第16話 初夜

「…。」

「…。」

 今、冒険者ギルド受付嬢とナオキ君の間に緊張感が漂っている。

 そう、一枚メグの判定結果を前にして…。


 冒険者ギルドに到着し、紹介状を渡し、諸手続きが済んだところまでは良かった。


「折角ですから、奥様もクラスを確認されては?」

「ええ、私が?」

「ママ、やってみようよ。」

「そうよ、おかあさん、折角だし!」


 姉妹に後押しされて、クラス判定に向かうメグ。

「どうぞこちらに。」

「いってらっしゃーい。」

 ギルド受付嬢に促されて、三人が奥に入って行くのを、見送るナオキ。


 んで、振出しに戻る…。


 ◇ ◇ ◇


「まさか、創造・精練・生産の終着技能ラストクリエイターのクラスをお持ちとは…。」

「そんなに珍しいんですか?」

 ギルド受付嬢の真顔に、ちょ~と不安のナオキ君。


「これは…ちょっと失礼します!」

 ギルド受付嬢が奥に消える。入れ替わるように三人が出てくる。


「どうかしました?

 あなた。」

「ん…。

 あぁ、なんかメグのクラスがとんでもないらしくって。」

 ナオキの説明は的を得ていなかった。

 メグも不安げになっている。

 あ、娘さんたちは燥いでますねぇ。


 しばらくしてから、ギルドマスターが顔を出す。

「この鑑定書の持ち主はどなたか?」

「私です。」


 メグが前に進み出ると、ギルドマスターがじっくりと観察している。

「…わかった。

 ご主人は一緒かい?」

「はい、僕です。」

 メグの隣にナオキが立つ。

 ギルドマスターは目を細め、微かに頷いた。


「戦闘は不向きかもしれないが、とても優秀な能力です。

 しっかり育てて下さい。」

 ギルドマスターに優しく諭され笑顔いっぱいのメグ…と姉妹に旦那。


 ◇ ◇ ◇


 その晩。

 いつものように、ベッドに入るナオキとメグ。

「ねぇ、あなたの好きな曲ってなに?」

 突然の質問ではあったが、自分の好きな音楽の話となったことで、急に熱弁を振るい始めるナオキ。


 あの曲がどうのこうので、こう好きだ。この曲は…。

 と、語りの止まらないナオキを優しく見守るメグ。


 一頻り話したところで、ふとナオキが涙目になる。

 話の内容はほとんど理解できなかったが、彼が涙を流すくだりは何となく解った。

 甘酸っぱい片思いの日々と、突然に打ち切られた恋の行方。

 そっとナオキの頭を撫でるメグ。


 ナオキは大泣きをはじめる。

 諸々の枷が外れ、抑え込んでいた感情も相まって、大粒の涙を流している。


「とうさん…かあさん…。」

 もう声が出てこなかった。

 ナオキをぎゅっと抱きしめ、彼が落ち着くまで優しく抱き留めるメグ。


 そのままキスをし、ゆっくりと服を脱ぎはじめる。

 二人の身体は重なり、夜は更けていく。


 ◇ ◇ ◇


 今朝の食事当番はアルとエル姉妹。

 二人が食事の準備をしていると、奥の部屋からメグが髪を編み上げながら一人出てくる。

「あれ?

 おかあさん、旦那さまは?」

「ん?

 ナオキ?

 …もう少し寝かせておきましょう。」


 アルの質問に、いつになく肌艶がよく、若々しいメグがやさしく答える。


 三人はゆっくりと朝食を取り始める。

「ねぇ~、おかぁ~さん。

 ダ~リンはいつ頃起きて来るかなぁ?」

「ナオキはもう少し寝ているはずよ。」


「でも、おかあさん。

 あんまり遅くなると料理が冷めちゃう。」

「それもそうね…。

 とりあえず、私達だけでも先に食べてしまいましょう。」

「はぁ~~い!」


 久しぶりの親子だけの食事。

 ナオキが来た頃から、四人で食事をとる事がほとんどだったこともあり、女子トークにも花が咲いていた。


 今日の女子トークの主題は、彼女たちの旦那ナオキさんについて。


 いつになく流暢にナオキの事を話すメグ。

 彼の知られざる一面が紐解かれ、最初の方こそ感嘆していた姉妹だが…。


 食後のお茶を飲み始めた頃。

「ねぇ、おかぁ~さん。

 なんでダ~リンの事、そこまで知ってるの?」

「最近一緒に寝る事は多いみたいだけど、今日は特別詳しいわよね。

 好きな曲はともかく、片思いの彼女の事とか失恋してしまったとか…。」

「えぇ!」


 娘姉妹のキツイツッコミに、それまで饒舌じょうぜつに語っていたメグがギクリとする。

「何かあったのね?」

「えぇ~!

 なになに、なぁ~にぃ?」

 確信を突こうとするアルと、好奇心いっぱいのエル。


「おはよぉ~!」

 ナオキが眠い目を擦りながら食堂にやって来る。

「あら、ナオキ。

 おはよう。」

「ああ、メグ。

 おはよう。」

「???」

(ふ、ふ、夫婦の会話だぁ~!!)

 アルとエルが心の中で同じ言葉で叫んでしまう。

 自然にお互いを愛称で呼び交わす二人。

 新婚さんの朝食風景がそこにはあった。

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