第16話 冒険者

「どうなってるんだ?」

 ロムは立ちすくむ。

「なにがどうなってるの?」

 セラがロムに寄り添い、マックは黙って立ち尽くす。

 彼らの知っているはずのオアシスの街道は、瓦礫の山となっている。


 ◇ ◇ ◇


 クロウから呼び出された三人は、スフラン王城内の彼の執務室に来ていた。

「急ですいませんが、わが主の元へ向かってもらえませんか?」

「何がありました?」

 怪訝けげんそうに聞くマック。


「大至急の用向きでして、詳しくは現地で確認してください。」

「また、飛竜で飛ぶんですか?」

 セラが聞く


「いえ、次元門ゲートを使用します。」

「げ~と???」

 初めて聞く言葉に疑問符が浮かぶ三人。

 それを気にする風もなく、クロウは次元門を開き三人をいざなう。


「この影を抜ければ、主の下へ行けます。

 念のため、オアシスの南西に繋ぎます。」


 三人が次元門へ入ろうとして、セラが聞く

「バルトさんも来てくれるの?」

 クロウの横でバルトが横に首を振る。

「私には、別の任務がある。

 王女より賜った任務が…ね。」

 セラはうなずき、ロムとマックに続いて次元門に入った。


 そして、眼前に広がる荒れ果てたオアシス。


 三人が状況を理解できずに、呆然としていると

「君たちは何者だ?」

 背後から声をかけられ、三人が振り返るとそこに立つのは白銀の騎士達

「ナイツ・オブ・ハイネス…」

 マックのつぶやく声に、ロムとセラは固まる。


 先頭にいる騎士が武器を構え、何かを問いただそうとした時、

「待ちなさい。」

 後方から声が聞こえる。

「彼らは、私の友人が寄越した助っ人ですよ。」

 騎士の壁を抜けてきたのは、仮面を着けていない白い祭服の男だった。


「早速ですまないが、オアシスへの突入を君たちにお願いできるだろうか?

 我々は、オアシスの門に立ち、逃げてくる住民の保護に努めたい。」

「これだけの戦力があるのだから、あなた方がオアシスに突入すれば、万事うまくいくのではありませんか?」

 マックが聞き返す。

「すまない。

 我々はあのオアシスには踏み込めないのです。」

「何か制約でもあるのですか?」

「我々の宗教上の問題と、この地がだからです。」

「宗教上はともかく、他国領に侵入した時点でと、とられかねませんか?」

「だから、今はんですよ。」

「なるほど…。」

 マックは納得するが、ロムとセラは話が見えずマックと祭服の男を交互に見ている。


「でも、だから同じことにならないの?」

「セラ、僕らは何者だい?」

「え、…冒険者でしょ?」

「冒険者の仕事は?」

「依頼を受けて依頼を遂行する事…あ、褒章次第だけどね!」

「そういう事!」

 お茶目な要求を忘れないセラに、マックがサムアップする。


「でも、マックよぉ。

 依頼は何で、誰から頼まれたって言うんだい?」

「依頼人は、クロウ。

 依頼の内容はクロウの主の手助け。」

「!!!」

「つまり、オアシスに入って、アキラ王を助ける事は、冒険者としてのなのさ。」

 マックが人差し指を左右に振ってオアシスに入る大儀を話す。


「優秀な魔術師がいますね。」

 祭服の男がうなずく。

「てれる!」

「ロム!!

 あんたが照れてどうするの!!」


「急を要する事だから、すぐにオアシスに向かってもらいたい!」

 祭服の男がげきを飛ばす。

「はい!」

 檄に答える三人。

 走り出そうとする三人…と、マックが振り返り祭服の男に話しかける。

「僕は、ヴェネット・マッケンジー。

 愛称がマックです。」

「私は、トマスです。

 以降はトムと呼んでください。」

「では、トム、私たちはこれで。

 避難民の保護、くれぐれもお願いします。」

「はい、承るよ。」


 走っていく三人を見送るトムに、騎士長が近づく。

「枢機卿、彼らは一体?」

「クロウがよこした使者ルーキーですよ。」

「彼が戻れば、この程度の戦闘は造作もないことでは?」

「彼が戻れないから、あの三人だけでなく、我々も出張ってきているのではないですか?」

「そうですが…。」

「まぁ、サロメ嬢への貸しとなりますし、悪いものでもないと思いますよ。」

「しかし、亜人・獣人ですよ。

 …私達は嫌ですよ、彼らと共に居るなんて…。」

「とりあえず、保護した方々をスフラン王国領内にとどければいいんです。

 我慢してくださいね。」

「はぁ…」

 騎士長はため息をついたのち、敬礼する。

「部署に戻ります。」

「はい、頼みましたよ。」

「御意!」

 騎士達は複数人がチームを組み、オアシスの出入り口に散って行った。


 三人がオアシスに入って、目に飛び込んでくるのは、黒装束の一団が、所かまわず家荒らしし、人を見つけては路上に引き吊りだし痛めつけている。

阿修羅アシュラ一騎当千オレテッペン

 ロムの構えた黒い刀身が薄っすらと緑色の光に包まれていく。

鬼姫キキ獅子奮迅ライオンダイブ

 セラの構えたメイスの中心部にあるルビーが真っ赤に燃え上がり始める。

「うおおおおぉ~~~!!」

「いけぇぇ~~~!!」

 二人は、黒装束に向かって突撃していく。

 あとは、見慣れた殺陣たてがはじまる。

(あれが原因で、二人とも出奔する羽目になるんだよなぁ…)

 マックはため息をつく。


 二人の攻撃に混乱した黒装束も体勢を立て直し、新手も加わり、二人に襲いかかろうとする。

雷撃魔法スパーク

 襲いかかろうとした一団に雷が落ち、全員が地面に叩きつけられ絶命する。

(そして、僕もこれが原因で出奔するんだよねぇ。)


 三人は城に向かって走っていく。

 途中見慣れた白壁の屋敷が見える。

 こちらも大分破壊されている。

 玄関口には先程の黒装束がたむろしながら、一人の女性をなぶっている。

「女将さん!!」


 彼女を見るなり、走り出すロムとセラ。

 ロムが黒装束どもを一閃し、セラが彼女を抱き寄せる。

「どなた様ですか、ひょっとして助けが来て下さったのですか。」

 彼女は目をつぶされ、服もずたずたに引き裂かれたうえ、下腹に深い傷を負っている。

「私達です。セラにロムです。」

「セラ…ロム…。

 あぁ、クロウさんのお友達の…。」

「そうですよ。

 クロウさんの依頼でやってきました。」

「うん…うん…。

 来てくれたのね。」

「女将、他の従業員たちはどちらに?」

「宿の奥に隠れています。

 ヤツラよりも先に彼らを助けてください。」

「判った!!

 セラ行くぞ!

 マック、後を頼む。」

「マック、これ回復薬」

 ロムは立ち上がり奥に入って行く。

 セラはマックに回復薬を渡し、後に続く。


「私はもう助からないから、あなたも行って…。」

 女将が話し切る前に咳き込んでしまう。

 吐血をしながら。


「判っています。

 しかし、私がここで出口を確保しなければなりません。

 少しの間ですが、お供をさせて下さい。」

「やさしい子達…。

 よかった、あなた達に看取って…も…ら…ぇ…」

 女性は息を引き取り、マックは彼女を近くにあったソファーの上に横たえる。

 程なくして、奥の方から阿鼻叫喚と共に何かが壁に叩きつけられる音が響く。

 そして、金属が激しくぶつかる音が聞こえ、多数の足音も聞こえてくる。


「隠れていた人は救出して…。」

 ロムが、従業員を従えて戻ってくる。

 そして、ソファーに置かれた女将を見て絶句する。

「どうし…」

 遅れてセラが戻ってくるなり、ソファーに駆け寄る。

 従業員たちはすすり泣き始める。


 一頻ひとしきりしてマックが、従業員たちに語りかける。

「街の南西に向かってください。

 ナイツ・オブ・ハイネスがあなた方を保護してくれる手筈になっています。」

「そんな!

 やつらは、我々を敵視して…。」

「知っています!」


 従業員の言葉を遮ってマックは続ける。

「彼らもクロウさんの依頼で動いています。

 今は、生き残る事だけ考えて下さい。」

「しかし、我々にはリーダーたる女将がいない…。」

「彼女は、あなた方との死を望んでいなかったはず…。」

 従業員の脳裏に、自分たちをかくまうために一人玄関へ向かった女将の姿がよぎる。

 女将を袋に入れ、従業員たちに事付けるマック。

「まず、生き残り、女将さんのお墓を建てて下さい。

 今後の事は、その後で。」

「わかりました。」

 従業員たちが、女将を抱えて外に出ると、そこには二人のナイツ・オブ・ハイネスが立っている。


 おびえる従業員を前に、膝をかがめる騎士達。

「お迎えに上がりました。

 他の店舗の方々もこちらで救出しています。

 あなた方も同行いただきます。」

 騎士の後ろには、確かに十数名の亜人・獣人が着の身着のままの姿で立っている。

 マックがうなずくと、従業員は騎士たちに従った。


「いいんですか?

 越権行為ですよ。」

 マックが殿についた騎士に尋ねる。

「我々の枢機卿は、現在お休み中である。」

「はぁ…」

 枢機卿と聞いて、それなりに高位の役職であろう人物の話が何故ここで出てくるのかわからないマック。

「枢機卿は、人助けの夢を見ておられます。」

「!!!」

「夢の話であれば、謁見も何もありません。

 それに、あなた方が黒装束を叩いて下されば、誰も枢機卿の夢を覗き見る事もかないません。」

 言い終わると、騎士は走って行き、避難者の警護に付いた。

「なぁ~マック…」

「ねぇ~マック…」

 ロムとセラがマックに突っかかる。

「どいう事!!」

 マックは吹き出し、ロムとセラは怪訝けげんそうにしている。


「悪い悪い。

 どうやらトムさんは、いやは全面的に我々をバックアップしてくれそうだよ。」

「え~~~!

 あの人枢機卿だったのぉぉ!!」

「なるほど、騎士団が付き従うわけだ。」

 驚くセラと、ため息をつくロム。


「とりあえず城に急ぎましょう。

 それと、道中の黒装束は片づけていきましょう。」

「がってん!」

「承知!」

 三人は城に向けて走り出す。


 そんな三人を物陰から見る影。

「良かったんですか?

 あんな芝居を打ったりして…。」

「ええ、構いません。」

 にこにこ顔のトムと、渋い顔の騎士長だった。


「それよりも」

 と、黒装束を見るトム

「この部隊は、末端の者ではなさそうですねぇ。」

「恐らく、東シプロアの遊撃部隊と思われます。」

「王子が出てきたかな?」

「魔王退治ですからねぇ…。」

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