第21話 黄昏の向こうがわ

「セラさんの花嫁姿は、それはそれは綺麗でしたよ。

 ロム君も三国一の嫁さん貰ってよかったねぇ…と、バルト君やマック君に冷やかされてたけど、まんざらでもなかったようだしね。

 あぁ、結婚式は私が執り行ったよ。

 アキラ君の最後に立ち会ったよしみもあるからね。」

 城壁の街の扉から、今まさに滑り出そうとする貴族が使うような豪勢な馬車がある。

 中に乗っているのはロムとセラ夫妻。

 その横には、旅装束に身を包んだマックとクリスが、車中の二人に何か話しかけている。

 そして、城壁の街の扉の影から、彼らを見守るトムとクロウ。


「昔、私達も同じ光景の中に居たんだよね。」

 トムが懐かしむように目を細め、クロウは腕組みを解く。

「そうですね。

 君は元のさやに戻り、アキラと私は開拓者として、見捨てられた土地を目指した。」

「最後に、アキラに会えてよかったよ。」

「彼も神の寵愛から、逃れたがっていたからね。

 丁度よかったのかもしれない。」


 ロムとセラを乗せた馬車は走り出す。

「二人は、オアシスやその近隣から避難した人々の駐留する地を領地として拝領し、領主として治めるそうだよ。」

「スフラン王国と神聖マロウ帝国、そしてが隣接するところですか?」

「そうそう。」

「また、面白いところを治めることになったんだね。」

 クロウがクスクスと笑っている。


「三人でドラゴンを退けたことを思い出しますよ。」

 トムが空を見上げる。

「勇者ともてはやされましたね。」

「ドラゴンを退治した覚えはありませんが、の二つ名までいただいてしまいましたからね。」

「ええそうですね。」

 クロウとトムはそれぞれの視線の先を見つめ笑う。


 マックたちがゆっくりと歩き出すと、街の方からフードを被った女性が二人の名を呼びながら走り寄ってくる。

 二言三言言葉を交わし、お互いにお辞儀をすると連れ立って歩き出す。

「マックは自分探しの旅に出るらしいね。」

「それにしては、お供が多いですね。

 クリスは致し方ないとして、王女様の侍女までとは…。」

「あぁ、侍女のお供は仕方ないよ。

 王女様が彼の行く末興味を示されているからね。

 主に方面だけどね。」

 にやにやとしてトムがクロウに振り返れば、渋い表情のクロウ。


「ところで、アキラ君の魂はどうなってしまうのでしょうか?」

「今しばらくはマック君と共に…と言いたいところですが、アキラに寵愛を与えた神のご機嫌次第だと思います。」

「そうですか。」

 見送っていた人たちの影も丘の彼方に消え、トムとクロウは門の中に入って行く。


「しかし、元の主を呼ばわりするのは、どうなんでしょう?」

「気にしませんよ。

 昔も今も、彼は大親友でしたから。」

「じゃぁ、彼らは、これからの友人達になるのかな?」

「わかりません。

 ただ、縁があれば、友人になれるかも知れませんね。」

「君と私はすっかりになってしまいましたね。」

 トムの言葉で、クロウは吹き出し笑いする。


「彼らが、どんな物語を紡ぎだすのか?

 この世界にどんな変化をもたらすのか?

 とても楽しみです。」

 クロウが誰かに語るわけでもなく呟く。

「過去から来た君が言うと、重みがある言葉ですよね。」

 連れ立って歩くトムも、誰に言うわけでもなくうなずく。


 バルトが大手を振りながらトムとクロウに近づいてくる。

「そういえば、ここにも悪友ゆうじんがいるようだね、クロウ。」

 トムがにやけ顔になり、クロウが肩をすくめてみせる。


 ◇ ◇ ◇


 今日は若者たちの門出を、本人たちが伺い知らないところで勝手に祝うつもりになった中年たち。

 黄昏たそがれ時の街を横目に酒場に向かって歩いて行く。


 ◇ ◇ ◇


「私達って、中年という年齢でしたっけ?」

「それは、お互い見た目が中年という事で、押し通しましょう。」

 ナレーションの発言に怪訝けげんそうなトムと、サムアップで逃げを打つクロウだった。


 Fin

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