語る
「……。」
「……。」
「暇だなあ……。」
「そうですね……。」
「何か面白い話とかない?」
「ある訳ないでしょう、もうほとんど話しましたよ。」
「えー?頑張れば一つぐらい出てこない?」
「出てきませんよ、話せるものは記憶の底から全部話しました。」
「え、じゃあ話せない話はあるってこと!?話してよ!」
「どうしてそうなるんですか……それに、話せなかったことも全部話しましたよ。」
「そっかー……。」
「残念ながら、そうです。」
「……。」
「……。」
「平和だねー……。」
「ここで事件なんて起こる訳がないですからね。」
「えー?なんか起きてもいいじゃん、何でもいいからさ……。」
「何でもいいと言ったって、ここには事件の材料が何もないんですから、何も起きませんよ。」
「じゃあ何か起こそうよー……。」
「無理でしょう。そういう事を起こせるものすらもないんですから。」
「……。」
「……。」
「そういえば、読み残した小説があったなあ……。」
「なんでそんなものが残ってるんですか。」
「だってさ、なんか取っつきにくいタイトルだったからあんまり読みたくなかったんだよ……。」
「それが今更気になってるってことですか。どういうタイトルの本なんですか?」
「菊池寛の「極楽」って小説だよ。」
「あー……。」
「知ってるの?」
「いえ全く。」
「なんか君って、リアクションを偽るのが得意だよね……。」
「昔から鍛え上げられてましたから。」
「そっかー……。」
「そうです。」
「……。」
「……。」
「……ねえ、なんであんな事しちゃったんだろうね?」
「さあ?私にもよく分かりません。ただまあ、強いて言うなら……衝動みたいなもの、ですよね。」
「だとしても男二人でそんなことして、何が嫌だったんだろう?」
「私はいっぱいありましたよ、嫌な事。本当に色々と。」
「僕もあったけどさあ……だからってこれはないでしょ。嫌だ嫌だって言ってた事の方が数十倍マシだよ。」
「でも、あの時はこんな事になるなんて知りませんでしたから。そのせいでしょう。」
「やっぱそれおかしいよ!なんで知らなかった、というか知れなかったの!?こんなの絶対おかしいよ!」
「文句を言っても仕方ないですよ。この世界はそういう風にできてるんですから。」
「君は本当にドライだね……。」
「虚無主義ですからね。世界なんてそんなものだと割り切ってるんです。」
「凄いね、僕にはできそうにない……。」
「できなくていいんですよ。私はなまじ出来てしまったからあんな事をしてしまったんです。」
「できなかった僕もやってるけどね。」
「そこについては突っ込まないで下さいよ、折角いい感じに話を終止しようとしたんですから。」
「えー?止めないでよ、暇なんだからさー。」
「それはそうですが、つい。癖になってるので。」
「そっかー……。」
「はい。」
「……。」
「……。」
「やっぱり、むやみやたらに死ぬもんじゃないね。」
「そうですね。」
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