第5話 落とし物、お持ち帰りされる。
「私はファフュートブルーマ、この子達の母親です。
娘たちを助けて頂きありがとうございました。」
アルとエル姉妹の母親から謝辞を受けたナオキ。
「おもてなしできる物はありませんが、今夜はゆっくりお休みになって下さい。」
客間を通り、屋根裏部屋に案内される。
決して広い部屋ではないがベッドが設えられていた。
ベッドに寝転がり、天井を見つめるナオキ。
(男爵の娘って言ってたけど、主はご不在のようだし、使用人もほとんど見なかったなぁ。)
学ランを着たまま寝ようとしていた事に気づき、学ランとズボンを脱ぎ、近くのテーブルに畳み、ベッドに潜り込む。
「とりあえず、寝よう。おやすみなさい。」
階下では娘と母親が、お客人の事で盛り上がっていた。
ナオキは階下の黄色い声を子守歌にまどろんでいく。
◇ ◇ ◇
朝日の穏やかな光で目を覚ます。
「そっかぁ、俺、転移したんだ。」
ゆっくり起き上がる頃、階下から登ってくる二つの足音。
「おはようございます。」
「おにいちゃん、おはよぉ!」
二人の少女がドアからはみ出さんばかりに入ってくる。
「ご飯出来たって…。」
「食堂にお越しください。」
お辞儀をして二人は去って行く。
あ、エルちゃんが手を振ってる。
ゆっくりとベッドから抜け出し、学ランに身を包み部屋を出る。
学生食堂より少し狭い部屋に、学生食堂の食台よりもかなり広いテーブル。
そして、テーブルには所狭しと料理が並んでいる。
「こ…、これが朝食?ですか、ファフュートブルーマさん。」
「ファフと呼んでくださいね。」
びっくりしているナオキに、にこにこと答えるファフママ。
「ちょっと、作り過ぎたかしら?」
「大丈夫よおかあさん…。」
「おにいちゃんだから!」
「オイオイ。」
何を根拠にナオキは大食漢になっているのだろうか?
「まぁまぁ、みんなで一緒に食べましょう。」
上機嫌なファフママに促され、三人は食べ始める。
思いのほか味が馴染むらしく、次第にガツガツ食べ始めるナオキ君。
「やっぱり男の子よねぇ。」
「ねぇ。」
ファフママとエルはおしゃべりを楽しみ、アルはナオキを気にしながら食べている。
痩せても枯れてもナオキ君は、完全無欠の高校二年生。ガッツリ食うのは漢のロマン!
「ごちそうさまでした。」
テーブル三分の二を平らげ満足したナオキ。
「ねぇねぇ、おにいちゃん。」
「ん?」
「食べ終わった時に、『ごちそうさまでした。』って言ったけど、どういう意味?」
「そういえば、食べる前に『いただきます。』って言いましたよね。」
エルとファフママはナオキの言葉にも関心があるご様子。
「あぁ、それはね…」
「いただきます」と「ごちそうさま」の説明をするナオキ。
エルとファフママの隣には、ちゃっかりとアルも座っている。
食器の片づけをみんなで行い、ファフママとアルが食器を洗い始める。
ナオキは当たり前の光景を見ているようだが、彼女たちにとっては恥ずかしい事らしく、見ないでほしいと言っている。
「男爵家の者だから、使用人が何人か居ると思われませんでしたか?」
ファフママが恥ずかしそうにナオキに聞く。
「そうなんですか?俺…僕の世界では、家族で食事をし、片づけをしていました。
もっと昔だったらお父さんが食べてからじゃないと食事が出来ないとか、おかあさんが家事一切をしないといけないとかはあったみたいです。」
「そう…。」
複雑な表情をするファフママ。
ファフママは、ぼちぼち身の上話を始める。
スノール男爵邸に使用人として住み込みで勤め始めるも、程なくして男爵の目に止まり、
エルと変わらない年齢でアルを身籠り、アルを出産した後も関係は続き、結局エルも身籠ってしまう。
エルを身籠っている間に、正妻とのトラブルから、暇を出されてしまい…、口止めも兼ねて、家と若干の資産を渡され、いまに至っているとのこと。
「…なんか、すいません。」
「いいのよ。もう済んでしまった事よ。」
「それより…」
ファフママが真剣な表情で話し始める。
「ナオキ君、うちの用心棒にならない?」
「へ??」
「用心棒というと、大袈裟かな…。住込みの護衛って事でお願いできない?」
「なんで、俺が用心棒に?実力とか見てもいないのに…。」
怪訝そうなナオキ。
「見ての通り、ここには、私達一家しかいないの。
まだ、男爵の看板があることで、トラブルなどに巻き込まれる事はなかったけど…。
今回のような事故が起こっても、誰も助けてはくれないの。」
エルとアルの頭を撫でるファフママ。
「この子達の教育も私がしてたから…。」
「じゃぁ、エルはもちろん、アルも学校に通った事がない…と。」
驚くナオキに頷くファフママ。
「わかりました。」
ナオキが覚悟を決めた。
「ありがとう。」
頭を下げるファフママ。
「美人に囲まれて、おいしいご飯があれば、僕は満足です!」
ナオキが胸を張ると、姉妹が揃ってナオキの頭を叩く。
「ナオキさん、下品です!」
「おにいちゃん、いやらしぃ~!」
安心したのか、年齢に見合わぬ、可愛らしい笑顔でコロコロ笑うファフママが三人を見つめる。
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