佳織が見た星空⑦

「あ、海の近くに赤い星。私、これなら分かる。

 さそり座のアンタレス!」


低い空に輝く赤い星。

1つだけ色が違うから、すぐに見つけられる。


「サソリの火……」


晴彦がつぶやいた。


「『銀河鉄道の夜』でしょ? 私だって、そのくらいは読んでいるんだから」


イタチに見つかって食べられそうになるサソリ。

サソリは井戸に逃げ込んだが、今度は溺れて死にそうになる。

サソリは祈った。

こうして無駄に死んでしまうくらいなら、

いっそ、イタチに食べられればよかった。

私だって、小さな虫を食べて命をつないできた。

だから、私がイタチに食べられることで、

イタチの命をつなぐことができたはず。

けれど、今、私はこうして溺れて死にそうになっている。

こんなにむなしく命を捨てるくらいなら、

どうかこの次には、みんなの幸せのために

私の体をお使いください。

サソリの祈りは天に届き、

サソリの体は燃え上がり、

真っ赤な美しい光になって夜空を照らすのでした。


こんな話だったかな?

『銀河鉄道の夜』の中の有名なシーンだ。


私は、オリオンを殺したサソリの話よりも、

宮沢賢治のサソリの話の方が好き。


私も、誰かの役に立ちたい。

そんなピアニストになりたい。

いつもそう思っている。

私は、夜空を照らすサソリの火のようになれるだろうか。


そんなことを考えていたら、隣で晴彦が星に祈っていることに気が付いた。

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