異世界へ転移してもDJやります!

たんぜべ なた。

第1話 DJは高校生

オレの名前は、手島直之。地元の公立高校に通う二年生!今からバイト先に向かうところだ!

ロードバイクに跨り、詰襟つめえり学ランの男子が、リュックを背負い、颯爽と街を駆け抜ける…学ランがブレザーだったらと本当に思う。

「ったく、今時は公立高校でも制服はなんだ!っての。」

ペダルを漕ぐ足に力が入る。


学ランライダーがバイト先に到着した。

彼が入って行った先は、地元でも名の知れたFMラジオ局だ。

更衣室に入り、学ランからオレンジのジャンパーに着替え、ド派手なレイバングラスを掛ける。

更衣室から出てきたジャンパーマンは、スタジオへ。

「お疲れ様です。」

「お疲れ様です!」

「お疲れっす。」

「お疲れ様~。」

スタッフの声に送られてジャンパーマンはスタジオのブースに座る。

「それじゃ~、今日もよろしくおねがいしま~~す!」

直之がサムアップすると、窓越しのスタッフたちもジェスチャーを返す。


「本番入りま~~す。五…四…三」

指が二本、一本とカウントダウン、そしてキューの合図。


時報の音と共に軽快な音楽がスタジオに流れ出す。

「さぁ、週末金曜日がやって来ました。

 みんなぁ~げんきだったかなぁ??

 そして、お待たせしました!!

 テッシーの電リクアワー!始まるぜ!!

 みんなからの電話とお便り、待ってるぜ!!」

彼のバイトがスタートした。


「お疲れさん!今日も上出来120さ!」

「そりゃ…どうも。」

ジャンパーマンとチーフディレクターはハイタッチをする。

「それじゃ、また来週~~!」

「気を付けて帰れよ、我が局人気No1の勤労学生君!」


「お疲れ…、お、テッシー。今日もお疲れさん!」

「あ、篠塚先輩!お疲れ様です。」

ジャンパーマンが部屋を出ようとすると、茶色のジャケット姿の男性が入れ替わってくる。

「聞いてたぜ、ラジオ。相変わらず曲の前置ディスクジャックきは良いんだけど、リスナーとのはからっきしだったなぁ。」

「仕方ないですよ、苦節十七年目のオレですよ。一回り年上の先輩ほど、人生経験は豊富じゃないんですよ!」

「にしては、今日もレミちゃん(ペンネーム)の恋心詩ポエムが輝いていたようなぁ。」

「あ~あ、もう、先輩の番組そろそろスタートでしょ!とっととスタジオに入る!」

「おうおう、わかった、わかった。」

背中を押されてスタジオに押し込まれる篠塚氏。

!!」

サムアップをして、篠塚氏はスタジオに入って行った。


◇ ◇ ◇


今日も私の詩を朗読してもらえた。

いつも番組の中盤で、「週末の荒んだ心を癒す清涼剤の時間」と評して、何組かの詩が朗読される。近頃は私も常連の仲間入りを果たした。

私は天城麗美、高校二年生。


高校に入学した直後、容姿が原因でいじめられ不登校ひきこもりになってしまった。


明日という日が来るのが嫌だった。毎日がどうしようもなく辛かった。苦しくて、寂しくて…。


そんな先の見えない真っ暗な日々が続いていた矢先、聞こえてきた軽快な音楽。

「週末の金曜日、みなさんいかがお過ごしですか?」

はじめは、おかあさんが聞いていたラジオ。なんでもおかあさん達の青春時代思い出ど真ん中の選曲と曲紹介の前説イントロがドツボにハマっていたらしい。


ラジオを聞きながら夕食の準備をするおかあさんは、少し元気になった気がした。

…私が引き篭りをした時には、一日中泣いていたとお父さんが言っていた。

そういうお父さんも少しやつれていた。


ラジオDJの気さくな言葉、恋バナで一途だけれど頓珍漢おとぼけなことを言ってしまい、になるという、何だかんだで楽しいラジオ番組。


いつしか、私もこのラジオ番組のファンになり、お便りを出した。

DJはじめ沢山のリスナー達が親身になって話を聞いてくれて…半年経たずに、私は二度目の高校生デビューを果たした。

だからかもしれない、私は確かにDJに恋をしている。


「でもなぁ、彼って、本当に恋バナには疎いのよねぇ。」

食台に突っ伏して拗ねる娘をにこにこと眺める母親。

「まぁまぁ、この子は、DJさんにお熱かい?」

「ちぃっがぁぁ~~~うぅ!!」

真っ赤な顔の娘が母親の方を向く。

「鏡、いる?」

「…」

母親のボケにツッコミ所をつかめず、憮然とする娘。

炊飯器の音が、夕飯の準備ができた事を告げる。

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