第8話 出立

 畑の景色が緑から、黄金色に代わりはじる…麦秋が近づいて来た。


 ナオキと姉妹達は引き続き、冒険者ギルドに通い、それぞれのクラスにかかわるスキルの上達に励んでいた。


 最近では、先輩冒険者に交じって、実地研修クエストも受けていた。

 冒険者のプレートも見習いを卒業し、一端の冒険者扱いを受けるまでになった。


 結果として、武器屋を始め、防具屋、道具屋、薬屋、魔法商会まで、ほとんどの店舗を冒険者ギルドから紹介してもらえるようになり、道具の質も選択枠も格段に改善した。


 ◇ ◇ ◇


 いよいよ出立が近づき、冒険者ギルドの受付嬢に別れの挨拶に来たナオキ。


「そうですか。

 見習いとはいえ将来が楽しみだと、あなた達を教導したパーティーのメンバーはみんな言われてましたよ。」

「ありがたい限りです。

 僕たちの今があるのは、受付嬢あなたと、指導頂いた先輩方のおかげです。」

「殊勝な心がけね。」

 郷愁に浸るナオキと素直な男の子に感心する受付嬢。


「ところで、行き先は決まっているの?」

「それが、まだ分からなくって…」

「どういう事?」

「行き先がハッキリしてないんです。」

「困ったご主人様ね。」

「そ、そうですね…あはははは…はぁ。」

 ため息をつくナオキに、受付嬢が一通の封書を渡す。


「紹介状。持って行きなさい。」

「は、はぁ…。」

「とりあえず、一定期間寄留するような場所が出来たら、その町にある冒険者ギルドに持って行きなさい。

 きっと役立つはずよ。」

「わかりました。ありがたく頂いていきます。」

 封書を受け取るナオキ。

「では、良い旅を。」

「ありがとうございます。

 そして、さようなら。」

 深々と頭を下げ、冒険者ギルドを出ていくナオキ。


 ナオキが出て行った扉を眺めている受付嬢の後ろにノータイ姿の男が立っている。

「彼…、あの女の子たちを含む彼らが、スノール男爵のお化け屋敷から出てきた子どもたちか?」

「そうです、マスター。」

「お化け屋敷ってのは、嘘っぽい話だな。」

「はい…、ただ…。」

 受付嬢は言葉に詰まってしまう。


「スノール男爵は、彼らを切り捨てたい…と。」

「はい、きっと穏やかな旅では無いでしょうね。」

「彼らの健闘に期待するとしよう。」

 男は目を細め、受付嬢もうつ向いてしまう。


 ◇ ◇ ◇


 出立の朝。

 四人が荷物をまとめ玄関を出る。

 すると、一台の馬車が止まっており、四人の前に執事のような挨拶をする燕尾服の紳士。


「お迎えに上がりました。ファフュートブルーマ様」

 そして、姉妹の方に向き直り。

「お久しぶりです。アレグリッサ様、エレノアール様。すっかり大きくなられましたね。」

「バレンタイン様、お久しぶりです。」

「じぃ~!元気だったぁ?」

 燥ぐ姉妹の頭を撫でるバレンタイン氏。


 そして、最後にナオキに向き直る。

「護衛兼教師役ご苦労様です、直之様。

 私はバレンタインと申します、ティーノとお呼び下さい。」

「はい。ど、どうも。」

 握手を求められ、応じるナオキ。

(で、この人、何で俺のこと知っている??)

 ゆっくり手を放し、お互い向き合った状態で立つ。


「それでは、ご乗車下さい。」

 姉妹と母親を馬車に乗せ、荷物を屋根に乗せる。

 ナオキは御者台に乗り、ティーノを待つが、上ってくる気配がない。


 下を覗くとティーノは、屋敷に視線を向けている。

「さぁ、出発して下さい。」

 馬の尻を叩くと馬車が動き出し、危うく落下しそうになるナオキ。


 馬車の乗客も、異変に気付き窓から外を覗くが、辛うじて見えたのは、自分たちに背を向け、屋敷の前に仁王立ちする燕尾服の紳士。

 そして、車上の客は舞台を去っていった。


 ◇ ◇ ◇


 燕尾服の紳士の前には黒づくめの人が十数名立っている。

 そして、彼らを前に不敵な笑みを浮べるティーノ。


「これは、どういう事ですかな?

 バレンタイン殿。」

「おやおや、私の素性をご存じとは、スノール様も面白い方々を寄越してくれたものですね。」

 ティーノが話し終わる間もなく襲いかかってくる黒づくめ達。

 ゆっくりと歩を進め、黒づくめの中に歩み寄って行くティーノ。

「では、お相手しましょう。」


 ◇ ◇ ◇


 そして、高みから事の一部始終を見届ける、ノータイ男。

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