第18話 家族

「ここに、文字を打ち込んで…、ここを押す…と。」

「あらあら、何だかいっぱい出てきたわね。」

「そう。

 …で、ダイジェストを見ながら、これってところで、ここを押す…と。」

「まぁ!!文字だけでなく…実物も写ってる!!」


 寝室でスマホの操作を指南するナオキ。

 メグはスマホを手に持ち、操作を指導されている。


「あ、これ動画ですね…。

 …よっと。」

「きゃぁ~~~~~~!!」

 母親の悲鳴に近い声を聞きつけ、走ってくる二つの足音。

「ママ!…」

「おかあさん!…」

「何ごとぉ!!!」

 姉妹が寝室に入ると、スマホを中心に仲睦まじいナオキとメグ。


 見る見る赤面する姉妹。

「ご、ごめんなさいね。

 あなた達…。」

「ごめん。」

 素直に謝る二人。


「いいよ…。

 何も、問題なければ…。」

 そう言って扉を閉めようとする姉妹、アルとエルを手招きするメグ。


 二人がベッドに近づくと

「今日は四人で寝ましょう♪」

「わ~~い!」

 エルはすぐにベッドへ飛び乗り、ナオキとメグの間に割って入る。

 アルはモジモジしている。


「もう、困った子ね♪」

 アルを抱き上げると、自分の膝の上に座らせるメグ。

 アルは益々モジモジし、エルはブーたれている。


 前回の反省を踏まえ、スマホの音声はギリギリまで小さくし、今夜は四人で「月の光」の動画を観賞する。


「これから、『月の光』のピアノ演奏を見てもらいます。」

「はぁ~~い!」

「それでは…、再生っと。」

 静かに流れだすピアノの調べ。グランドピアノに向かって演奏するイブニングドレスの女性。


 彼女の手から紡ぎだされ、ピアノから奏でられる音楽。

 三人は不思議なものを見るように、動画に見入っていた。


 やがて演奏が終わり拍手が沸き起こるころ、三人がナオキを見る。

「ねぇ、ピアノって作れないの?」

「私も演奏してみたい!」

 姉妹が交互にしゃべりだし、メグが動画をじっくり見直し出す。

「メグ。

 ピアノはやめとこうよ。」

「え?

 どうして??」

「ピアノが完成しても、演奏する方法がない。」

「あ!」

「俺、ピアノ教えられないし、この世界でピアノを知ってるのはこの三人だけだから…ね。」

「むむぅ」

 残念がる三人。


 窓を見れば、三日月がベッドを照らし出している。


「みんな…」

 ナオキは三人を手招きし、窓の外を指さす。

「三日月だぁ…」

「綺麗…」

 アルとエルは感嘆し、メグはもたれかかてきた。

「月の光」が流れ出すと、みんながまどろみ始める。

(今日はいい夢が見れそうだ…。)

 ナオキはゆっくりと眠りにつき、三人のお嫁さんも彼の体に寄り添って眠りについた。


 ◇ ◇ ◇


 朝焼けの頃、ナオキが目を覚ますと、三人のお嫁さんが自分の周りでぐっすりと寝ている。

 三人を起こさないようにベッドから抜け出すナオキ。


 朝食の準備をするナオキ。

 日頃は女性陣が取り仕切っているところで、今朝は漢の料理を披露する…ようです。

 ソーセージなどを湯がきながら、野菜を切り始めた頃、アルが寝室から出てくる。


「ナオキ、おはよう~。

 …あ~ふぅ。」

 大きなあくびをしながらアルがキッチンに来る。


「おはよう、アル!」

「ん!」

「ああ、アル、危ない危ない。」

 急にアルが背中に抱き着き、包丁を持ったナオキが慌てる。

「ふふふ。…ナァ~オキ!」

 さらにギュッと抱き着くアル。

「どうしたんだい?」

「ありがとね。

 おかあさんを抱いてくれて…子どもを授けてくれて。」

「…。」

「心配しないで。…本当に私も嬉しいの。」

 アルはゆっくりとナオキの背中から離れる。


「おかあさんね、いつもニコニコしてたんだけど、安心できる日は無かったと思うの。

 好きでもない男に無理やり犯されて…私が生まれて、エルが生まれて…。

 別荘に追い出される時まで、私たちを守るために、一日中気を張って…。

 別荘に追いやられた時も…周囲が怖かった。」


 下を向いて、小刻みに肩を揺らすアル。

 そのアルの両肩に優しく手を置くナオキ。


「でもね、あなたが来てから…変わったの。

 外敵からの危害についての不安が減って、いつも能天気で元気があって、私たちの面倒を見てくれて…。

 そして、愛を育みながら、この街に来て…本当の家族になった。

 好きになった人の子を授かって、おかあさんも、わたし達も素直に喜べる様になって…。」


 アルの瞳に涙は溜まっているが、満面の笑みを浮べ、ナオキに顔を向ける。

「ありがとう。

 わたし達の家族になってくれて。

 わたしの旦那さんになってくれて…。」


「俺の方こそ…。

 俺を家族に迎えてくれてありがとう。」

「うん!」

 言うより早く、アルがナオキに抱き着きキスをする。


 しばらくキスをした二人が離れ、目を開けて食台の方を見ると…


 メグとエルがジィ~~~と二人を見ていた。

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