第17話 魔王狩り
「魔王アキラ様、お初にお目にかかる。」
黒いマントと黒鉄のプレートメールに身を包んだ騎士が一人、アキラ王の前に立っている。
他に黒装束がもう一人、小さな女の子の首元にナイフを突き付けている。
小首を下げて、騎士が話を続ける。
「私は、東シプロア連邦の騎士フォマルハウトと申します。
今日は、貴方様のお命を頂戴にあがりました。」
「東シプロア連邦の騎士は、姑息な事が十八番のようだ。」
「ふははは…。
人種が魔王を倒すのに、手段を選ぶ必要はありますか?」
「卑屈さも、東シプロア連邦の騎士には必須のスキルか。」
怒りのあまり、フォマルハウトは小刻みに震えている。
「うるさい!
あ~面倒だ!
死ね今すぐ!!」
語気を荒げ、叫びだす始末。
「では、相手になろう。」
「おっと、手を出せば、女の子が傷物になりますよ!」
フォマルハウトは不敵に笑い、王は舌打ちをする。
◇ ◇ ◇
「なに!
クロウが魔王のオアシスを離れているだと?」
「はい、兄上。
間違いありません。」
驚くフォマルハウトに、にやにやと嫌な笑みを浮かべたハダルが報告する。
「此度のスフラン侵略の失敗は残念ですが、魔王を倒す絶好のチャンスです。」
「しかし、お前の手持ちはかなり消耗したはず。」
「ですから、わが親愛なる兄上に、この好機を献上したいのです。」
「ふははは…。
心にも無い事を。」
「しかし、この好機を逃せば、いったい何時になったら鉱床権益を全て手中に収めることが出来るでしょうか?」
「ふむ、父王の希望でもあるし、動く価値はあるか。」
「そうです。」
「判った、早々に手配をかけるとしよう。」
「では、私はこれで。」
ティータイムの席から立ち上がる弟ハダル。
それを見送るフォマルハウト。
「そうだった。
ハダルよ、父王は近々崩御される。」
ハダルは何も言わず部屋を出ていく、凶悪な笑みを浮かべながら。
部屋の扉が閉まると、黒装束が一人、扉の前に跪いている。
「魔王の討伐に向かう。
手勢を集めよ。
大至急だ!!」
「御意。」
黒装束は影に溶け込むように姿を消す。
「これで、私も英雄の仲間入りだ。あ~はっはっは。」
◇ ◇ ◇
フォマルハウトはアキラ王を
「なかなかタフじゃないですか、魔王さま。」
「おかげさまでね。」
「口答えするなぁ!!」
いうなり、王の頬をサーベルの鞘で張り飛ばす。
(どうなっている?
先程、下層で爆発したような振動があったかと思えば、部下共がこちらに来なくなったぞ。)
王が立ち上がろうとすると、再びサーベルの鞘で王の頬を張り飛ばすフォマルハウト。
(クロウ《やつ》が帰ってきたのか?
そんな情報は…)
「おい、黒犬共はどうした?
連絡が来ないではないか?
下の階で何が起こっているんだ?」
主に質問された黒装束は戸惑っている。
構えていたナイフも少女の首元から離れ、小刻みに震えている。
「
「
城門を勢いよく
「
二人から少し間を取り、周囲を見渡しながら、打ち漏らしを確実に仕留めるマック。
(もうちょっと、周囲を探索したいんだけど…
あの二人突っ走ってるんだよなぁ。)
ちょうど、王の間に三人が到着したところで、フォマルハウトが叫びだしている。
王の間をそっと覗き込むロム。
王を
「おい、マック。」
小声でマックを呼ぶロム。
マックが近づきドアの影から部屋を除く。
「とりあえず、手前の黒装束を何とかしてくれ。」
「了解。」
ロムはセラを近くに呼び
「マックが人質を取っている黒装束に仕掛ける、セラはバックアップに入ってくれ。人質は失いたくない!」
「わかったわ。」
「じゃ、やるぞ!…三、二…」
ロムのサムアップを合図に三人が動き出す。
「
マックが電撃魔法を黒装束にぶつける。
黒装束が電撃を受け倒れ始める。
倒れるタイミングを見計らって、ドアを開きセラは人質の確保に、ロムは黒鉄の騎士に突っ込む。
「!!!」
ドアが開いた衝撃に驚き振り返る黒鉄の騎士。
「
ロムが刀を横一閃飛び込んでくる。
咄嗟にサーベルを抜き刃を受け止める体制をとる黒鉄の騎士だが、ロムの突進に耐えられず、ふっ飛ばされて壁に叩きつけられる。
「ぐぅ!!」
アキラ王の下にたどり着いたロムは声をかける。
「王さま、大丈夫だったかい?」
「うむ。」
全身に殴られた痕跡を残し、顔にも沢山のアザを残したままアキラ王が答える。
アキラ王が人質の方を見ると、黒装束は痙攣しながら倒れており、女の子はセラの懐に抱き寄せられている。
マックは戸口に立って、廊下からの防壁となっている。
「そうか、君たちが来てくれたのか。」
ゆっくりと動き出す王だが、骨折などによるダメージで立ち上がることもままならない。
ロムが少しでも楽な姿勢になるように、王を抱き起こす。
黒鉄の騎士は、壁に叩きつけられたまま動かない。
黒装束は後ろ手に縛られながら、少しづつ動けるようになっていた。
「さて、あなた達は何処から…」
「東シプロア王国 第一王子直衛遊撃隊」
セラが尋問を始める前に、アキラ王が語り始める。
「目的は、このオアシスの占拠、並びに王の暗殺。さらに言えば、住民の掃討までがオーダー…か。」
黒装束が
セラとロムは驚き、王が続ける。
「奴隷兵だよ。
亜人、獣人は人種よりも戦闘における能力値が優秀だからね。
君たちがここに居るということは、何人かの亜人たちとも戦っているはずだ。」
「ふふふ…。
王よ、
「がぁぁぁぁああ!!」
黒鉄の騎士がこちらに歩み寄り、黒装束の娘が首元に手をかけ苦しみだす。
「
やはり、亜人・獣人は戦闘力はあっても、人種ほどの意志力はない!」
黒装束の娘がこと切れる。
「ふん、奴隷だから仕方ないか。」
黒鉄の騎士がロムとセラの前に立つ。
「さて、君たちの力を見せてもらうとしよう。」
黒い刀身のサーベルを二本抜き、構える黒鉄の騎士。
「君たちはおかしな体術を使っているねぇ。
実に興味深いよ…
時間はないが、楽しませてくれよ。」
ロムは王から離れ、セラも女の子を置いた。
マックは、扉にわなを仕掛け、黒装束の娘に近寄る。
苦悶に満ちた彼女の顔にそっと手を当て、呪文を唱える。
あどけなさが残る少女の
そっと、胸の上に手を組ませ、弔う。
「ほぉ~う、大地母神の葬送儀式…
スフランの者達か…」
含み笑いを浮べながらにじり寄る黒鉄の騎士。
「これで、弟への手土産が出来た。」
言い終わるよりも早く、黒鉄の騎士は、ロムとセラに襲いかかる。
「
「
全力で受けて立つ二人。本気のぶつかり合いで、激しく火花が飛び散る。
「こ、これは…」
「えぇ、彼らの
彼らが冒険者としてしか生きられない
アキラ王が一連の攻防に息を吞む。
マックは王と女の子の傍に立ち答える。
◇ ◇ ◇
数刻の間、三つの影は激しくぶつかり合っている。
が、ロムとセラの息が上がり始める。
「ふむ、野戦は慣れていても、倒れない相手は初めてらしい…」
「なんて硬さだ…」
「おまけに、ダメージも入ってないっぽいよ!!」
肩で息をする二人をよそに、涼しげな顔の騎士。
「さて、私はそろそろ帰るとしよう。
お客を待たせているのでね。」
「こぉんんのぉぉぉ~~~!!」
二人掛で騎士に向かうロムとセラ。
その攻撃をさらりとすり抜け騎士が王の前に立つ。
「では、王よ。私は失礼する。」
ゆっくりと王の前でサーベルを構え
「…が、手土産が欲しいんですよね。」
突きの体制をとり
「あなたの命こそ、私の手土産に相応しい!」
王の胸元を刺し貫く。
流れるような一連の行動にマックは手が出せなかった。
「あなたも、世代の流れに飲み込まれなさい!」
騎士はサーベルを手離し、王は吐血する。
「では、諸君ご機嫌よう…。」
そう言って一歩下がると、王の傍でマックが殺気立っている。
「ほう…いい眼をした魔導士がいたものだ…。
はて?その眼には見おぼえが…。」
白々しく口上を言った後、目を細めて下劣な笑いを浮かべる騎士
「白壁の屋敷に居た、あの女将か…」
マックの顔が紅潮しだす。
「そうかそうか、お前はあのものの知り合いか?
…ふん、その眼が気に入らんので、切ってくれた。」
マックの脳裏に目をつぶされている女将の顔が
「あとは、部下のおもちゃにしようと思ったのだが…。
余りにもしつこいので、腹も切ってやったぞ!」
騎士が話し終える間もなく、マックがロッドで殴りかかる。
「
青白い炎が7つ星に刻まれたロッドが振り下ろされ、残りのサーベルで受け止める騎士。
「おおぉぉ!!
このような
「そうだ!
これが僕の力だ!」
再びロッドを振り上げるマック。
背後からは、ロムとセラも切りかかって来ている。
「ここまでだ!」
三人の攻撃をかわし、鎧戸を蹴破ると騎士は踊るように外へ飛び出した。
「諸君、縁があれば、また会うとしよう。」
高笑いの騎士は、落下しながら発煙筒を取り出し空へ投げる。
発煙筒からは、赤・黄・緑と煙が立つ。
すると、街からも幾本かの狼煙が上がる。
ひらりと地面に降り立った騎士は、北西に走り出す。
ロムが窓から飛び出しそうな勢いのところを、セラとマックが押しとどめる。
「!!!」
王が倒れ伏した音で、三人は我に返る。
振り向くと女の子が王の背中をさすっている。
「アキラ王!!」
三人が王の下に駆け寄る。
「奴を退けてくれたのか…ありがとう。」
「あの騎士は?」
「東シプロア王国 第一王子 フォマルハウト」
「!!!」
驚く三人を前に吐血する王。
「すまないが、玉座に座らせてくれないか?」
促されるまま王を玉座に座らせる三人、胸に刺さるサーベルが痛々しい。
「セラ、回復魔法を…」
「ダメなの、大地母神の加護がここでは発動しないみたいなの…。」
「女将の時も…」
マックが言葉に詰まったところで、セラは首を縦に振る。
「ここが、見捨てられた土地と言われる所以ですよ。」
「トム!」
三人が驚く横で、女の子は小さく構える。
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