスマホのボリュームを最大限に開き、お気に入りのナンバーでアドレナリンが溢れかえる。


 いよいよメインディッシュが近づいてきた。

 ナオキとティーノが前衛に入り、アルとエルが後衛に着く。

 最大限の警戒をしながら、最深部の壁を抜ける。


 そこには、ブレスを吐かんとするドラゴンが眼前に!

「!!!」

 お気に入りのナンバーもいよいよ最高潮…と思った矢先に、ティーノが石につまづき倒れ込んでくる。


 ナオキはとっさに身をかわしたのだが…。

 彼が倒れ込んだ瞬間に、スマホに刺さっていたイヤホンのケーブルが外れ、サビの絶叫が爆音よろしく洞窟最深部に響き渡る!!


 全員の顔が蒼白に(笑)

 同時に最深部は土煙に覆われる。


 手早くプレイヤーを停止し、周りを見渡すナオキ。

 土煙が鎮まる中、アルとエルは蒼白のまんま、ティーノは倒れた状態で突っ伏したまま震えている。

 アルとエルの肩をゆすりながら意識を戻し、ティーノを叩き起こすナオキ。


「お前なぁ…」

 と言いかけて、最深部を見回すと、漆黒のはずが、外部の光が差し込んでいる。

 ドラゴンは消え失せ、見上げれば天井部に大穴、そこから外光が差し込み、お宝もキラキラしている。


 ゆっくりと立ち上がり、服の埃を払い落すティーノ。

「とりあえず、ロミオ三世がお求めされた品を貰って帰りませんか?

 幸いメインディッシュはお留守のようですし…」

 程なくして依頼のあった「王冠」を見つけ出したナオキ。

 アルとエルはといえば、めぼしい武器と防具を探しているが、見つかる気配はなさそうだ。


「とりあえず、メインディッシュが帰ってくる前に逃げるぞ。」

 王冠をしまい、手短な貴金属をまとめ最深部から抜けようとする。

 と、天井の穴を指差しながらティーノが

「ナオキ様、せっかくですし、あそこから出ませんか?」

 と言い出した。


「じぃ~、どうやって、あそこへ飛ぶの?」

「飛翔魔法でも無い限り、無理です!」

 エルとアルが畳みかけて質問する。


「みなさん、お任せあれ」

 ティーノは四人を囲む規模の魔法陣を構築する。

 魔法陣はゆっくりと地表を離れ浮上を始める。

「!!!」


 声にならない悲鳴をあげるアルとエル、何故か目を輝かせるナオキを乗せて、魔法陣はゆっくりと天井の穴に向かって吸い込まれるように上って行った。

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