第26話 勇者になりません?

 月日は流れ、ラジオの有線放送も普及した。


 いよいよメグの出産も近づいた頃、領主婦人に呼び出されるナオキ達。


「そろそろ、式の日取りを決めましょうか。」

「はい!」

 明るく返事をするナオキ、その受け答えにご満悦の領主婦人。


 そして、いつになくキリッとした態度のナオキに惚れ直すお嫁さん達…って、レッシーが何故ここに??


 協議の結果、メグの出産を待って結婚式を執り行うことで、決着した。

「式場と、衣装は任せて下さいね。」

 そう言うと、自身もふっくらした身体を抱え、領主婦人が席を立ち、奥に退かれた。


 呼ばれた五人は謁見を済ませると、領主の屋敷を後にする。

「…ところで、レッシーはいつまでここに居るんだい?」

「あなたのお役に立てるまでよ!」

「それは、俺が決めるって事?」

「いいえ、神さまです。」

「ふ~~ん。」


 珍しくナオキとレッシーが話している。

 他の三人は結婚式の衣装でワイワイと盛り上がっている。

「女神なんだから、自由に帰る事もできるだろうに…。」

「残念ながら、私には、天に帰る権能を持たされていないの。」

「そっか~。

 なんか悪いな、ごめん。」

「謝らなくてもいいわよ。

 貴方の役に立てることがきっとあるはずだから…。」

「今でも十分に役立っているんだけどなぁ。」

 ナオキは空を眺め、レッシーも同じように空を眺める。


「神さま…私どうしたらいいんでしょう?」


 夕食時も結婚式の話で盛り上がっている…のだが、浮かない表情のレッシー。

 いつもと違うのは、ティーノが居る事だった。

 そして、クリスも夕食をご相伴に預かりに来ていた。


 メグ、アル、エルとクリスはウェディングドレスの選定に盛り上がっている。

 レッシーとナオキは四人の盛り上がりを微笑ましく見ており、ティーノは、黙って食堂の端に待機していた。


 ある事を思い出したのか、ティーノがナオキのところに来て話し始める。

「ナオキ様、つかぬ事をお聞きしたいのですが…。」

「何ですか、ティーノ?」

「ナオキ様は、この国を旅した事は?」

「まだ、ここが二ヶ所目です。」

「もしよければ、この国を視て回るのはどうですか?」

「出来るのでしょうか?

 オレに…。」

「まぁ、準備は必要でしょうね。」


 ティーノの返答に、肩をすくめるナオキ。

 そこに近づいて来るレッシー。

「ですよね…。

 でも、何故、オレに国を視て回れなんて言うんですか?」

「音楽が世界に満ちる事を期待しているんです。」

「それは、素晴らしい事です。」

 珍しく目をキラキラさせるティーノと、ティーノの発言で、目がキラキラになったレッシー。


「あ、あの…レッシーさんや?」

「はい?

 何でしょう??」

「オレが出かけると、貴女の目的がまた遠のくと思うんですが…。」

「構いません!!

 音楽が世界に満ちる事は、いい事なんです。

 その為に、私が被る事なんて、微々たるものですよ。」


 心配するナオキをよそに、嬉しそうなレッシー。

 自分があるべき姿に戻れる日が延びてしまう事を気にする風はない。

「よろしいですかな?」

 ティーノが二人の会話に割り込む。

「失礼しました。」

 二人が同じタイミングで同じ言葉を発する。

 お互いに顔を見合わせ恥ずかしそうにコロコロと笑う。


 さすがのティーノも苦笑いするしかなかった。


「ところでティーノ、準備とは?」

「ああ、そうでした。ナオキ様は、まだ屋号は持ってませんよね?」

「屋号?

 …越後屋とか伊勢屋とかの事ですか?」

 ナオキの反応に、ティーノとレッシーが顔を見合わせ大笑いを始める。


「屋号…ね。」

「たしかに私の言い方も悪かったですが…。」

 笑いの止まらない二人の声に、結婚話中の四人も加わってきた。


 …笑い止まりませんねぇ。

 あ、何人か笑い過ぎて涙出てきてますよ。


「ナオキ様、勇者の称号を持ちませんか?」

「はぁ~~~~~~~~~~~~!!!」

 ティーノの提案に、満場一致で変な声が上がる。

「勇者って…

 何を考えているんですか?」

「勇者の実績か…

 はてさてどのくらいかかるのだか。」

 レッシーとクリスが交互にティーノへツッコミを入れる。


「えぇ、解っていますよ。

 だから、勇者の称号を持ってみてはどうかと思ったんです。」

 ツッコミをさらりとかわすティーノ。


「勇者の称号を持つことに意味があるの?」

 エルが正直な質問をする。

「それはですね…。」

 と答えるティーノを遮り。

「勇者や英雄という称号は、言ってみれば万能手形じゃよ。」

「領主はもちろん、国王であっても一目置く存在です。」

 くるくると踊るように入れ替わり立ち替わり話し始める、クリスとレッシー。


「勇者は、武勇に秀でていると認められた者に与えられる称号じゃ。」

「英雄は、国家や世界の存亡に関わる重大事を解決した者に与えられる称号です。」


「いずれにしても、相応の実績を積み上げる事が最低条件になるのう。」

「もちろん、実績については、少なくとも一つ以上の住民救援が必要になります。」

「一国の危機を回避するだけの実績は求められるじゃろう…。」

「結果論ね。

 でも、一人二人の人助けで済むような事態じゃないわね。」


「最近勇者になられたのは、魔王と言われたアキラ王とその仲間じゃったな。」

「ちなみに、英雄になられたのは、その魔王を倒した、この街の領主ロメオ夫妻と…。」

 レッシーが言葉を詰まらせ、クリスの方を見る。


「廃王と言われる、マッケンジー様じゃよ。」

 少し寂しそうな表情になるクリス。


「ご高説、ありがとうございました。」

 ティーノが二人を横に押しやって割り込んでくる。

「まぁ、これらを踏まえたうえで、勇者の称号を持ちませんか?」

「どうやって??」

 困惑するナオキをはじめ、会話にかかわる一同。


「方法はあります。

 …よねぇ、クリス様。」

 含み笑いを浮べながら、ティーノがクリスに話しかける。

「何?

 無茶振りかい?」


 しばらく考えていたクリスが、ある事に思い至り、ティーノを見返す。

「ティーノ!

 おぬしまさか…。」

「ええ、そのまさかですよ。」

「???」

 二人の会話について行けない一同を見回しティーノが言い放つ

「暴竜の討伐クエストです!!」

「はぁ~~~~~~~~~~~~!!!」


 ティーノの発言に、再び満場一致で変な声が上がる。

 ただ一人、クリスが真剣に考え込んでいた。

「やってみる価値はありそうじゃのぉ…。」

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