第2話 突然のサヨナラ
「ナオキって、金曜だけの付き合いが悪いよなぁ。」
「ごめん、ごめん、金曜だけはどうしようもないんだ!」
「でも、バイトだろ?ちょっと、サボったぐらい問題ないだろう。」
「いやぁ、好きな上に、将来性もある仕事だから、止めたくないんだ!」
「で、仕事って、何やってんだよ!!」
「そ、それは、そ、そのぉ…。」
席を囲む三人の友人からバイトの事を突っ込まれ、席に座っている
「ナオキって、肝心なところで濁すんだよなぁ…。」
折から、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
「あ~~ぁ。」
「ざぁ~~んねん。」
「んじゃな、ナオキ」
三人は自席に散って行った。
入れ替わるように麗美がとなりの席に座る。
(美人…だよなぁ。異性の憧れ、同性の嫉妬も頷ける。)
いつもながら、ため息が出てしまう程の隣席を眺め、先生が入ってくる直前まで眼福に浸る直之。
たまに彼女がこちらへ振り返ると一瞬目が合ってしまい、微笑みかけてくる。
すると、気恥ずかしくなって、目を背けてしまう直之。軽く肩を竦める麗美。
「お~~ぅ、すまんすまん、遅れた!授業はじめるぞぉ~~~。」
「きり~~~つ!…」
気怠い午後の授業が始まる。
終業を告げるチャイムが鳴る。
「あぁ~~、終わった終わった。」
「がぁ~!!インターハイ近いから、まだ地獄がぁ!!」
「金曜日♪金曜日♪」
教室の中は悲喜交々の声が飛び交っている。
ホームルームも終わっているので、バイトの時間を気にしながら身支度を整え始める直之。
「あ、あの~。手島君。」
隣の席から耳障りの良い声が聞こえ、ゆっくりと振り返る直之。そこには麗美が身支度を整え立っていた。
ざわつく教室。
「なんでございますでっしゃろうですか?」
あまりの事態に奇妙な日本語で返してしまう直之に、クスッと笑う麗美。
「
コロコロ笑いながら麗美は話を続ける。
「実は、お付き合いして頂きたいのですが…。」
お付き合いの言葉が飛び出したところで、教室が一気にヒートアップする。指笛、黒い罵声、黒い怒号、黄色い感嘆、諸々の感情が渦巻くコロシアムと化す教室。
「…とりあえず、ここから離れましょう。」
直之と腕を組み教室を駆け出す麗美。
「あぁぁ~~~、僕の荷物~~~。」
黄色い感嘆が、黄色い歓声となって最高潮に、黒い叫びたちは哀愁を帯びて…あ、男泣きが始まってますねぇ。
「で、用事って何です?」
校門を抜け、商店街まで来た二人。ようやく落ち着いたところで、話の続きに入る。
「はい、CDの選定をお願いしたくて…。」
「なんで僕に??」
「音楽に詳しそうだって聞いて。」
「はぁ…。」
ゆっくりとレコードショップに向かう二人。
「実は、明日が母の誕生日で。」
「はぁ…。」
「邦楽で、マイナーだけど人気があったCMソングとかあれば…と。」
「それが、彼女の青春の1ページなんですね。」
「え??」
ラジオのバイトよろしく、いつもの調子でいつものセリフを言って、慌てて口を塞ぐ直之。
いつも聞いてるラジオの
「え、あ…あはは…。」
「ふふ、うふふふ。」
お茶を濁す二人。
「手島君に来てもらって大正解!」
「それは良かったです。」
公園のベンチに座り二人は話し込んでいる。
レコードショップでいろいろ漁ってみたものの、目ぼしいモノは見つからず、サブスク(サブスクリプション)を使ってオリジナルアルバムを作り上げる直之。
「手島君って、本当に器用よねぇ。」
「まぁね。…バイト先で四六時中やってるからねぇ。」
「え、そうなの?」
「え…あ、そうなんだ。先輩が選曲にうるさくって…。」
「ふ~~ん。」
関心する麗美を横目に、バイトまでの時間を心配する直之。
「じゃぁ、僕はそろそろ行くね。」
ベンチから立ち上がる直之。
「うん、今日はありがとう。」
少し残念そうな麗美。直之は頭を下げて公園を後にする。
「…さて、間に合うといいんだけど。」
ロードバイクは校舎に置いたままなので、今日は走って職場に行くしかない。
「その前に、喉が渇いたなぁ…。」
公園の近くのコンビニに入りジュースを買う直之。
(そういえば、天城さんも喉が乾いてるかもなぁ…)
同じジュースを二本買い公園に戻ると麗美はベンチに居なかった。
「仕方ないか…」
片方のジュースのふたを開け一口含み、公園を横切って、職場に向かう。
公園から職場へ向かうには、途中に跨る幹線道路を渡る必要がある。
さて、幹線道路が見えてくると、信号待ちをしている人々に混じって、麗美が見える。
(あ、天城さん…って、彼女の自宅はこっちだった?)
信号が変わり人々が歩道を渡り始めるが、麗美は動かない…。どうやら、スマホに気を取られているみたいだった。
ようやく麗美に追いつこうかというところで、麗美が歩道の信号が変わり始めたのを見て慌てて走り…。
その時、一台の車が強引に右折してくるのが直之の視界に入る。
「!!!」
直之は走り、麗美の腕を掴む。
「え…。」
腕を掴まれた麗美、次の瞬間、彼女の体は後方へ飛んでいた。
入れ替わりに、自分にウィンクをする手島が視界に入り。彼は車に跳ね飛ばされていった。
一瞬の出来事だった。手島は宙に舞った後、さらに走ってきた車のボンネットに落ちてくる、糸の切れた
車は手島を乗せたまま近くのビルに突っ込み、大破。
直後に火災が発生し、ビルの一階部分も巻き込んで炭になってしまった。
麗美が気付いたのは、ビルが火事に見舞われたところだった。
歩行者道に座り込み、目の前には手島の手荷物が散乱している。
見れば先程まで見ていた彼のスマホが鳴っていた。
麗美はゆっくりとスマホを取る。
「篠塚センパイ?」
着信画面を怪訝そうに見ながら、電話に出る。
「も…もしもし…」
「おぉ!!テッシーかぁ…、お前遅れるなら…て、女性??」
ラジオでよく聞く篠塚さんの声が聞こえてくる。
「な、直之さんは…。」
彼女の脳裏に先程の走馬燈が走る。スマホを持つ手が震えだす。
「お~~~い、聞こえてるかぁい。」
「直之さんは、死にました!!」
吐き出すように言い終わると泣き出す麗美。
「!!!…ちょ、ちょっと待ってろ!おやっさん…」
電話の向こうは、大騒ぎになっているようだったが、彼女の耳には何も入ってこなかった。
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