第20話 戴冠式

 サロメ王女を中心に、国の重鎮が居並ぶ宮殿の大広間。


 ロムとセラ、そしてマックとクリスが謁見を受けている。

 そしてクリスは白い布を携えている。


 ロムとマックは、クロウ顔負けの燕尾服に身を包み、セラはイブニングドレス、クリスはワンピースに身を包んでいる。

 なお、クリスのドレス姿には背伸びし過ぎた印象があり、周りの人々からは温かい眼差しが向けられている。


「ロム、セラ、そしてマック!」

「はい!」

 王女の呼びかけに三人は毅然と返事をする。


「この度の魔王…討伐はご苦労でした。」

「はい。」

 事情を知っている王女はで言葉を詰まらせそうになるが、どうにか乗り切る。

 三人はここでも返事をする。


「三人にはの称号を授けます。」

「はい。」

 三人は深々と頭を下げると、周りから拍手が起こる。


「英雄の称号を授けるにあたり、見届け人にお越しいただいています。

 は世界共通の称号であるため、慣例として第三国からの見届け人を迎え、戴冠式を挙行します。」


 王女の座る椅子の後ろから、白いローブの人物が姿を現す。

「紹介します。」

 王女は、人物の方に向き直るでもなく、その人物の前に手を差し伸べる。

「神聖マロウ帝国使節 トマス枢機卿です。」


 ローブを脱ぎ、白い祭服の上に、金色のストラをまとったトムが姿を現す。

「今回、見届け人として神聖マロウ帝国皇帝の命を受け参上しました。

 皇帝のしもべトマスです。」

 差し伸べられた王女の手に接吻し、王女にひざまずくトム。

 挨拶を済ませると、トムは王女の傍に立った。


「それでは、いにしえの作法に倣い、英雄の戴冠を執り行います。」

 王女がゆっくりと席を立つと、侍女たちから王笏おうしゃくうやうやしく奉げられる。


 王笏を手にした王女が今度は、トムの前にひざまずく。

 トムは神に祈りを捧げ、王女の頭に按手あんしゅする。


 緊張の糸が張り詰めた空気の中、王女は立ち上がり、ロムとセラ、マックの下に降り、それぞれの肩に王笏を置いていく。


「ロメオ、貴殿に英雄の称号を授ける。

 その名に恥じぬよう精進しなさい!」

「はい!」


「シェリーヌ、貴女あなたに英雄の称号を授けます。

 その名によって貴女が多くの民から愛されますように。」

「ありがとうございます。」


「マッケンジー、貴殿に英雄の称号を授ける。

 聞けば、貴殿が魔王の首を刎ねたと聞きます。」

「仰せの通りです。」

「英雄という十字架の重みを知りなさい。

 そして、語り継ぎなさい、あなたに託されたすべてを!」

「はい!」


 マックの傍に控えるクリスに目をとめた王女。

「あなたは?」

「マッケンジーの僕、クリスティーヌ・ワルキュリーです。」

「そうですか…。

 可愛らしく聡明なお嬢さんですね。

 マッケンジーの事、くれぐれもよろしくお願いしますね。」

「はい。」


 真っ赤になってうなずくクリス。

 隣のマックも耳まで赤くなっている。

 二人の顔を見比べクスッと笑う王女。


 王女は玉座に座り直す。

「三名に爵位を与え、末永くその功績を称えるものとし…」

「王女殿下に進言いたします。」

 王女の話に横槍を入れるトム。


「使者の方は少し静かに…」

 侍女がトムを止めようとするところを王女が制止する。

「トマス枢機卿には何かよい考えでもありますか?」

「はい。」

 トムはゆっくりと進み出て王女に耳打ちする。

 王女は怪訝けげんそうな顔をしていたが、次第ににこにこ顔になり、最後には何度もうなずく始末。


 周りも何事かとソワソワしてくる。

「ロメオ、それとシェリーヌ、あなた方は結婚されるそうですね。」

 固まる二人、感嘆の声が周りからも漏れる。


「仰せの通り、

 結婚したい!…のですが。」

 ようやく話し始めたセラだが、理由の手前で口ごもる。

「どうしたのですか…。」


「私達には、お互いの後見人がいません。

 ロメオは勘当同然の扱いで家を追い出され、私の両親はすでにこの世に居ません。

 ですので、結婚は…。」

 王女が満面の笑みを浮かべ二人を見る。

 トムもにやにやしている。


「それでは、私とこちらのトマス枢機卿が、あなた方二人の後見人となりましょう。」

 周りから拍手が沸き上がり、指笛も鳴り出す始末。

「では、には結婚式を執り行った後、伯爵の爵位を授け、領地を与えましょう。」

「あ…あり…ありがとうございます。」

 話の展開が急すぎてお礼を述べるのが精一杯のセラと、ロム。


「マッケンジー。」

「はい、王女殿下!」

 二人の結婚が眼前で決まってしまい、その勢いにビビり気味のマック。

「あなたには、今しばしの猶予を与えますが、時期が来たら必ず私のところに来るように!ね。」

 サムアップをする王女。

 再び周りから拍手が沸き上がり、指笛も鳴り出す。


「それでは、祝賀パーティーを始めましょう!」

 王女の一声で、大広間はパーティー会場に早変わりする。

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