第3話 転移されるそうです。

 時報の音と共に軽快な音楽がスタジオに流れ出す。が、今日のDJはいつもと違った。

「みなさん、こんばんは。篠塚です。」

 ガラスの向こうで涙ぐみながら番組の進行を図るチーフディレクター。


 篠塚も涙をこらえ。

「いつものこの時間は、テッシーの電リクアワーをお届けしておりますが、先程のニュースでもありました通り、本日交通事故で尊い命を失った方々がいます。

 心より、ご冥福をお祈りいたします。

 そして、皆様から愛していただいていたテッシーこと、手島直之君も、この事故で命を失いました。」


 ラジオの前に居たリスナーが固まり、麗美は手島のスマホを握って震えていた。

 そう、彼女は彼の職場バイト先に居る。


「今日は、急逝することになってしまった彼の冥福を祈り、番組を進めて参ります。…」

 ラジオの前でむせび泣くリスナー達。

 その中には、麗美の母も、手島の友人たちも居た。


 ◇ ◇ ◇


「ナオキ…ナオキ…ナオキ…」


 聞き覚えの無い女性の声が聞こえる。


 少しずつ意識が覚醒してくる直之。


「ナオキさん、聞こえますか?

 ナオキさん、聞こえますか?

 ナオキさん、聞こえますか?」


 ようやく耳の調子も良くなってきたようだ。


 透き通るような声はさらに続ける。

「ナオキさん、聞こえますか?

 ナオキさん、聞こえますか?

 ナオキさん、聞こえますか?」


 腕に力が入るのを確認できたところで直之はガバっと起き上がり、声のする方へ向き目を見開いて言う。

「俺は、だぁ!!納豆のな、オクラのお、湯豆腐のゆ、きくらげのき、なぁ~おぉ~ゆぅ~きぃ~だぁぁぁ!!!」


 先程まで寝ていた男が跳ね起きて叫びだし、声をかけていた女性はびっくりして尻もちをつく。


 直之の目の前に居たのは、白いロングドレスに白いベールを被った女性。ベールの下からは、ブロンドが見え隠れし、瞳は碧い。


(どちらの外人さん??)


「私、外人じゃありません。」

 お尻をはたきながらゆっくりと立ち上がる女性。


「!!!」

 心の声を読まれてびっくりする直之。


「ナオキさん、聞こえますか?」

「聞こえてるけど、俺はなおゆきだ!」


 ゆっくりと起き上がり女性の前に立つ直之。


「ところで、あなたは?」

「女神です!!」

 胸を張って、どや顔をする女神…。胸元には燦然さんぜんと輝く緑と黄の若葉マーク!


「新人の女神さん…ですね。」

「…」

 黙り込む女神の背景に広がる、白い空、足元の雲、およそ日本ぽくない風景。


「…」

 そして、学ラン姿の直之。


「コホン」

 女神が咳払いをする。


「そうよ!私は新人女神なの。…ねぇ、ちょっと聞いてくれる。」

(何の話が始まるんだか…)

 心で愚痴る直之。


 女神は自称フローレンシア。

 本来は先輩女神が応対するところを、ちょぉ~~っとしたトラブルで主神ボスの呼び出しを受けている。

 で、先輩女神の代理として、目の前に引っ張り出されている…とのこと。


「しばらくは起きないからほっといても大丈夫って先輩は言ってたんだけど…。」

「そのわりには、間違った名前でさかんに声かけてたよなぁ。」

「だって、女神教習読本まにゅあるに『寝ている人は起こしましょう!』って書いてあるもん。」

「はぁぁ~~~?」

 ドレスのスリットから、本を取り出す女神と、あんな服のどこに本が入っていたのかと、呆気にとられる直之。


「それで、起こしてしまった俺をどうされますか?」

「そ、それは…」


 何処からともなく着信音が聞こえてくる。


(ま、まさか…)

 この先の展開に嫌な予感がする直之と、それに答える女神。

 ドレスからスマホを取り出し、直之に背を向けて何やら指示を受け始める。

「もしもし…あぁ、主神かみさま…。はい、…ええ。…えぇ?!…ええ。」


 一通り話が終わったところで、女神が棒読みのセリフを吐く。


「テシマ君を転移させます!」

「だからぁ、俺はて・し・ま・な・お・ゆ・きだぁぁ!!…って、テンイ?」

「そうです。」

 女神はそう言い放つと、彼女の後光も光量が増大する。


 真剣なまなざしで後光射す女神を前に直之は聞く。

「テンイって、何?」


 女神の後光が…虚しく輝きはじめる。

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