第3話 疑惑

翌朝、ロムが冒険者ギルドの入口で待っていると、クロウが宿屋の方から歩いてくるのが見える。


「よう、クロウ。おはようさん!」

「おはようございます、ロメオ様。」

「ロム!でいいよ。

と、クロウに会いたくてここで待っていたんだ。」

「私に?」

「とりあえず、立ち話もなんだし、昨日の酒場で話さないか。」

戸口の前で男が話しているのは、流石に邪魔以外の何物でもなかった。


「で、あの馬車の荷物が問題になっているんだ。」

「はぁ…」


ロムの話は次の通りだった。

彼らが持ち帰った宝物のほとんどは、冒険者ギルドを通して、方々の商店に転売されていき、彼らの懐を潤してくれた。

だが、転売された先が貴族に届いたところで「これは、ではないか?」という嫌疑がかかり、売り元の彼らに話が返ってきたのだという。


「衣服の趣向は貴族方の関心を引き、武器の装飾が宮廷に献上されるものよりもはるかにきらびやかであるとか…。

おまけに、鑑定を行えば、ばかりということで、相当な騒ぎになったようでね。」


ロムがエールを飲みながら話を続ける。

「その日のうちに近衛騎士団が僕らを捕まえにやってきたって訳だ。」


「ちょっと待って下さい。荷物を渡したのってですよね?

…話の展開が早すぎませんか?」


「なんでも、ここの領主が宴席を開いていた上に、この国の王女様が滞在され、商人たちが早速売り込もうと商魂逞しくしたのが原因らしい。」


「は、はぁ…。で、私への用向きは?」


エールを前に怪訝けげんそうな顔をするクロウを横目にロムは続ける。

「あの馬車の荷物が事の発端だけど、クロウの見聞旅行のトラブル(穴あき財布の一件)がどうにもしっくりしなくてね…。」


「あの馬車がクロウ、あなたの持ち物であれば、あなたの見聞旅行と辻褄つじつまが合う気がするんですよ。」


クロウの背後にマックが彼を見下ろすように立っている。


「というわけで、私たちに同行いただける?」

セラがマックの背中から顔をのぞかせる。


「わかりました、お供いたします。」

クロウは渋ることもなく、三人に同意した。


「よかったよ、断られでもしたら、いよいよ困らないといけないからね。」

マックはゆっくりと酒場の入口に目を向けた。


そこには、マントを羽織り帯剣した騎士が二人、たたずんでいる。


「では、参りましょう。」

セラがクロウの手を取り、彼を席から立たせる。


◇ ◇ ◇


領主お偉いさんの屋敷はどこでも広いのだろう。装飾品に調度品が至る所に整然と並んでいる。


ロムとマックは壁の装飾品、調度品に目を奪われ、あっちこっちと見ながら落ち着きがない。


セラは赤面してうつ向いている。

クロウは目を閉じ佇んでいる。


一団の少し後方に控えた二人の騎士が、ロムとマックの落ち着きのない態度に苦笑を浮かべている。

かすかに聞こえる苦笑の声にセラは耳まで赤くなっていく。


「サロメ王女殿下が入室されます。」

部屋に響き渡る侍女の澄んだ声に合わせ、騎士が片膝をつき、謁見を受ける体制をとる。


セラも片膝をつこうとするが、ロムとマックは気にする風もない。

「あなた達も、膝をつくの!」

二人の頭を捕まえ、抑え込むセラ。ロムとマックは片膝をつくというよりも土下座体制になっている。


クロウは騎士と同じく謁見を受ける体制をとる。


程なくして王女が部屋に入ってくる。


王女は略礼服に身を包み、しつらえられた椅子に座ると侍女に目を向ける。


「みな、表をあげなさい。」

侍女の声に促され、全員が顔をあげる。


「今回の品々、出所売り元はあなた方ということで間違いありませんか?」

澄んだ声が響き渡り、瞬く間に緊張で空気が凍り付き始める。


「はい、サロメ様」

セラがさらりと返答する。どうにも、この子は肝が据わっているらしい…ロムとマックは空気にのまれている。


「そうですか…」


王女がゆっくりと話し始める。


話の要旨は次の通りだった。

1.衣装に使われている生地が、王国内で流通している品と異なっている

2.衣装に施された装飾品、貴金属や宝石などの加工技術が先進過ぎる

3.剣や鎧などの装飾品に始まり、壷や皿などの調度品に至るまで、その細工・加工技術が先進過ぎる

4.保護魔法の強度が尋常でない


どれもが、王国の安寧あんねいを揺るがしかねないものだった。


とくに4つ目に至っては、魔法の構成要素が既知のものと異なっており、出所次第では国の存亡に関わるほどだという。


「ところで、馬車はありましたか?」

王女が後方の騎士に質問する。


「馬車はありましたかぁ~~??」

三人が怪訝けげんそうに顔を見合わせる。


「殿下、該当する馬車は見つかっておりません。」

騎士の返答に三人の顔がみるみる青くなる。


ゆっくりと三人がクロウに視線を向けると、彼は顔色一つ変えず、何事もなかったように落ち着いている。

「馬車が止めてあった形跡もありませんでしたか?」

「彼らの答えていた場所には、確かに馬車が止まっていた形跡はありました。」

「しかし、馬車が無い…と。」

「御意にございます。」


騎士の返答に、いよいよ声が出なくなる三人と、不思議そうな顔をするクロウ。


「…」

王女が合図をすると、後ろに控えていた騎士が立ち上がり、三人とクロウを別々の部屋に入るよう促してきた。

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