第20話 そして、また一人…

 というわけで、旅装束の新米女神レッシーさんがナオキ君家に、やって来たぁ♪


「あ、スキルはもう要りません!」

「へ…。」

 地上界にわざわざ降りてきたイベントが、のっけから頓挫させられてしまうレッシー。


「あの、チートなスキルをですね、ナオキさんに与えるように、先輩から…。」

「ですから、要りません!!」


「今後の冒険者生活に…」

「間に合ってます。

 要りません!!」


「お茶…はいりましたよ♪」

 食台に向かい合って座るナオキとレッシー…なのだが、レッシーがいくら話しても、暖簾のれんに腕押し、ぬかに釘。


 ちょうど、お茶を持ってきたところで、メグもナオキの隣に座る。

「あなた、そんな頭ごなしに…。

 レッシーも、もう少し事情を説明してくれない?」

「ごめんなさい。」

「はい。すいません。」

 メグにやんわりと怒られて、お互いに謝るナオキとレッシー。

 キッチンでは、洗い物をしながら姉妹が覗き見している。


 レッシーがナオキのところに来た理由は、単純明快。

 冒険者として必要とされる全てのチートスキルをナオキに授与し、この世界の成功者になってもらう事だった。


 王家の姫君をお妃に迎え、広大な領土を所有し、巨大な戦力と莫大な財を手に、世界を牛耳る程の政治力を持って、人生を謳歌させる。

 これが、先輩女神がレッシーに依頼した全てだった。


 ところが、ナオキは世界に興味がない。

「美人の花嫁を三人も貰ってるんだから、これ以上は、ばちが当たる。」

「でも、一国の妃を迎える事も…。」

「俺、これでも近々パパになるんだよ。」

「!!!」


 レッシーは慌てて席を立つとメグのところに向かい、膝をかがめメグのお腹に両手を置いて祝福する。

 メグの全身が淡い光に包まれる。

「ありがとうございます。

 女神さま」

「…すいません、お祝いが遅れてしまって。

 改めて、おめでとうございます!」

 メグに一礼し自席に戻るレッシー。


「…で、どこまで話しましたっけ?」

「…」


「これ以上は、平行線でしょうし…。

 レッシー様、一緒に買い物に行きませんか?」

 メグはレッシーを促し、二人が席を立つと。

「私達もお供した~~い。」

 姉妹二人もキッチンから出てくる。

「うん、気をつけて行っておいで。」

 珍しくナオキが返事をする。


 二人の姉妹が露店をあちらこちらと覗きながら先を行く、メグとレッシーは談笑しながら歩いている。

「少し時間を置いてから出直してみたらどうかしら?」

「時間がどこまで頂けるか判らないんですよね…。」

「スキルの恩寵を送らないという話は…。」

「そ、それは出来ません!!

 そんな事したら、私が先輩に怒られます!!」

「そ、そうなのね。困りましたねぇ…。」

「でも、今日明日で気が変わりそうもないし…。」

「!!!」

 しょんぼりするレッシーの横で、ある事をひらめくメグ。

「今じゃないんだけど、近いうちに、女神さまの助けが必要になりそうかも…。」

「えっ!!本当ですか!!」

 メグの話で急に元気を取り戻す楽天家女神の~てんきレッシー


「ただ時期が…。」

「あ、それはすぐに確認します。」

 スマホを取り出し電話を始める。

 その姿に見入るメグ。

「…はい、…はい!

 …では、そのように…。

 はい、また連絡します。

 それでは…。」

 通話を終わり視線を動かすと、メグの顔が間近に!!

「きゃぁ!!!」

「ひゃぁ!!!」

 顔がぶつかりそうな距離に驚くレッシーと、驚いたレッシーに驚くメグ。

 …二人は吹きだしてしまう。


「スマホって、他の方との通信アイテムだったんですね。」

「はい…って、ナオキにもスマホを持たせてたはず…。」

「あの人に、通話を出来る相手はいません…。」


 椅子にもたれかかり、ネットサーフィンをするナオキの姿が二人の脳裏を過ぎる。


 レッシーは気まずそうに俯き、そんなレッシーの肩に手を置くメグ。

「でも、スマホの本当の使い方が解って良かったです。」

「???」

「また一歩、あの人の心に寄り添えます。」

 レッシーの手を握りメグが熱っぽく語っている。

 そんなメグを満足そうに目を細めて見守るレッシー。


「ねぇ~、おかあさん”達”!

 早く早く、市場が閉まっちゃう!」

「は~~~い。

 さ、レッシー、私”達”も行きましょう。」

「はい!!」

 メグとレッシーが、二人の姉妹の下へ走って行く。


 ◇ ◇ ◇


 ところ変わって、こちら天界…て?

 えっ??


「えぇ、…はい。

 おしゃられる通りです。

 …はい、その点については、抜かりなく。

 …はい、適任と思われます。」

 先輩女神がスマホで通話中。


「え?

 家族に…ですか?

 …はい、…ふふふ、それは面白い事になるかと…。

 ええ、…仰せのままに。」

 通話を終えた先輩女神がニコッと笑う。


「ごめんねぇ~レッシー!

 もうしばらく地上界そっちで楽しんできてね!」

 スマホを机に置き、別室へ移動する先輩女神。


「家族もみんな認めてくれたみたいだから…。

 ご結婚おめでとうございます、フローレンシア!」

 次元の扉が閉ざされる。

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