第2話 三人組とおじさん
一通りのコース料理に舌鼓をうつ燕尾おやじ
「申し訳ございません、ご馳走していただきまして。」
「いえいえ、どんどん食べてくださいね。」
とにこやかにセラが言えば、
「こっちも、臨時収入でホクホクだからね。」
ロムが財布をゆすってみせる。
燕尾おやじ曰く、馬車にもかなりの荷物があるとのことで、ロムたちが内を覗き込んだところ、ことごとくカギが壊された貴重品箱が転がっており、装飾の施された武器やら、貴族向けであろう可憐なドレスやモーニングコートなどが多数収められていた。
馬車の外観を見れば、牽引用の綱が引きちぎられた形跡から、ここ半月は放置されていたような雰囲気ではある。
馬車を引く馬の死体はなく、ゴブリン達が群がっていたわりには、荒らされた形跡もなかった。
燕尾おやじがこの場所を発見した時は空腹すぎて、食料品以外は眼中になかったとのこと。
結局食料は見つからず、馬車の
「それにしても変な話よね。」
とセラがつぶやけば、
「何がだい?」
とおどけるロム君
「だって、私たちもあの周辺を通ることがあるのに、馬車を見つけたのは今しがたよ?どこに隠れていたのかしら?」
「う~ん、ゴブリンどもが旅行者や冒険者の餌になるように準備したとか?」
「そんな知恵がゴブリンにあると思う?」
「剥ぎ取ったものを身に着ける程度の知恵はあったようだけどな。」
二人の雑談に横やりを入れながら、マックが席に戻る。
「にしても、あいつらが着けていた装備もほとんど痛んでなかったよな。よっぽど、俺たちの装備の方が酷いありさまだった。」
と苦笑しながらロムが続ける。
彼らもゴブリンから剥ぎ取った装備を、ちゃっかりと使うことにしたのだ。
三人が話をしていると、食事を終わらせた燕尾おやじがゆっくりと立ち上がり、
「あいさつがすっかり遅れてしまいました、私はクロムウェルと申します。」
主人に対する召使の礼よろしく挨拶をした。
「こちらこそ!あぁ、こいつがセラで、となりがマック、俺はロム…ヴェネット・ロメオだ。」
「セラ、もとい、フィレア・シェリーヌです、よろしくね。」
「ヴェネット・マッケンジー…愛称がマックです。」
三人三様の自己紹介をする。
「マッケンジー様とロメオ様はご兄弟ですか?」
クロムウェルが聞き返すと、
ロムが大げさに手を振って
「あぁ、違う違う、僕たちは兄弟や親戚筋でもないよ。」
と答えれば、
マックは不機嫌そうに
「こんなのが、兄弟というのは不愉快です。」
と受け合う。
「何だとぉ!!」
「まぁまぁ、落ち着きなさいよ。」
取っ組み合う二人を仲裁する女の子が一人
「俺たちは、同じ村の出身なのさ。」
取っ組み合いながらロムが答える。
極々平凡な酒場の食事風景だった。
「ところで、クロムウェルさんは、どこから来られたの?」
セラが興味津々に聞いてくる、ロムも目を輝かせているが、マックはそっぽを向いている…のだが、聞き耳はしっかり立てている。
「私のことは、クロウと呼んでください。」
クロウはゆっくりと語り始める。
「私がこの近くに来ましたのは…」
クロウの話を要約すると…。
ここよりもはるか東にある国で、自分はそこの王様に仕えている。その王様が、諸般の事情で
無論、国益にかないそうな文物があれば買い求め、必要に応じて輸入も含めた外交交渉をする権限も与えられているそうだ。
「ただ、旅の途中で財布に穴が開いていたらしく、すっかりお金が無くなり、空腹を抱えたまま…この有様です。」
しおらしくなるクロウにロムは笑いをこらえ、マックは目を閉じる。
「ところで、あなた方は冒険者なのですか?」
「えぇ、そうよ!」
胸を張ってどや顔のセラに、ロムも併せて胸を張る。
「まぁ、村の食い扶持減らしに
肩をすくめて自虐気味にマックが答える。
三人はため息をついて、話を続ける。
「私は四姉妹の末娘、姉さんたちは嫁の貰い手があったんだけど、私の順番がまわったところで、お父さんが病死。結婚に出せるような相手もいなければ、自前の資産もなく、お母さんの行く末を見届けたところで、村を追い出されたわ。」
残念そうな顔をするセラ。
「俺たち二人は商家の次男坊同士、お店を暖簾分け《てんぽかくだい》出来るほどの人が村に居ないので、村の外で
腕を組んで宙を見つめるロム
「そんなわけで、この町に来て…。この町で出会った我々は、商才もなければ、
マックがゆっくりと締める。
しばらくの沈黙が流れる。
「それで、クロウさんの
セラが話を切り出す。
「そうですね、とりあえずこの町で一息ついてから、どうするか考えます。」
「宿とかはどうされるんです?」
「そうですねぇ…あぁ、私、持ち合わせがなかったんです。」
慌てるクロウに、吹き出す三人
ロムが財布から幾分かの金貨をクロウに手渡す。
「当座はこれで凌ぐといいよ。あと、稼ぐんだったら、冒険者ギルドに行くのが最短だね!」
ロムがサムアップをすると、それを合図に三人は立ち上がり、酒場を後にする。
残されたクロウは酒場のカウンターに向かい、宿の当てを聞き始める。
「ロム、彼のことどう思う?」
宿に戻る三つの影が、月に照らされ長く伸びている。
「そうさなぁ、見てくれはいかにも執事だよなぁ。」
「私もね、身に着けている衣装はそれっぽいし、王様の見聞役》というのも、
「あの衣装の耐久力が尋常じゃないのか、あの人の体躯が尋常じゃないのか…」
ゴブリンに袋叩きにあっていたクロウの姿が三人の脳裏をよぎる。
「そこなんだよ、マック!」
ロムが相づちを打ってマックに向き直る。
「まぁ、血が出ないまでも打撲なりアザなり出来そうなものだし、服にしても相応のキズは入りそうなものなんだけどな。」
「ロムにしては、珍しい観察眼ですね。あと、近くにあった馬車がどうにも気にかかります。」
「珍しいだけ余計だよ!…確かに、あの馬車もあきらかにおかしかった。」
「
セラも
「彼が諸国を回って
マックが考え混んでいる。
「しばらくは、様子を見ていた方がいいかしら?」
セラが二人の顔を交互に見る。
「異議なし!」
「同じく。」
「であれば、もう少し彼にはここに留まってもらいましょう。」
セラがくるりと向き直り、前を歩き始める。
「さてさて、どうやって引き留めたものか?」
ロムが真剣なまなざしで前を向く
「案外、すんなりと行くかもしれないぞ。」
マックが前を眺めほくそ笑む。
三人の宿屋の前には、王家紋章のマントに甲冑で身を固めた騎士が数人立っていた。
「近衛騎士団の登場だ!」
マックは思い当たる節があったのだろう、颯爽と宿屋に歩を進める、ロムと前を歩いていたセラも慌ててマックの後を追う。
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