第7話 王都の夕暮れ
「あ…頭が痛い。」
昨夜はおごりということで、いつもより上等なエールと高級なツマミに囲まれ、いつになくハッスルしたロムは絶賛二日酔いに
隣を見るとマックがいる筈のベッドはもぬけの殻となっていた。
「頭の痛みが取れるまで…もう少しぃ…」
再び眠りに落ちるロム君だった。
「王都に近い割には、人が少ないような気がするんだけど…」
「セラもそう思いますか。」
マックとセラが朝の街道を散策している。
「場所の問題かしら?」
「ふむ…場所の問題ではないかもしれないですね。」
ちょうど目の前を完全武装した騎士団一個小隊と補給の馬車部隊が横切っていく。
「ここは王都のお膝元ではあるけれど、前線基地では無いはず…。」
「ご近所で野盗の団体かモンスター御一行様がお越しになったとか?」
茶目っ気たっぷりに毒づくセラ。
「あんまりお迎えしたくないお客さんたちだねぇ。」
しかめっ面で答えるマック。
「ま、いずれの相手をするにしても、騎士団一個小隊は大げさかな。
補給部隊を伴っている所を見ると、目的地はこの近所というわけではなさそうですしね。」
冒険者であれば、各々の装備と生活品をバックパックに詰め込んでクエストに望むものだが、騎士団一個小隊が動くとなると装備や消耗品だけでもそこそこの分量になる。
ましてや、戦闘集団だけで行動していては、思わぬ消耗戦を強いられると困ったことになる。
危険だからと彼らが持ち場を逃げるわけにはいかない。それこそ国が
仕事のやばさと報酬を天秤にかけれる冒険者と違い、仕事を選べない騎士団にとっては、生きて帰るための最低限の備え、可能であれば、敵を排撃できるだけの準備を持って死地へ赴くのである。
「他国にケンカでも売るのかしら?」
「買ってくれそうな国は少ないと信じたいですね。
もっとも、この数十年で国家間の紛争は無かったと思いますが…。」
「クロウの主ってどこの国の王様なんだろう??」
想像を膨らましにこにこ顔のセラ。
小隊を見送りながら思慮を巡らすマック。
(なぜ、クロウはわざわざ王都に呼ばれた?
彼の主が関係しているのか?
本当に他国との紛争が起こってしまうのか?…)
「なぁ、セラ…」
「うん??」
「僕は、スフラン王国と神聖マロウ帝国との
「どうしたの?」
「今って、紛争が起こるような世界情勢だったりするのかな?」
「そういううことは、バルトに聞いた方が早くない?」
「それも、そうか。」
そうこう話していると、別の騎士達が鎧甲冑姿で走っていく…
「それにしても、こんなに騎士を見かけるものでしょうか?
それとも城下町というところは、このようなモノなのでしょうか?。」
「そうねぇ、ちょっと多い気もするけど…」
マックが質問しセラが答えていると、奥の方でも騎士達が走っていく、こちらも完全武装である。
(紛争なのかなぁ…何とも穏やかじゃない。)
マックはため息をつきセラと一緒に歩を進める。
◇ ◇ ◇
「内輪揉めさ。」
「はいぃぃ?」
食事の席で、バルトから返ってきた言葉に固まるセラとマック、ロムはおかずを頬張りながら三人の会話を聞いている。
「言った通りさ。
この国は次期国王の座を巡って
「じゃぁ、騎士が右往左往しているのは、なんで?
まだ、内戦というわけでもないでしょ?」
先ほど見てきた騎士達の素行を思い返しながらセラが質問する。
「うん、内戦にはなっていないが、派閥争いは始まってるね。
どこの家も力を鼓舞したいから、騎士の引き抜きを始めてるわけさ。」
「それで、わざわざ鎧甲冑姿で街中を闊歩するのかい?」
「強力な騎士団が集えば、きっと他家からも一目置かれる。
…と、幼稚な発想かもしれないが、彼らも必死なのさ。」
バルトの答えに納得出来ていないマックと、肩をすくめて見せるバルト。
「ところでバルトは誰の下に付くんだい?」
ロムが話に割り込んでくる。
「私は立場上、サロメ王女に従う。…立場上ね。」
バルトはウインクし、そっとつぶやく。
「それに今は、内輪揉めをしている状況じゃないんだよねぇ。」
「クロムウェル氏の登場がこの状況を一遍させるかもしれないからね。」
マックが言うとバルトも肩を竦めている。
「まぁ、王女殿下の交渉次第かな。」
「そういえば、例の品々については何か解ってきたのかい?」
「ああ、装飾の特徴から西シプロア法国製だろうということだった。
まぁ、保存魔法だけは検証できていないんだがね。」
「クロウは、やはり嵌められていたと?」
「すべてを肯定出来るわけではないが、敵になって欲しくはないかなぁ。」
マックとバルトが話している後ろからクロウがゆっくりと入ってくる。
「みなさんこんばんは」
クロウの声を聞くとバルトの顔に安堵の笑みが見える。
「クロウ、お帰り。」
「よぉクロウ、用事は済んだかい?」
セラとロムが話しかける。
「はい、良い土産が出来ました。」
にっこりと笑うクロウ。
◇ ◇ ◇
「王女様の話はどうだったんだい?」
「王女様へ加担することと引き換えに、わが主の頭痛の種を一つ取り除いていただけることになりました。」
「あらら、結構な取引をされていたのね。」
「はい。」
バルトと別れ宿屋に帰る途上、ロムとセラがクロウを囲みキャッキャと話している。
「で、いつ出発するんだい?」
「もう四~五日こちらに滞在し、王女様の書状を受け取りしだい、主の元へ戻ります。」
マックの問いにクロウは答える。
「この国の事情については、どこまで聞いたんだい?」
「そうですねぇ…」
クロウが聞いた話は、おおよそ次の通りだった。
スフラン王国は、内政的に不安定であり、外交的にも東シプロア連邦からの侵略に晒されている。
内政に関しては、現王が倒れたことによる後継者争いに端を発しているが、長らく現王より冷遇を受けてきた一部の貴族が隣国の王侯・貴族に助力を乞い、隣国の侵略を招きかねない事態が生んでいるのだ。
王女としては、一刻も早く事態の収拾を図るべく自らが王位に就き、隣国からの侵略を阻止したいという事だった。
不幸中の幸いといえば、現王は衰弱しているとはいえ、崩御したわけではないこと。侵攻に関心を示している国が東シプロア連邦にとどまっているということだった。
「王族としての威光と権力を示すためにも、君らの応援が必要…と。」
「そのようです。私たちも東シプロア連邦とは浅からぬ因縁が…。」
マックの話に乗り、しゃべりすぎたクロウが、はっとして自分の口を塞ぐ。
「まぁ、いいお土産だね。」
「はい。」
「ところで、どうやって主に伝えるんだい?
時間があるとはいえ、相手がいるのだから、悠長にもできないだろう?」
「はい、策は講じます。ご心配には及びません。」
胸を張るクロウ。判目開きのマック。モグモグタイムのロムとセラ。
彼らの日常が戻ってきた。
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