第25話 燕尾おやじの訪問

 ティーノが城塞都市ツィベネにやって来た。


「ほう…音楽とは、久しく聞いていなかっただけに、新鮮ですね。」

 すっかり音楽で賑わいを増した商店街を抜け、ナオキ邸(アパート)に向かうティーノ。


「久しぶりにお会いするが、みなさま元気なのでしょうか…。」

 目を細め、ニコニコするティーノの後ろを男の子たちが駆け抜けていく。

 木の棒を持ち、戦隊モノの主題歌を唄いながら走って行った。


 アパートの扉をノックするティーノ。

「は~~い!」

 聞き覚えのない女性の声に小首をかしげるティーノ。

(はて?間違えたのでしょうか?)


 程なくして扉が開き、挨拶をするレッシー。

「こんにちは。」

「こんにちは…。」

「???

 どうされましたか?」

「あ、いやぁ…。

 こちらに、ファフ…もとい、ルーメグレックス嬢がこちらにお住まいと聞きまして…。」

「あぁ、メグママね。

 ちょっと待っててね。」

「メ、メグママ??」

 呆気にとられるティーノを置いて、レッシーは奥に入って行った。

 二言三言会話が入り、メグが玄関に近づいてくる。


 ふっくらとした姿を目の当たりにして、思わず息を呑むティーノ。

「あぁ…お嬢様、何とおいたわしい事に…。」


 泣き崩れる燕尾おやじに慌てて駆け寄るメグとレッシー。

「どうしたのティーノ、いきなり泣き出して…。」

「うぅぅ…お嬢様が…。

 また、あの悪夢を見させようというのですか。

 あのじじぃはぁ!!」

「はい?」

「ち、違うのよ、この子の親は…。」

 レッシーが驚き、メグがティーノに話しかけたタイミングで、ナオキが帰ってくる。


「ただいまぁ!」

「彼よ!!」

「は?」

「!!!」

 ナオキの腕をつかみ、ティーノに引き合わせるメグ。

 ティーノの前に引っ張り出されて驚くナオキ。

 お嬢様のお腹の子の親と言われ、ナオキに引き合わされたティーノ。

 あまりのドタバタにレッシーは固まっていた。


「ただいまぁ!

 って、ティーノさんだぁ、こんにちは!」

「あら、ティーノおじさま、いらっしゃい。」

 遅れてアルとエルも玄関に入ってくる。


 ◇ ◇ ◇


「そ、そうでしたか…。

 それは、おめでとうございます。」

 ようやく落ち着いたティーノは、メグに祝辞を述べる。


 アルとエル、そしてレッシーが食事の準備を始める。

「ところで、彼女はどなたですか?」

 ティーノがレッシーを指して質問すると、全員がギクッとする。

(どうして女神がここに居るんでしたっけ?)

 全員が同じ疑問を持つ。


「??? 

 どうされました?」

 ティーノが不思議そうに全員の顔を見回す。

 ナオキがおもむろに答える。

「女神さんです。」

「そうですか、女神さんですか…。」

 ティーノは、ゆっくり頷いた…。


「ええぇぇっ!!!」

 レッシーの顔を二度見するティーノ。

 どうやら、尋常でない事態に気付いたようだった。


 一通り食事も終わり、ナオキは明日の放送準備のため寝室へ、アルとエルは食器の後片付けに台所へ退いた。


 レッシーとメグは食台に残り、ティーノをもてなしている。

「…そうですか。レッシー様は女神様でしたか。」

「はい。

 …ナオキ様の手助けをするために、この地にくだって来たのですが…。」

「あの人、もうスキルは必要ないって言うものだから…。」

「なるほど…。」

 ティーノはお茶を一口飲み、ゆっくりと二人を眺めながら、話し始める。


「しかし、レッシー様はナオキ様の手助けを存分に果たしているのではないですか?」

「どうしてです?

 私はまだ彼にスキルの継承を行っていませんけど…。」

「いや、ラジオによる音楽配信を始めたこと自体、ナオキ様への手助けは十分すぎませんか?」

「なるほど…。

 そうよね。レッシーはもう十分に働いてますよね。」

 メグは頷き、レッシーの頑張りを改めて評価しているが、レッシーの顔色は冴えない。


 ティーノがレッシーを覗き込む。

「どうされましたか?」

「…連絡が無いんです。

 主神ボスから。」

「ふむぅ。

 こちらから連絡を取る手段は無いんでしょうか?」

「ありません。」

「おやおや。」

 ティーノは肩をすくめてしまい。

 メグも肩を落とした。


「…何が足りないんだろう?

 もう少し様子を見ないといけないのかしら。」

 レッシーは考え込むばかりだった。

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