第14話 葬儀と告別
教会堂の前には、白いタープが張り渡され、一般はもちろん、各国弔問使節も訪れている。
喪服を着た侍女達が応対に追われている外側で、喪章をつけた騎士団が反旗を掲げて警備を行っている。
やがて、弔問者をかき分けながら近衛騎士団に先導されながら教会を訪れる一団。
「お、おい。あ、あの騎士達…」
「ああ、白銀の騎士団…」
「ナイツ・オブ・ハイネス…」
「神聖マロウ帝国 皇帝騎士団」
近衛騎士バルトを先頭に、葬送服を着た祭祀に従う白い礼装の騎士団が教会堂の内部に入って行った。
教会堂内部では、右側に国王縁者、侯爵家をはじめとする貴族や領主、商人など並び、左側には各国からの使節が並んでいる。
そして、祭壇に祭祀が立ち、その両脇に白銀の騎士が並び立つ。
葬送の儀式がはじまる。
その時、左側の席から感嘆の声が漏れる。
「おぉぉ、美しい。」
「そうか、あの方が…」
「この国も、今しばらくは安泰か…」
黒いベールに黒いショール、そして黒いロングドレスに身を包んだサロメ王女が、喪主席に着座している。
◇ ◇ ◇
(っく、これはどういうことだ?)
東シプロア連邦の使節の一人が苛立つ。
(喪主は違う人間が収まる手はずだった。
そう言えば、潜入させていた部隊はどうしたのだ?
冒険者に潜り込ませた連中も音信不通ときている。
何があったというのだ?)
「おい!」
使節が後ろに控える従者を呼び寄せる。
「は、ここに!」
「この式が終わったところで、お前は冒険者となる。」
「御意」
「行きなさい。」
従者は影のように黒くなると霧散する。
(さて、ここの諜報はどこまで進んでいるのでしょうか?)
使節はニヤリとほくそ笑む。
式は荘厳に行われていく。
◇ ◇ ◇
「サロメ王女、いえ、女王陛下…」
「王女のままで構いません、祭祀様。
この度は、父王の葬儀を執り行って頂き感謝いたします。」
祭祀の前に頭を下げる王女。
「失礼ですが、権力争いは落ち着きましたか?」
「祭祀様には、お見苦しい話で耳を汚してしまい、申し訳ございません。」
「いいえ、しかしあなたが喪主を務めたということは、この国も落ち着いたと見ています。」
「今しばらくは王座を空席とし、私が摂政として政務を取り仕切ります。」
「ほう。」
「実態は、侯爵家をはじめとする貴族院、商家や一般市民から募る庶民院を創設し、国家運営から行政の展開に至るまで、知恵を出してもらいます。」
「庶民からも意見を?」
「はい、いずれは領内もこのような形態をとり、政務の実行を多重化しようと思います。」
「興味深い話ですね。これは、わが君にもご報告申し上げねば。」
感嘆する祭祀。
葬儀も無事に終わり、二人は王女の私室にてティータイムを楽しんでいる。
「しかし…」
祭祀がカップを皿に置く
「この国造り、どこかで聞いた事があるような…。」
「はい、魔王アキラ様のオアシス郡統治の手法を真似ています。」
「やはり!」
「祭祀様は、彼のことをご存じなんですか?」
「本人との面識はありませんが、安定した統治と、民度の高さには、我が国にも見習うべき点があります。」
「そうですか…。」
「王女殿下も彼との面識は無いようですね。
それにしては、父王死去からの短期間でよくここまでまとめ上げられるました。」
「もちろん、協力を頂いた者はいます。
もうしばらくは、王政の安定を図るために滞在頂いています。」
「その者の名は?」
「魔王の執事 クロムウェル卿です。」
「なるほど、それで合点いきます。彼は魔王の有能な右腕として、長らく仕えていましたからね。」
「クロムウェル卿は、それほど有名な方なのですか?」
「はい、裏で政り事に関わる者であれば、彼を知らない者はいません。」
「あまり褒められた方ではない…と。」
「そういう訳ではないのですが、東シプロア連邦が悪評を広めて回ったことが原因かもしれません。」
祭祀の言葉を聞き、窓の外を見てため息をつくサロメ王女。
「私たちの国情不安の原因も隣国によるものと疑われる事態もありました。」
「そうですか。」
祭祀は王女の横顔を見ながら続ける。
「とりあえず、政情不安が起こらなくて良かったです。
この国が不安定になると、周辺国の均衡が崩れ抜き差しならぬことになります。」
「そして、わが国は戦場と化す。民はなぶり殺せれ、国は焦土となる。」
「御意。
なればこそ、表向きにはトラブルもなく王位が継承された事は喜ぶべき事なのです。」
「しかし、無血で事は運びませんでした。」
「致し方ありません。
為政者の背負うべき十字架です。」
祭祀はゆっくりと立ち上がる。
「王女殿下と貴国の民に、神の祝福があらんことを。」
「ありがとうございます。」
サロメ王女も立ち上がり、祭祀に頭を下げる。
その姿を見届け、祭祀は王女の私室を後にする。
祭祀が扉を閉めると、扉の外にクロウが立っていた。
「ご無沙汰しております、祭祀殿。」
壁にもたれかかり、執事らしからぬ横柄な態度で祭祀に話しかけるクロウ。
「君も、ご苦労だったね。クロウ。」
「恐れ入ります。」
「このような所で君に会える…。
先の事では、すまないことをした。」
「かまいません。
現に私たちは、生き残れる可能性を手に入れたのです。」
「わが国では、人種以外は市民として受け入れることができない。」
「教義であれば、仕方ありません。」
もたれかけていた壁から離れ、クロウがゆっくりと立ち、執事としての礼をする。
「次期皇帝候補、トマス枢機卿。」
トマス枢機卿は不敵に微笑む。
「この秘密会談も、今後の政治的基盤を安定させる狙いがあるのでしょう。
そして、亜人・獣人がいかに人種と交わり浸透していくか、壮大な実験場も手に入る。」
「それは、君達も望んでいたことですよね。」
「御意。」
トマスはクロウに背を向ける。
クロウは礼を解き、直立不動となる。
「
この葬送をきっかけに世界の世代交代が加速するでしょう。
かの国の王も死期が近いと聞きます。
あなた方もこの潮流に飲み込まれぬよう注意してください。」
「ありがとうございます。
貴国に神の御加護がありますよう。」
クロウの顔を見つめ、にっこりとほほ笑み、トマスは廊下を歩いて行った。
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