第13話 弔問前夜(祭)

 ここ二~三日、お城からの呼び出しもなく、日がな一日街を散策することを日課としている三人。

 今日も今日とて、ホテルを出ようとすると受付嬢に呼び止められる三人。


「お客様、申し訳ありませんが宿をご遠慮ください。」

「へ…」

 彼女の依頼で呆気に取られてしまう。


「ひょっとして、ロムの酒乱が度を越した事がばれたのかしら。」

「セラの絶叫がとなりのお客様に迷惑をかけたかな。」

「君たち二人の寝相の悪さに愛想をつかれたんじゃないかなぁ。」

 三者三様、適当な言いがかりをつけながら


「で、何か問題でも?」

 三人が口をそろえて受付嬢にすがる。

 受付嬢…聞きたくない話を聞いてあきれ顔になりながら。

「神聖マロウ帝国からの弔問団がこちらを貸し切られると伺っています。」

「なんだ、そうなんだ。」


 安堵する三人

「…て、私たち今夜どうするの?

 野宿?

 ねぇ、野宿??」

「はぁ…仕方ないね。」

 セラがロムをゆすり、肩をすくめるロム。


「よろしければ、私共の方で別の宿をご案内できますが。」

「是非お願いします!」

 受付嬢に迫る三人。後ずさりする受付嬢。


「く、クロムウェルさんにもお伝えくださいね。」

「そういえば、ここ二~三日、クロウに合ってないわね。」

「監視依頼が消滅したから、気にもしてなかった。」

 受付嬢の言葉を聞いたところで、三人がはたと気づく。

「彼は、ホテルに戻っていないと?」

「はい、しばらく出かけると言われて今日で三日目になります。」

「…知らなかった。」

 受付嬢との受け答えで、すっかりクロウの行動に疎くなっていた自分にショックを受けるマック。


「とりあえず、ご紹介先にお荷物を移しておきます。こちらが宿屋の場所になります。」

 地図を渡されたところで、別のお客が来たらしく、受付嬢はそちらに移動していった。


「しかし、クロウはどこに行ったのかなぁ?」

「三日も留守にするってことは、街の外に出てるって事かしら?」

 ロムとセラは真剣に考えこんでいる。

「たぶん、城に詰めてるんじゃないかなぁ。」

「そうなのマック?」

「たぶんね。」

 マックの答えを聞いたところで、次の質問をしようとしたセラの視界にバルトの姿が映る。

「あら、バルトじゃない。」

「どこどこ…あ、居た。お~~い、バルトぉ…」

 セラの声につられ、バルトを見つけたロムが彼に気付いてもらおうと大声をかけようとするが、正装に身を包んだバルトはいつになく緊張した面持ちで街道の往来を小走りに壁門へと向かっていた。

「今日は声をかけない方がいいようだね。」


 マックがロムの肩を叩いて周りを見渡す。

 自分たちが先程まで宿泊していたホテルに十数名の旅装束一団が入って行く。

 彼らは神聖マロウ帝国からの使者なのだろう、全員が真っ白いマントに同じマークがあしらってある。

 街道を行きかう人々もいつになく多くなっている。

 地元の住民はもちろん、外国からの来訪者らしい一団も複数見かけられる。


「確かに人が増えてるなぁ、しかも外国からの客人が目立つ。」

 マックは二人に向き直り、冒険者ギルドに行くことを提案する。

「これだけの人が動いているんだ、冒険者ギルドでもいろいろな情報が流れているはず。」

「うん、行ってみよう。」

 ロムを先頭にセラ、マックは冒険者ギルドへ向かう。


 ◇ ◇ ◇


 予想通り、冒険者ギルドは他国の冒険者でごった返していた。

 聞き耳を立てると聞こえてくる。

 お偉いさんの護衛でやって来た者、為政者の耳目になって行動する者、そして、要人の暗殺で一山当てようという危険な者。


 マックは、いろいろな冒険者に声をかけ、ロムをダシに冒険譚を聞きながら、彼らの出自や現在置かれている状況などを調べている。

 セラは単独で動いているが、こちらは同業者同士の苦労話を聞きながら、エールをあおる。

 結局、その日はギルドと近所の酒場で一夜を明かした三人の冒険者。


「で、収穫は?」

「ぼちぼち…そっちは?」

「そこそこ。」

 何故か二日酔い気味のロムと、こちらも絶賛二日酔いのセラが呂律ろれつも怪しく話始めようとする。


「二人とも、まずは寝ようか。」

 二人を宿屋のベッドに倒れ込ませるマック。

「お・・・や・・・すぅ。」

 二人ともベッドに倒れ込むと同時に夢の世界へ。

「ご苦労様、お二人さん。」

 そういうと、マックは宿を出る。


 そして、バルトや騎士団、クロウやロム、セラと話した路地裏に歩を進める。


「ようやく、ここに来ましたか。」

「何故ここに来たのか、聞かないのかいクロウ。」

「当然です、を見逃すあなたではないと思いましたから。」

「で、状況は、どうなっているんだい?」


 クロウとマックは自分たちが得た情報をすり合わせていく。


 今回の弔問で使節をよこして来たのは、神聖マロウ帝国、東シプロア連邦、西シプロア法国、そしてスイギリ王国。

 スイギリ王国を除けば、地続きの国境を接する各国が使節をよこして来たことになる。

 厳密にいえば、スイギリ王国も海を隔てているだけで、国境を接しているという点でいえば、他の三国と同じだった。


 そして、冒険者もほとんどが四つの国に所属していた。

 VIP護衛がついているのは、四か国とも同じなのだが、暗殺まがいの怪しい一団については、神聖マロウ帝国と西シプロア法国から来ているものが多く、為政者の耳目においては、すべての国から来ているようだった。


「まぁ、密偵や斥候を出すよりは、冒険者に委託したほうが、後々処理で困ることもなくて済みますからね。」

「ところで、王国の内部はどうなってるの?」

「東シプロア連邦からの工作員が多数入っており、反王政派に浸透していました。」

「何人ぐらい浸透していたんで?」

「暗殺者が一個小隊十数名、甘言や調略用の密偵が一個小隊十数名、連絡員が三個小隊四十名程度。」

「城内にそれだけの人間が入り込んでいる?

 さすがに、気付く人が居たんじゃないかなぁ。」

「いえ、八割方は、反王政派を構成する侯爵家や貴族たちの家に派遣されていました。」

「いました…てことは。」

「ここ二~三日の間に、王女の政権奪取イベントがありまして…。

 その際に、反王政派の侯爵家や貴族たちを無力化したついでに、工作員たちを捕縛し、現在はお城とは別のところに幽閉しています。」

「それで、ここ二~三日留守にしていたわけか。」

「そうです。」


「ところで、バルトは来ていないみたいだけど?」

「バルトロマイ卿には、東シプロア連邦使節団のお守りをお願いしています。

 万が一取り逃がしている工作員が使節に接触する事を避けるために。

 あと、皆さんが泊まっていたホテルに使が入るはずです。」

「あれ?神聖マロウ帝国の使節団が貸切ったとか受付嬢が言ってたように思うけど…。」


 マックの話で、クロウが少し考えこむ。


「問題あり?」

「分りません、情報が錯綜した結果なのか、故意で情報をすり替えられたか…。」

 クロウは城の方に向き直り

「とりあえず、私は城に戻ります。

 何もなければいいんですが…。」

「僕もホテルの方に行ってみるよ。」

「お願いします。それでは!」

 二人はそれぞれの目的地に向かって走り出す。


(単なる誤解であればいいんだけど、「冒険者が工作員」という事も含み置く必要がありそうだ。)

 マックは宿に向かう。

(あの二人が面白い情報を掴んでくれてることに期待かな。)

 走りながら苦笑するマック。

 どうやら期待できそうにないらしい。


 マックはホテルの裏口で店長を待っている。

「やぁ、マック今回はすまないねぇ。」

「いえ、お構いなく。ところで…」

 つなぎ姿の店長を捕まえ、マックは先程クロウと話した事について確認をした。


「そうか、こっちのお客は東シプロア連邦使節団というわけか。」

「はい。」

「だろうな、神聖マロウ帝国の使節ならこの街の教会に泊まられるはずだからね。」

「ということは、バルトの使者というのが偽物?」

「多分そうだろう。」

「ご主人、何気に落ち着いてるようですが…。」

「バルト卿から聞いていたのさ、街の中はもちろん、国の内外まで巻き込む事件が起こるってね。

 君が来て話してくれた事で、確信できたわけだけどね。」

「僕の話は信用に値するんですか?」

「バルトの盟友だろう、信用に値するさ!」

 店長がサムアップをすれば、恥ずかしそうにうつ向くマック。

「早速、迎える準備をしないとな。」

「でも、どうしてこんなイタズラを?」

「言いがかりをつけて、こちらの見せたくない腹を探ろうって魂胆があったのかもな。

 もっとも、ここで間違いが起こらなければ、こちらにも優秀な諜報機関があるって事で、相手に対するプレッシャーにもなる。」

「それって…。」

「戦争さ、情報をどれだけ掴み、整理し、相手にチェックメイトを突きつけるか…ってね。」

 ウィンクをする店長。

「これでも、元諜報に従事してたからね。」

 それだけ言うと、店長はホテルに入って行った。


 ◇ ◇ ◇


 マックが宿に着く頃、セラとロムが話し合っていた。


「よぉ。」

「遅いわよ、マック!」

「お寝坊さんに言われたくはないですね。」

 遅まきながらの朝食をとる三人。


 …というか、もうお昼ですよ。


「で、お二人の収穫は?」

 マックがようやく話に割り込める。


 話が出来た冒険者は、四か国から来た者たち。

 いずれもVIP護衛で街に入っているとの事。


 神聖マロウ帝国、東シプロア連邦、西シプロア法国から来た冒険者たちは、ともに、弔問の使者が侯爵クラスの人物ということで、道中の護衛が主な仕事で、それ以外の警護などは託っていないとの事。

 給金も護衛に色が付けてありホクホクとのこと。


「気になることといえば、東シプロア連邦から来ていた冒険者パーティーから何人かが、この街に入ったところで、姿を消したって、話しかなぁ。」

 ロムがセラの皿からちょろまかした肉を頬張りながら話す。


「冒険者パーティーは、全員が知己というわけではないのかな?」

「恐らくね。」

「ちょ~~、ロム、私の肉返しなさい!!」

 ロムの胸ぐらを揺らすセラを涼しい眼で見るマック。


「でも、神聖マロウ帝国は、知己かも知れないわね。

 だって、彼ら冒険者のふりをしているだけで、騎士団らしいわよ。

 ユウゲキセンモンって言ってたわね。」


「遊撃専門ね…。

 特殊部隊を送り込むって、何をかんがえてるんだか?」


「ねぇ、それって、紛争の兆し?」

「う~ん、多分違うと思うよ。」

(暗殺団として、遊撃部隊をあてがうのは、お門違いだしね。)

 不安そうな顔をするセラに、笑顔で答えるマック。


「そういえば、スイギリ王国の連中は酷かったよなぁ。」

「そうね、あれはないわ。」

 ロムとセラが意気投合する。


「どうしたんだい?」

「ちょうどマックが席を外した時かなぁ、連中、俺たちの装備にクレームを付けだしたんだ。」

「私なんか、夜伽のお誘いまでされたのよ!」

は考えないとね。」

「そうよ!!

 …って、ロムそれどういう意味!!」

「まぁまぁ落ち着いて。」

 ロムに掴みかかるセラを宥めるマック。


 スイギリ王国の連中に言わせれば、ロムたちの装備は、ロムたちには過ぎた装備である事。

 彼らにこそ相応しい品々であり、早々に彼らへ引き渡せと言い出したらしい。

「まぁ、この装備はクロウの手土産かも知れないからねぇ。」

「それは、そうなんだけど…。」

「変なことを言ってたのよね、『その装備は亜人・獣人の力を引き出すアイテムだ!』ってね。」

「スイギリ王国人って、亜人や獣人の類なのかな?」

「違うと思うよ、少なくとも僕たちが見た亜人っぽくはなかったしね。」


「恐らくなんだけど…」

 前置きをした上でセラが続ける。

「魔法を身に纏うことで、亜人や獣人と同じ身体動力を得ているのかもしれない。

 でもね、話を聞いていると、白魔法による身体強化とは違うみたいなの。」

「ふ~~む。」

 マックは考え込んでしまう。


「そういえば、先程クロウに会いましたよ。」

「クロウに??」

 二人が身を乗り出して、マックに迫る。


「実はですね…。」

 クロウにあった話、バルトの行動などを二人に話しながらマックは考えていた。

(本当に戦争するんじゃないよなぁ…)


 ロムとセラも残りのおかずを取りながら

(ゆ、勇者になれるチャンス!)

(今度こそ、報酬たっぷりよ!)

 どこか、お気楽極楽な妄想にけっていた。

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