第4話 契約

 部屋に通され、しつらえられたソファーに座るよう騎士に促される三人。


 三人が一列に並んで座ると向かい合うように騎士が座り、話し始める。

「相当驚いているようだね。

 でも、先ほど王女殿下に報告した通り、君らの見つけた馬車は無くなっている。

 君らが持ち帰った荷物を残してね。」

「驚きましたけど、不思議はありません。

 あの馬車が存在したこと自体が不思議ですから。」

 セラが幾分落ち着きを取り戻したのか、ポツリポツリと話し出す。


「荷物の中身はもちろんですけど、外装の汚れ具合と馬車が発見された時間の辻褄、ゴブリン達が身に着けていた装備の持ち主たち、馬車を引いていた馬たちの行方…」

「お粗末すぎるんですよね…ご都合すぎるというか、いかにも積み荷を持ち帰れと言わんばかりで。」

 マックがいぶかしがる。


「んで、持って帰って大騒ぎを起こす僕たちって…ムギュウゥ」

 ガッツポーズを取ろうとするロムを頭ごなしに抑え込むセラ。


「それはさておき、君たちに依頼をしたいのだが…」

「はいぃ??」

 セラとマックの声がをそろう。


「クロムウェル氏を監視してもらいたい。」

「それは…ムギュウゥ」

 口ごもるロムを押しのけるセラ。


「それって、日当?月給?出来高?ボーナスとかは?」

 矢継ぎ早に質問するセラを横目にマックがため息をつく。


「僕たちに依頼がかかるところに不安を感じないんですか?」

 騎士の方に向き直るマック。


「そうだ。この依頼を受けないとに立たされる。」

「ですよね。」

 ニヤリと笑う騎士に、肩をすくめるマック。


「どういうこと?」

 セラがマックを見やる…ロム君は頭を押さえられたまま。


「依頼を断れば、僕らは刑務所行き。

 依頼を受けても、今回の件のお咎めがなくなるだけで、報酬は期待薄ってところかな。」


「まぁ、そう悲観するものでもない。」

 騎士が一枚の紙をテーブルに置く。

「彼の監視は名目上で、見聞けんぶつのお供をしてもらえばいい。

 宿の手配や費用もこちらで負担する。」

「馬車とかの旅費は?」

 セラが食い下がる。

 あっと、ロム君の頭を押さえた手に力が…。


「到着した先の宿で、経費処理をしてもらえば、面倒を見よう。」

「よし乗ったぁ!」

 ロムがセラの手を振りほどき、ガッツポーズで立ち上がる。


「オイオイ」

 セラとマックが声を合わせて、ロムを見る。


 ◇ ◇ ◇


 一通り場が落ち着いたところで、騎士が話を続ける。

「まぁ、あちらこちらと出かけるほどの暇は無いと思うがね…」

「???」

 ロムとセラは不思議そうな顔


「まさか!

 クロウが謁見しているのは…」

 マックが青い顔になり、騎士も頷く。


「サロメ王女殿下さ。」

 腑に落ちたマックは、別の意味でため息をつく。

(さてはて、どこに行くことになるのやら…)

 マックは窓の外を眺めて、またため息をつく。


「恐らくだが、近いうちに彼の故国に行くことになると思うよ。」

「???」

 騎士の言葉に、さらに不思議そうに目をぱちぱちさせるロムとセラ、深く息を吐くマック。

(やっぱり…)


「念のため伺ってもよろしいですか?」

「何かな?」

「貴公のお名前を教えてもらいたい」

 マックは退路の確保を込めて騎士に質問する。


「スフラン王国 第二近衛騎士団 バルトロマイ。

 バルトと呼んでもらってかまわない。」

 マックの質問に答えると騎士バルトは、ゆっくりと立ち上がる。


「まぁ、となりの話がまとまるまで、もう少し待っていてくれ。」

 バルトはそう告げると部屋を出て行った。


 バルトを見送ったロムとセラがマックに向き直る。

「で、どういうこと??」

 二人が同時に同じ質問をする。


 マックが残念そうな目で、二人を見る。

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