第8話 出立
城壁の街について三日が経過したころ、王女からの書状が以外に早く届いた。
昼食を取りに繰り出そうとする冒険者たちの前にバルトが現れる。
「クロウ殿、これがお待ちかねの書状だ。
君も内容を一読したうえで、主に届けた方がいいと思うよ。」
「恐れ入ります。」
クロウはバルトから手紙を受け取り、中身の書面に目を通す。
「…ありがとうございます。
主も喜ぶでしょう。
くれぐれも王女殿下にはよろしくお伝えください。」
お辞儀をするクロウを前にバルトは動こうとしない。
「???」
四人が不思議そうに首をかしげていると。
「さぁ、お昼を食べに行こう!」
いつもののんきな調子でバルトが四人を食事に誘う。
この三日でバルトと四人はすっかり仲良くなった。
近衛兵が日がな一日王族の警護もせず、おのぼりパーティーの世話をするのはどうかというマックの心配をよそに、
「私は非番だからねぇ。」
とおどけるバルトだった。
「ところで、いつ帰国するんだい。
クロウ。」
「そうよ、馬なり馬車なり手配しないといけないのに、あなたったら一日中町を散歩してるしぃ。」
「そういいながら、セラも一緒になって観光してたよなぁ…むぎゅうぅぅ」
バルトの質問、セラの突っ込み、押さえつけられたロムのボケ、なんとも賑やかな午後の食卓だった。
「その事でバルトロマイ卿にご相談があるのですが。」
久々にフルネームを聞かされたバルト、セラとロムはもちろん、マックに至るまで食べているものを吹き出しそうになり、あわてて口を押える。
- しばらくお待ちください。-
「相談というのは?」
「明朝、主の使いがこちらに来ますので、できれば壁の向こう側に留まることを許していただければと。」
「ん?いいんじゃないかなぁ。」
「ありがとうございます。」
「お礼をするほどの事でもないよ。
明朝の出立には私も立ち会うし。」
「私たちもクロウのお供をしていいかしら?」
セラがウルウルの上目遣いでクロウを見つめる。
「お断り…出来ませんねぇ。」
ロムにマック、そしてバルトまでが
「分かりました、警護をお願いいたします。」
「やったぜ!」
「クロウの故郷ってどんなところなんだろう?」
「興味深いです。」
「うむ。」
ガッツポーズのロム、目を輝かせるセラ、二人仲良く相づちを打つマックとバルト。
そして、若干不安げなクロウ。
その後、一息ついて目の前の料理に舌鼓を打つ一同。
「本当に大丈夫でしょうか?」
そんな中、ポツリとつぶやくクロウであった。
◇ ◇ ◇
「それでは、私はここで失礼する。君たちも旅支度を忘れないでくれよ。」
ウィンクを残してバルトが去っていく。
「私は、使いの者との会合点を確認したいので、城壁の向こう側を散策します。」
「私も…と言いたいところだけど、旅支度を済ませたいから、私たちもここで。」
「えぇ~~~、あっちの方がきっと楽しいぞ~~。」
「ロムは、私たちと一緒に行くの!!」
駄々をこねるロムをマックが担ぎ上げ、セラと一緒に宿屋へ戻っていく。
三人を見送り、城壁の入口へと歩き出すクロウ、すると人の気配が離れたのを見計らい1羽の鳥がクロウの方に降りてくる。
「はい、首尾よく整いました。」
鳥に語り掛けるクロウ。
「ええ、お守りも三名同行します。
はい、予定通りです。」
鳥はクロウを離れていく。
「この国の王女様もなかなかどうして、喰えない御仁です。」
鳥はクロウの上空をゆっくり二度旋回し東の空に吸い込まれるように消えていった。
「あなたにも会って頂きたい、麗しき令嬢ですよ。」
◇ ◇ ◇
翌朝、クロウを含めた四人の冒険者と、それを見送るべく集った10名程度の騎士団が城壁の外で待機している。
街道の先にある丘からは、馬車が現れる気配もない。
「で、いつになったら迎えが来るんだい?」
ロムが焦らされておかんむりだ。
「馬車?
お迎えは馬車よね?」
セラがワクワクしている。
騎士団も焦らされ気味で悶々としており、バルトが部下を勇めてるのが見える。
「来ます。」
短く言葉を発し、空を見上げるクロウ。
全員が同じ空の一点を眺めていると、黒い点が現れ、徐々に彼らに近づいてくる。
日差しを背に受け現れたのは
「威力偵察か??」
居並ぶ騎士団に緊張が走る。
飛竜から騎士が降り立ち、クロウの前に膝をかがめる。
「クロムウェル卿、お迎えに上がりました。」
ゆっくりと立ち上がると、お供の三人に向き直り、彼らの前で膝をかがめる。
「クロムウェル卿の警護ご苦労様です。皆さまも客人として手厚く遇する様、わが主より承っております。」
騎士は四人を飛竜の上に
「この度は、わが主に対する、かくも寛大なる計らいを賜ったこと、感謝いたします。
サロメ王女殿下に置かれましては、
騎士はゆっくりと立ち上がると続ける。
「我らが主、アキラ王は貴国の窮状を救うべく、最善の力をサロメ王女殿下と貴国にお預けになります。」
「汝の主、アキラ王の言葉、しかと我らが主に伝えましょう。」
二人の騎士は固く握手をする。
「それでは、後日お客様をお届けにお伺いいたします。」
「うむ。」
騎士が飛竜の背にまたがると、飛竜はゆっくりと浮き上がり、太陽に向かって飛び去った。
◇ ◇ ◇
「あ、あのぉ~~、た、隊長…」
「ん、どした?」
団員の一人が今見た光景を理解できていないようで、バルトに質問してくる。
「我々の後ろ盾は、国王さまでは?」
「そうだ。
そして、手札は多い方が良い。」
飛竜の飛び去った空を眺めるバルト。
「魔王が動いていたことは知らなかったが、それを取り込む我々の王女様も喰えない御仁ですよ。」
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