第17話 動き出す世界

 冒険者ギルドから戻ってきてから二週間。


 今日も旦那と姉妹は生活費を稼ぎに冒険者ギルドへ出かけて行った。

 そして、入れ替わりにクリスが来る。


「どうぞ。」

「ありがとう。」

 メグはお茶を進め、クリスの向かいに座る。


「最近は、順調の様ね。

 腰回りも充実しているようだねぇ。」

 クリスがニコニコしながらメグを見ると、赤面するメグ。

「年甲斐もなく…。

 傷物の私が、彼の大切な…。」

「はい、はい。

 その話はこれで終い!」

 お茶を飲み干し、お代りを求めるクリス。

 ゆっくりとお茶を注ぐメグ。


「…で、話っていうのは?」

「はい、クリス様。」

 クリスはナオキのスマホを取り出し、彼との初夜の事、彼の内面、彼の思い…。

 止めどなく言葉を紡ぐメグを、優しく、そして満面の笑みで見ているクリス。

「…私は、あの人の役に立ちたい。」

「あんたのクラスは…。」

「ラストクリエイターです。」

「!!!」

 しばらくの沈黙。


 ◇ ◇ ◇


「ふふふ…」

 クリスが含み笑いをする。

「そうね、スノール卿が恋焦がれたクラス、クロウが見出したと言っていたクラス…。」

「クロウ???」

「あぁ、クロウはこっちの話さね。」

 怪訝けげんそうなメグをおいて、クリスは続ける。

「あんたのクラス、ラストクリエイターは、無から有は作れないけど、モノのことわりが掴めれば、同一のモノとまではいかないが、ほぼ同じものを作り出すことができる。」


 そして、スマホを取るクリス。

「これは…、って、説明は省くか。

 とりあえず、異世界の知識が詰まった石板だね。」

「…はい。」

「これを…こうやって…と!」

 スマホに術を施すクリス。

「これで…よし!

 ほれ、メグ嬢、受け取りな!」

 ポンと放り投げられたスマホを慌てて掴むメグ。


「こ…これって!」

 スマホに表示された文字が、メグに読める!

「ほほほ、文字が読めるかの?

 使い方は、お前の夫に聞くことだな。」

「は…はい。」


 クリスはゆっくり立ち上がり、部屋を出ていく…。

「おお、そうじゃそうじゃ。」

 部屋の戸口でクリスが振り返る。

「お主も、もはやひとり身ではないのだ。

 くれぐれも自愛するのだぞ!」

 高笑いをしながら、玄関に消えて行くクリス。

 真っ赤になっているメグを部屋に残して。


 日も傾き始めた頃、三人がボロボロの姿で帰ってくる。

「ただいまぁ~~。」

 三人の声が家にこだまする。

「は~~~い。」

 奥からメグが迎えに出てくる。


「まぁまぁ、こんなにしちゃって…。

 ケガとかは無いの?」

「だいじょぉ~~~ぶ!」

「まぁまぁ…さ、お風呂に入って綺麗にしてくださいね。

 ご飯の準備も終わってますよ。」

「はぁ~~~い!」

 部活帰りの中学生よろしく、三人はワイワイとお風呂に向かう…。

 ところで、ナオキの背を掴みメグが引き留める。

「あなた、食事の後に、ちょっといいかしら?」

「え?

 あ、はい。」

「ありがとう。」

 メグは、そっと手を放し、背中を押す。


「私の娘たちも大切にしないと承知しませんよ!

 あなた♪」

「わ~~い、ダ~リンとお・風・呂ぉ~!」

「エッチなことしたら、シバきますからね!

 旦那さま!!」

 ナオキの腕を引いてアルとエルが風呂場に消えた。

「…さて、家族が増えるって言ったら、あの子達、何ていうのかしら。」

 頬杖をついて微笑むメグは、三人を見送ると食堂へ戻って行った。


「へ?」

「ママ、おめでとう!」

「この、エッチ旦那ぁ!!」

「みんな、ありがとう♪」

 重大発表の第一弾がさく裂。

 自分のやらかしたこととはいえ、事態の重大性に気づき固まるナオキ君。

 そのナオキ君に掴みかかるアル!

 エルとメグは手を取り合って目をキラキラさせて…あ~、ちょぉ~~とトリップしてるかなぁ…。

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