第12話 崩御

 城壁の前に広がる堀のたもとを見ると水仙に似た青い花が幾本も咲いている。

 よく見ると葉先にカエルが佇み、こちらを窺っている。


 バルトとともに城門をくぐったところで三人は馬車ともども門兵に止められる。

「な、なに?どうしたの?」

 セラの驚いた声を聴くよりも早くバルトが馬車から飛び降り門兵に詰め寄っている。


「なにがあった?」

「先ほど、国王陛下が崩御されたという連絡がありました。」

「なに?!」

「恐れ入りますが、この瞬間より門を閉鎖します。」

「まさか、暗殺…」

「いえ、そのような話は受けていませんが、城から出る者は一旦留め置くようにとの指示を受けています。」

「そうか…。」

 バルトはゆっくりと馬車に乗る。


「何があったの?」

「国王陛下が崩御された。」

「…」

 放心状態のバルトが語った言葉に凍り付く三人。


 ◇ ◇ ◇


 バルトのはからいで、近衛騎士団待機室に通され適当な椅子に座らされ、慌ただしく騎士が出入りする部屋を散見しながら絶賛ひそひそ話をはじめる三人の冒険者。


「国王陛下が崩御された事は、残念な事だけど…。

 なんで、私たちここに居るの?!」

「セラ…まぁ、落ち着いて。」

「マック、何か心当たりない?」

「さぁ…。国王陛下が暗殺された、もしくは暗殺の疑いがあるとなれば、城内に居た人間全員の身体検査はあるだろうね。」

「でも、門兵はようなことを言ってなかったっけ?」

「厳密には、という話だったんじゃないか?」

「ロムってば、い~かげ~ん。」

「ぶぅぅ」


「ということは、暗殺の線も捨てられないってこと?」

「国王陛下の容態しだいかな。

 老衰からくる死去なら仕方ないとしても大方の人が納得できる。

 けど、ある時期を境に急激に容体が悪化の一途をたどったとなると、病気起因なのか、毒物服用なのか、と追跡調査は行われるかもね。」

「ひょっとして、今まさに追跡調査が実施されているってこと?

 なら、私たちは関係ないじゃない。」

ということになれば、城内に居た人間は疑う必要があるね。」

「なるほど…。」

「じゃぁ、マックよぉ。

 お城の中のお偉いさん達の中には、と信じているってわけかい?」

「恐らくね。」


 ◇ ◇ ◇


 しばらくしてバルトがクロウを連れて部屋に入ってくる。

「待たせてすまなかった。

 これから君らをホテルに送る。

 申し訳ないが、我々の隊が同行することになるので許して欲しい。」

「大丈夫です。」

 申し訳なさそうなバルトににこやかに答えるセラ。


「では、すぐにでも行くとしよう。」

 バルトに促され立ち上がる三人の冒険者とクロウ、そして騎士団員四名。


 一団は徒歩で城門を出ると、まっすぐホテルには向かわず、街道の脇に入りホテル街の裏手に出る。


 騎士団が四方を警戒する中、バルトを中心に立ち話を始める。

「すまないが、諸君らには一ヶ月程度ホテルに滞在して欲しい。

 もちろん、街の散策は構わない。」

「それはいいんだけど、理由は??」

 めずらしくロムが噛みつく。


になるかもしれないからさ。」

「私たちって、戦力になるの?」

 バルトの歯の浮くセリフに納得できないセラも噛みつく。


「まぁ、騎士団よりも自由は利くかな。城内はダメだけどね。」

 マックが肩をすくめる。


「そういうことだ。調べ事をするには、我々の顔は知られすぎている。」

「クロウはどうするの?」

「私は大人しくホテルに待機しています。他のメンバーとの連絡役もしないといけませんからね。」

 

 今まで見たことのない雰囲気のクロウに驚く三人。


「期待してますよ、

 クロウさん。」

 バルトもサムアップで答える。


「さて、話はここまで。

 そろそろホテルに帰らないと門限過ぎて…。

 あ~、のぉ~じゅ~~ぅくぅ待ぁったぁ~なぁ~しぃ~!」

 バルトが歌舞伎よろしくを切る。

 呆れる四人と、背を向けたまま笑いをこらえる騎士団御一行。


 その一団をホテル街の影から観察する一人の影。

 観察していた一団が影のもとに近づくと、影はそれこそホテルの影に溶け込んで消え失せる。

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