第12話 元の鞘
「こちらへどうぞ。」
領主の館に到着した四人は、衛兵に招かれ玄関テラスに通される。
「すごぉ~~~い。」
「綺麗」
「…」
「迎賓館?」
四者四様の反応をする中、一人顔色の優れないファフママ。
奥からメイドが出てきて、お辞儀をする。
「主が待っております。ご案内いたします。」
ファフママはイブニングドレス、アルとエルはワンピースと全員が正装に身を包み、メイドに付いていく…んだけど、ナオキ君、いくらなんでも学ランはこの場合はどうなんでしょ?
◇ ◇ ◇
夏の日差しが差し込む渡り廊下を抜け、謁見の間に通される四人。
部屋に入ると、フロックコート姿の領主、イブニングドレスにベール姿の婦人とクリスが円卓を囲んで座っている。
「こちらへ…」
メイドに促されるまま領主方と正対するように席に着く四人。
クリスがゆっくりと立ち上がり、双方の紹介をする。
領主はロメオ三世、城塞都市ツィベネを建立したロメオ氏の孫にあたる。
領主婦人はキャロライン。
「私は、兎人族よ!」
領主婦人がベールを取ると、うさ耳がピンと姿を現し、アルとエルが目をキラキラと輝かせる。
四人の紹介が終わったところで、ロメオ三世が話し始める。
「スノール男爵領からの長旅、ご苦労だったね。」
「ロメオ様、実は…」
と話しかけるファフママを制止し、領主は話を続ける。
「今日は、クリスのお客人としてお会いしている。
もちろん、スノール男爵より貴女を引渡すよう要求が出されている。」
ファフママの顔色があからさまに悪くなる。
「が…」
と領主が言ったところで、婦人が割り込んでくる。
「ここは、ロメオ三世伯爵が治める都市よ。
その庇護下に入った人間をわざわざ男爵に引き渡す理由はありませんわ!」
「おっほん!
…つまり、そういう事だ。」
わざとらしく咳払いをする領主。
「とりあえず、この街に居る間は、何の心配も無用だよ。」
「あ…ありがとうございます。」
ファフママは涙を浮べながら、領主夫妻に頭を下げる。
姉妹は母親の行動にびっくりするが、母親と同じように領主に頭を下げる。
「さて…」
領主がナオキに目を向ける。
「転移者よ。
君は何故ここに居る?
何を成すためにこの世界に来たのか?」
「ロメオ様、それは…」
クリスが答えようとするが、話を制止する領主。
「クリスからの報告は聞いたが、君の言葉で聞いたわけではない。」
「あなた…。」
領主婦人も領主を宥めようとするが、領主の目に威圧感が増す。
「俺は、好きな子を守って死にました。
この世界の上空で女神に会い、転移者になりました。」
ナオキは語り始め、アルとエルの方を見ながら。
「アルとエル…二人に初めて会ったのが、この世界での俺の始まりでした。」
アルとエルも神妙そうにナオキを見つめる。
「それから、
「でも、知らない事がはるかに多いはずだが。」
「いえ、ある紳士からご教授頂きましたので、ある程度は…。」
「そうか…。」
「でも、聞いただけなので、理解しているとは言えません。」
「…ぷぅ…ふふふふ…。」
神妙な顔のナオキを前に、威圧していた領主が吹きだす。
キョトンとするナオキ。
ひとしきり笑ったところで、領主が穏やかな表情でナオキに話しかける。
「いや、失礼した。
君は明日からクリスの師事を受けなさい。
書籍もここに在るものは閲覧しなさい。」
アルとエルの方にも向き直った領主は
「アル君とエル君も知りたいことがあれば、クリスに聞くといい。」
「ちょ…ロメオ様!私は…」
「解ってるって、クリス。
でも、君自身も彼らに興味があるんだろう…。」
「え、ええ…まぁ…。」
「よし!それじゃ決まりだな!」
手を叩いて決定を下す領主。
煮え切らないクリス。
話の展開に付いていけないナオキ。
呆気にとられるアルとエル。
その他諸々の思いをそっちのけに領主は高笑いを始める。
(…あなたは、水戸黄門か??)
ナオキがやっとたどり着いた答えだった。
◇ ◇ ◇
「あなた…。」
「うん?なんだい?」
領主婦人が夫に問いかける。
「ナオユキ君の処遇を決めないといけなかったんじゃないの?」
「あ…忘れてた。」
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