第11話 凱旋

「お頼み申します。」

 クロウが飛竜騎士を従えて宿屋にやってきた。


「は~~ぃ」

 奥から女将さんの声が聞こえてくる。

 程なくして旅装束に身を包んだ三人の冒険者が姿を現す。


「女将、世話になった。」

「女将さん、本当にお世話になりました。」

「また来るから、その時は、おいしい料理を頼むぜぇ!!」


「はい、皆さまのお越しをお待ちしております。」

 三者三様の挨拶に、女将もにこにこして答える。


 外に待機している飛竜に乗り込む三人の冒険者。

 クロウが女将に二言三言挨拶をし、飛竜に乗る。


 飛竜はゆっくりと浮上、街を三周し帰国の途に就く。


「それにしても、クロウに会ってから急ぎ旅ばっかりよねぇ~。」

「お恥ずかしい限りです。」

 セラの一言に恐縮するクロウ。


「別にクロウが悪い…わけないよなぁ?マック。」

「ん~~。クロウがというより、いろいろなモノがタイミング良く重なったと思うな。」

「だよなぁ~~。」

 珍しくマックの肩を持つロム。


(まぁ、誰かの気がしなくもないんだけど…)

 ぼんやりと空を眺めながらマックは考えていた。

(まだ、僕たちの知らないところで今回の一件を操ってる奴がいる!)


 赤い台地が徐々に無くなり、草原・林、緑が地表を多いはじめ、やがて人家・村・街道が姿を現す。


「おい、見ろよ!俺たちの根城がぁ…って、もう見えなくなった。」

 デジャーブを地で行くロム。


「で、どこに降りるの?」

「城壁の街が望める丘に降りようと思います。

 あまり街に近いと、思わぬ事で足をすくわれるかもしれませんから。」

「そう…。」

 クロウの答えに少し残念がるセラ。


「別動隊の到着段取りもあるので、あまり目立ちたくないのです。」

「わかったわ。…歩くのが面倒なだけよ。」

 心の声が漏れてますよ、セラさん。


 日が沈みかけるころ、何とか壁門までたどり着きバルトへ取り次いでもらう。

 日も沈み夕闇が街を覆い始めるころ、ようやくバルトが門にやって来る。

「よぉ、お早いお帰りで。」

「ただいまぁ。」

「戻りました。」

「さぁ、ごはんごはん!」

 ロムだけ挨拶を忘れて食堂へ向かって一直線!

 バルトを含む全員が残念そうに彼を見やる。


「で、クロウの主ってのはどんな奴だった。」

「とっても素敵な紳士でした。異世界の転生者で、五百年前は私たちと同じ冒険者で…」

 セラの目が輝く

(あぁ、あかん、これ止まらんやつやった…)

 歩きながら話を聞かされるバルトさんだった。


 ◇ ◇ ◇


 しばらくして、食事も出そろったところで土産話の開幕である。

「うまかったなぁ、旅館ってところで出される懐石って料理なんだけど、個人用の四角いテーブルに大きさや形の異なる食器がいくつも並び、それぞれの器に繊細に盛り付けられた食材。

 一皿ずつ楽しむのも良し、複数の食材を取り混ぜて食べるも良し。」

「ふむ、では、ここでの食事は遠慮したいという事か…。」

{わぁ~~~~、バルト、ちょ、ちょ、タンマタンマ、それを持って行かないでぇ!!」

 食事の感想を言っていたロムの手元から、メインディッシュを取り上げようとするバルト。


「食事も良かったが、何と言っても住人のほとんどが亜人・獣人という点には驚きました。」

「亜人・獣人が住民だって?!」

「はい、主の国民はほとんどが亜人・獣人です。」

「そ、そうなのか…」

 三人を見やるバルトに、にこにこ顔で答える三人。


「明日到着する部隊も、亜人・獣人の混成部隊になりますので、よろしくお願いいたします。」

「は、はぁ…」

 クロウの言葉に声を失うバルトだった。


「心配ないって!

 バルト好みのせくし~おねぇさまもいるから…さ!」

 意気消沈気味のバルトと、彼の背中をバンバン叩く陽気なロム君。

「恐らくだけど、我々にはないスキルや潜在能力を多数保持していると思います。」

 マックが補足する。


 クロウがゆっくりと立ち上がり、待合フロアーに移動していく。

 セラがクロウに声をかけようとして待合フロアーを見ると、いつか見た「深々とローブを被った人の姿」が目に留まり、声をかけるのを留める。


 クロウは手紙を取り出し、ローブ姿の人に手渡す。

 二言三言言葉を交わした二人はその場で別れ、クロウはセラ達の下へ。

 ローブ姿の人は外に出て行った。


「クロウ、あの方は?」

「はい、こちらの王女殿下の使節です。」

「そうなの?バルト。」

 セラがクロウからバルトの方を見る。

「あぁ、王女殿下お抱えの侍女さ。」

 料理を頬張りながらバルトが答える。


 食事も一段落したところで、バルトが切り出す。

「クロウさん、我々は明日どこで待機すればいいのかなぁ。」

「私たちがここから出立したところになります。」

「ひょっとして、また飛竜で来ちゃいます?」

「はい、貴国の王女殿下は事を急がれているようですので。」

「だよなぁ…。

 もう少しゆっくりしていたいんだが。」

 クロウとの話を終え、ゆっくり立ち上がるバルト。


「諸君、私はここでおいとまするよ。

 明日は、王女殿下との謁見もあるからほどほどに頼むよ。」

「はぁ~~い。」

 素直に返事をする三人の冒険者。バルトは肩をすくめて外に出て行った。


 ◇ ◇ ◇


 初めて会った時は領主の館だった。

 ピンと張りつめた空気に押しつぶされそうな状況で彼女に会った。


 いま、サロメ王女の前に膝をかがめこうべれている三人の冒険者と主持ちの紳士。


「良く戻りました。」

「はい、サロメ様。」

 女性同士の声が響く。


「今朝、クロムウェル卿を通して応援をお願いしていた部隊が到着し、早速活動に入っていただきました。

 クロムウェル卿ありがとう。」

「恐れ入ります。」

「今後とも、貴国とは良好な関係を維持したいですね。」

「はい、仰せの通りです。」

 クロウは深々と頭を下げる。


「このまま、土産話を聞きたいところなのですが、今日は時間が取れそうにありません。

 後日改めてお話を伺わさせてもらいましょう。」

「御意。」

 返事をすると、三人の冒険者は謁見の間を出る。

 クロウはまだ用事があるらしく、そのまま残された。


 扉が閉ざされ、戸口にはバルトが立っている。

「ホテルまで送ろう。」

「クロウさんは??」

「女王殿下との打ち合わせがまだ残っているみたいだね。」

 セラの質問にウインクし、三人を促すバルト。

 しかし、彼らが城門を抜けたところでスフラン王国に風雲急を告げる事態が発生する。

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