第4話 空からの贈り物(落とし物?)

「で、ここはどこなんよ?」

 藪や林が所々に点在する、黄土色の大地が、眼下に見える。

 直之は、現在、上空から絶賛落下中である。


 自称新人女神フローレンシアの甘言にそそのかされ、転移を決意した直之だったが…

「中空からノーロープバンジーする気は無かったんだけどなぁ…。」

 胡座あぐらをかきながら愚痴る。


 転移における各種オプションとしては、スマホ(もちろん、閲覧のみ)の携帯と、堅牢な肉体と少々の魔法を勝ち取った。

 もっとも、魔法については、先輩女神が、鋭意精査えつらんのうえ後送りするという事になった。


「ということは、飛翔魔法フライとか使えないんじゃ。」

 地面に激突し、潰れた自分の姿を想像し青ざめる直之。


「まぁ、死んだら死んだで、もう一回文句を言えばいいか…。」


 いよいよ地表が近づいてくる。

 よくよく見ると逃げる二人の人影と、その人影を追いかける数頭の動物の群れが見えてくる。


「狙って行ければいいんだけど…。」


 中空で頑張ってクロールを始める直之。

 落下して…、動物の群れの先頭に無事激突する。


 直之の尻もちで地面にめり込む先頭を走っていた狼。

 突然リーダーを失い呆然とする狼たちと、衝撃で倒れてしまった二人の少女。


 ゆっくりと立ち上がる直之を見ると一目散に逃げ出す狼たち。

 二人の少女は恐怖のあまり震えているだけだった。


「こ、こんにちは。…俺…僕は手島直之といいます。」

 まだ震えている少女たち。

「僕の言葉分かります?」

 震えながら頷く二人。


 幾分か落ち着いたところで、自己紹介を…。

「あなたは、天使さま?それとも、神さま?」

「こら、エル!怪しい人と話したらだめっておかあさんに言われたでしょ?」

「だって、おねぇちゃ~ん…」

 妹は、直之に興味津々で、姉は冷静さを装っている。


 二人はワンピースに布の靴、とても近所の森を散歩ハイキングする様な雰囲気ではない。


「ところで、君たちは何で狼に追いかけられてたの?」

「んっとね、私が薬草取りに森に入ったら…。」

「こら、エル!怪しい人と話したらだめって…」

「ぶぅ!おねぇちゃんのケチ!」

「何よぉ!!」

 直之の前で姉妹喧嘩が始まる。


「あ、あのぉ、エルちゃん?」

「なぁ~に、おにいちゃん。」


 お互いの髪を引っ張り合いながら、直之の方に向き直る妹。

「良かったら、自己紹介してもらえないかなぁ。淑女の嗜みだと思うんだけど…」

 という単語を聞いて我に返る姉。


 慌てて、自分と妹の髪を整え、乱れた服を正し、直之に向き直る。

「私は、スフラン王国、スノール男爵が次女アレグリッサと申します。」

「同じく、スノール男爵が四女エレノアールよ。」

「先程は、狼より助けていただきありがとうございました。」

 二人はお辞儀をした。


「お…僕は手島直之といいます。日本から来ました。」

 直之もお辞儀をする。


「ニホン?天国はニホンと言うの?」

「エル、天国は天国よ。

 ところで、私もニホンという言葉は初めて聞きました。

 何処か遠いところなんですか…。」


 ここが異世界だったことを思い出し気を取り直す直之。

「そうですね、とぉってぇもぉ遠い場所ですね。」

「お空にあるの?」

「こらこら、エル…って、なんであなたは空から落ちてきて無事なんですか?」

 エルの質問をたしめながら、ついさっき起こった事実を思い返し、直之に質問するアレグリッサ。


「う~~ん、俺もよくわかんないんだけど、気が付いたら空に浮いて…というか、落下かな。

 で、丁度着地点に程よいクッションがあったから助かったのかな?」

「滅茶苦茶ですね。」

「てれます。」

 直之の返答に吹き出すアレグリッサ。


「気に入りましたわ、助けて頂いたお礼もありますし、私たちの家までご案内します。

 私の事はアルと呼んでくださいね。」

 姉の言葉に気をよくした妹が間髪入れず。

「じゃ、おにいちゃんは、ナオキね。」

 ナオキの言葉が出てきたところでしかめっ面をする直之。


「え、ダメ?」

 上目遣いのエル。

「う…、はい。ナオキで、結構です。」

 女性の魅力にあふれた女神より、眼前の少女に丸め込まれたナオキ君だった(合掌)。

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