第23話 音楽登場

「…で、これがラジオ?」

 ロミオ三世が婦人と共にラジオもどきをしげしげと見ている。


 ここは謁見の間。

 城に勤める大臣達や家臣、騎士団やメイドも集め、音楽を聴こうとしている。

「では、お願いします。」

 クリスがラジオにそっと話しかけると…音楽が流れだす。


 ◇ ◇ ◇


 G線上のアリア。

 バイオリンの奏でる音に居合わせた人々がうっとりとしている。

 そして、穏やかに音楽が鳴り止むと拍手が巻き起こる。

 拍手を制止し、唇の前で人差し指を立てるクリス。


 続いては、ウィリアム・テル序曲(スイス軍隊の行進)。

 ファンファーレの音にびっくりする聴衆。

 続く音楽に身体を揺すりだす人々。

 終いには走り出しそうになる騎士達と、それを抑えようと必死な執事とメイド達。

 音楽が終わると、こちらも拍手喝采!!


 ◇ ◇ ◇


「これは、面白い!!」

 ロミオ三世が立ち上がり感嘆する。

 すると居合わせた人々も頷き、拍手をする。

「音楽とは、こうも人々を感動させ、躍動させるものなのか?」

「仰せの通りです。」

 クリスが答える。

「実に愉快だ!

 早速、城内各所にラジオを置き、たみに音楽を聞かせ、その反応を見てみようではないか。」

「恐れ入ります。」


 ロミオ三世は、城内でのラジオ放送を許可した。

「お前たち、ラジオが欲しいものは申し出るように!」

 そう言うと、ロミオ三世は、ラジオを小脇に抱え、婦人と共に謁見の間から去った。


 押し寄せる人々の波にたじろぐクリス。

「待て待て…待たんかぁ~~~いぃ!!!」

 クリスの一括で、人々の波が止まる。

「後日、配布の手続きをするので、今日はここまでで解散じゃ。

 よいな!」

 非常に残念そうな面々が三々五々各々の持ち場に戻って行った。


 ◇ ◇ ◇


「大成功じゃ!」

「そうですか…。」

 ガッツポーズのクリスに対し、胸を撫で下ろすナオキ。

 一番分かり易い選曲で二曲選べと言われた時に、真剣に悩んだ自分がいた。


 クリスの返事を聞くまで悶々としていたことが、嘘のように晴れやかになった。

「まぁ、これでお前の望む未来が一つ開けたの。」

「はい!」

「…嫁さん方には、感謝するのじゃぞ。

 今回の成功、彼女たちの能力ちから有っての事、努々ゆめゆめ忘れる出ないぞ。」

「はい…。」

 ナオキが振り返ると、我が事のように喜んでくれる嫁さん達と女神さま。


「それじゃあ、またな。」

 クリスがゆっくりと立ち去ろうとする。

「おっと、忘れておった。」

 ナオキに振り返り。

「ラジオを二十五台作っておくれ!」

「!!!」


 ナオキの脳裏にこれまで対峙してきた、ゴブリンの団体さん達の顔がぎって行く。

 アルも同じ光景を思い出し、青ざめる。

 もはや、両手の指で数えるには足りない程の団体さんを相手にしてきた。

 そしてエルは、魔石をかき集めるために、鬼気迫る勢いで、ゴブリン達を乱獲する兄と姉を目の当たりにしている。

 この悪夢が、今しばらく続くという事である。


 当然の如く、ナオキの笑顔は引きつり、アルとエルも同じように笑顔が凍り付く。

「えぇ~~~~~~~~~~~~!!!」

 悲鳴があがる。

 クリスが悪い顔になり、背を向けてドアを開く。


「あぁ。材料は冒険者ギルドから安く払い下げて貰えるように話しておいたよ。」

 クリスは悪い顔でニヤリと笑い、ドアを閉めた。

「はぁ~~~~~~~~~~~~!!!」

 今度は別の悲鳴が家にこだまする。


 一段落した夕食時

「みんな、これからもよろしくお願いします。」

 ナオキが四人の女性に頭を下げていた。

「任せてよ、ダ~リン!」

 エルが言えば

「こちらこそ、よろしくね。ナオキ!」

 アルも答え

「ラジオ作りは、私達に任せてね!」

 メグとレッシーが腕を組んで、胸を張る。

「ありがとう。」

 ナオキは顔をあげ、にっこりとする。


「ところで、ラジオは出来ても肝心の音楽を浸透させる方法は?」

 エルの質問に全員の動きが止まる。


 そして視線はナオキへ。

「え~~と、考えています。」

 ナオキは、とりあえず有線放送のような感じで音楽に親しんでもらおうと考えていた。


 音楽のジャンルは多岐にわたる。

(これからが大変だ。

 俺の選曲が偏ると音楽の良さが伝わらなくなってしまう。

 もっと勉強して、みんなに喜ばれる音楽世界を実現しないと。)


 しかし、どのようなジャンルがヒットするのか皆目見当がつかない。

 そもそも音楽など無かった世界に、音楽を持ち込むなど、それこそ鬼が出るか蛇が出るか…。


「せめて曜日ごとにジャンルを切り替えられればねぇ…。」

 ため息をつくナオキを不思議そうに見るメグ。

「曜日ごとに切り替えていいんじゃない?」

「は、はいぃぃ??」

 凍り付くナオキとアル。

「よ、よ、曜日って?」

 恐る恐るナオキがメグに聞く。

「ええ、日曜から始まり、月曜・火曜・水曜・木曜・金曜・土曜の7日間で1週間…

 でしたよね?

 レッシー。」

「そうよ。

 この地方は神聖マロウ帝国の影響もあって、太陽暦が使われているのよ。」

 メグの問いかけにあっさりと答えるレッシー。

「ひょっとして、一年を十二ヶ月に分けたり…。」

「良く知ってるわね、その通りよアル。」

 アルが慎重に聞いた質問に、こちらもあっさり答えてのけるレッシーさん。

「じゃ、じゃぁ、六月花嫁June Brideは?」

「…ごめんなさい。

 それは解らないかな。」

 レッシーの返答に、地団駄をタップダンス並みに行いながら残念がるアル。


「これで、あなたの希望に一歩近づいたわね。

 ナオキ!」

 メグの言葉に自信の笑みを浮べるナオキ。


「ところで、曜日って何?」

 一人取り残されたエルが不機嫌全開で、全員に詰問する!

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