第11話 終点

「そろそろ、ツィベネの城壁が見える筈だよ。」

「すいません、年配の方なのに、このような席に座っていただいて。」

 ナオキとクリスは御者台に座っている。


「クリスさん、俺、どうしたらいいんでしょうか?」

「何がだい?」

「俺、元の世界で死んでしまって、女神さまに会って、ここに墜とされたんだけど…。」

 ナオキは瞳に涙を湛えている。

 クリスは、穏やかに、そしてゆっくりと語りかける。


「あんたは、今まで何をしてきたんだい?」

「学生で、ラジオのDJでした。…分かりませんよね、見た事も聞いた事も無い世界の話ですから。」

「確かに、私には分からない事だね。

 でも、今までしてきた事を、この世界でやってみたいと思わないかい?」

「出来ませんよ!だいたいラジオから無いんだから…。」

「今は無いだよ。」

「???」

 ナオキがクリスの方を見る、クリスは目を細め微笑みかける。


「私の知っている転移者は、何もないところから、彼らのを実現していった。」

「そ、そうなんですか?」

「ああ。技術にも魔法にも限界は無い!

 限界を作るのは、己の無知とあきらめだ!!

 ってね。」

 先達たちの言葉を語った後、コロコロと笑うクリス。


「だから、あんたのやりたいようにやってみな。

 支えてくれる仲間を見つけ、頼れる大人を利用して…ね。」

「…はい!」


 クリスはナオキの背を叩き

「よし!

 これで、老婆わたしの話はお終い。

 しっかり悩んで、!!」


 いつか聞いた言葉がナオキの心によみがえる…

!!」


「篠塚センパイ…。」

「???」

「すいません、昔センパイに掛けてもらった言葉を思い出してしまって…。」

「そうかい。」

 涙を拭くナオキを優しく見守るクリス。


「クリス!

 俺、何が出来るか分からないけど、まず、出来そうな事からやってみるよ。」

(そう、篠塚センパイと約束した、になるんだ!!)

 御者台で仁王立ちするナオキ!


「ナオキ、気合が入るのは良いんだけどね…。」

 馬車が小石を踏んだらしく、ガタッと揺れる。

「御者台でむやみに立つと…」

 揺れた拍子に、ナオキが御者台から落下を始める…。

「落ちちゃうわよ…。」

 ナオキの足を掴みため息をつくクリス。。

 クリスが客室に視線を送ると、ファフママがニコニコしながら座っていた。


 御者台から宙づりになったナオキをそのままに、馬車はツィベネの城門を目指す。


 ◇ ◇ ◇


 ツィベネの城門で馬車は止まる。

 衛兵が馬車に近づいてくる。


「ここは、城塞都市ツィベネだ。貴殿たちの…って、クリス様!!」

 御者台に佇むローブの女性を見て、衛兵たちが最敬礼する。

「城門の護衛ご苦労様。」

「はっ!ありがとうございます。

 ところで、この馬車はどうされたのですか?

 まして、御身を御者台に置かれるなど…。」

「えぇ~~い!若造!

 貴様、クリス様に対し、何たる無礼を…。」

 衛兵がナオキに掴みかかろうとする。


「黙らっしゃい!!」

 クリスが一括する。

 その姿には威厳と高貴が漂う。

「はっ!失礼しました。」

「この者たちは、わたしの客人です。

 丁重に迎え入れなさい。」

 御者台から地面にひらりと降り立つクリス。


「はっ!おい、馬車をこちらに回せ。」

 衛兵が、馬車を先導しながら、城門へ連れて行く。

 客室から頭を下げるファフに向けてクリスが声をかける。

「宿の手配はしてあるはず。

 落ち着いたら、領主の館に私を頼って来るように。」

 そう言って、一人門の中へ入って行った。


「クリスさんって、何者?」

「きっと、偉い人なんだよ!」

 客室で燥ぐ姉妹と、笑顔が引きつるファフママ。

 んで、ナオキ君は…あぁ、ショックのあまり口から人魂が…。

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